第1話 告白

 とある冬の寒空の下、俺は一人の美少女と対面していた。

 相手の名前は、石井一乃いしいいちの。髪は腰の半分の位置まで伸びた、綺麗な黒髪で、身長は165センチと高身長、顔の造りはメイクなどはされていない優等生然とした美人だ。


「い、石井さん。お、俺……」

 俺は勇気を振り絞って、言葉を紡いでいく。

 今、俺が言おうとしているのは、様々な場面で何回も聞いてきたが、自分では決して発したことがない、つまりは愛の告白だ。

「勘違いしてたらごめんね。俺、君のことが好きです!」

 言った。人生で初めて、告白をした。


「えっ…え、えっと……」

 例の石井さんはというと、俺の突然の告白に驚いて、口をパクパクさせている。

 頬を赤く染め、身体をくねっている姿が見ていて可愛いが、正直返事が怖くてそれどころではない。

「あ、あの。私も…ちょっと好きです」

 ちょっと…。

 え?ちょっとって、そんなに好きではないということ?嫌いではないし。どちらかというと好きだけど、付き合うまでではないということ?


「あの、それって…」

「う、うん。だからね、よ、よろしくお願いします」

 石井さんは、俯いて小さい声でそう返事した。

 それって、オッケーってことで良いのかな…。いいんだよな。

 見ると、石井さんはちらちらと俺の顔を見たり、俯いたりを繰り返していた。


「よろしく!」

 俺は、石井さんの手を取り握手をした。

 その後石井さんは照れて、そそくさと帰っていった。

 彼女の姿が完全に見えなくなると_______。


「よっしゃーーーーー!!!!!」

 右手で握りこぶしを作り、天に掲げてみた。




 俺の名前は、押野輝明おしのてるあき。高校2年生で、部活には所属していない。

 昨日、人生で初めての彼女が出来ました。


「おい、押野~、昨日の結果はどうだったんだよ?」

 学校に登校し、自分の席に座ると、後ろの席に座っていた安達滝尾あだちたきおが声をかけてきた。

 こいつは1年の時に、名簿が近くて仲良くなり、今では学校の中で一番仲のいい友達になっている。そのため、俺が昨日、告白をした事実も知っているわけで…。

「あぁ、それなんだが___」

 付き合うことになったと言おうとしたところで、教室に馴染みのある人物が入ってきた。くだんの、石井一乃いしいいちのさんだ。

 俺は昨日、彼女に告白して、付き合うことになった。

 石井さんを見ていると、不意に目が合った。てっきり『おはよう』と微笑かけてくるかと思ったが、すぐに俺から目をそらして、自分の席に戻っていった。


「おい、押野、今の石井さんの反応って……」

「いや、待て待て待て、勝手に決めつけるなって!」

 絶対こいつ、俺が振られたと思ったんだろ。

「じゃあ、成功したって言うのか?」

「えっと、また後で言う!」

 俺はそう言って、後ろに向いていた身体を前に向け、安達から顔をそらす。

 いや、素直に成功だったと言ってもいいんだが、どこか気恥ずかしい。最初は言おうとしたんだが、石井さんの姿を見たら途端に恥ずかしくなってきた。


 どことなく、動悸が激しくなり、落ち着こうと黒板を見る。

「……ん?」

「なぁ、お前、今日日直じゃね?」

 そう、黒板の右端、日直の欄に『押野』『石井』と書かれていた。

 俺たち二人は、名簿が「い」と「お」で前後だ。だから日直は、いつも二人一緒になる。というのに、今日は両方そのことを忘れていたようだ。

 俺は、例のごとく昨日のことで頭がいっぱいで、日直どころではなかったわけだけど、石井さんも同じだったりするのだろうか。


「っと、そうじゃなくて、学級日誌取りにいかなくちゃ!」

 俺は勢いよく立ち上がり、石井さんの席まで駆け寄っていった。

 俺たちのクラスは、日直が朝、学級日誌を取りにいかなければならない。

 朝のショートホームルームまでに間に合わなければ、次の日も日直をする羽目になる。


「い、石井さん!」

「お、押野くん…?」

 勢いで、石井さんの元まで来てしまったけど、いざ対面すると緊張で声が上擦ってしまう。

 しっかりしろ、俺。その、付き合ってんだぞ?一応。

 大丈夫だ、俺はしっかり石井さんと会話が出来る!

「そ、その…。に、にに日直」

 ダメだー!目を合わせてしゃべれないどころか、めちゃくちゃどもってるじゃねぇか。

「あっ!そ、そうだった!ごめん、急いで行こっか!」

 そう言って石井さんは、席から立ちあがり、先に教室から出て行ってしまった。

 なんか、緊張してるっぽいけど、石井さんの方は案外いつも通りだな。

 もしかして、俺って緊張しすぎているのか?付き合ってるんだから、もうちょっと普通に振舞うべきなんだろうか。

「石井さん、待ってー!」

 俺は、先に行った彼女を追いかけるようにして、教室を出た。


「あの、押野くん……」

 学級日誌を持って職員室から教室に戻る階段を上っている途中、石井さんが声をかけてきた。

「な、なに?」

「えっとね、私たちのこと、なんだけど……」

「えっと…、付き合ってること?」

 やっべぇ、って言うの恥ずかしい!なんか、こう、ムズムズする。

「うん。そのことなんだけど、あんまり人には言わないで欲しいの。も、もちろん、仲のいい人には言ってもらって、いいんだけど、あんまり騒ぐ人にはやめてほしいな。その…、恥ずかしいから」

 っかぁ!なんですかそれ、めちゃくちゃ可愛いんですけど!

 え?なに?彼女ってこんな可愛いものなの?ダメだ、今すぐ床に転がって悶えたい。

「そ、そういうことなら。と言っても、俺も恥ずかしいから、あんまり皆には言うつもりもないんだけど。その、ずっと応援してくれてた、安達には言っても大丈夫かな?」

「うん。………ずっとって、そんなに前から私のこと………」

「えっ?なんて?」

 最後の方に何か言ったと思うんだけど、声が小さくて聞き取れなかった。

「ううん。何でもないよ。うん、安達君なら大丈夫」

 何か恥ずかしいものを隠すかのように、両手を顔の前で大きく振り、あせあせしている。

 ちなみに日誌は俺が持っているから、石井さんが腕をぶんぶん振っても飛んでいく心配はない。

 それにしても、この行動どうしようもなく可愛いな。

「そ、それより!早く戻ろ!ショートホームルーム始まっちゃう!」

 そう言って石井さんは、先に教室に帰って行ってしまった。


 その日の夜、安達にLINEで告白の結果を伝えると、

『何となくそんな気がしてた。リア充爆発しろ』

 という返事が返ってきた。

 俺の行動って分かりやすいのかな?もしそうだったら、他の人にも、俺たちが付き合ってることがバレてしまうかもしれない。明日からは、気を付けて行動しないと。


 こうして、俺の愛に満ちるはずの、リア充生活が幕を開けた。

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