第1話 告白
とある冬の寒空の下、俺は一人の美少女と対面していた。
相手の名前は、
「い、石井さん。お、俺……」
俺は勇気を振り絞って、言葉を紡いでいく。
今、俺が言おうとしているのは、様々な場面で何回も聞いてきたが、自分では決して発したことがない、つまりは愛の告白だ。
「勘違いしてたらごめんね。俺、君のことが好きです!」
言った。人生で初めて、告白をした。
「えっ…え、えっと……」
例の石井さんはというと、俺の突然の告白に驚いて、口をパクパクさせている。
頬を赤く染め、身体をくねっている姿が見ていて可愛いが、正直返事が怖くてそれどころではない。
「あ、あの。私も…ちょっと好きです」
ちょっと…。
え?ちょっとって、そんなに好きではないということ?嫌いではないし。どちらかというと好きだけど、付き合うまでではないということ?
「あの、それって…」
「う、うん。だからね、よ、よろしくお願いします」
石井さんは、俯いて小さい声でそう返事した。
それって、オッケーってことで良いのかな…。いいんだよな。
見ると、石井さんはちらちらと俺の顔を見たり、俯いたりを繰り返していた。
「よろしく!」
俺は、石井さんの手を取り握手をした。
その後石井さんは照れて、そそくさと帰っていった。
彼女の姿が完全に見えなくなると_______。
「よっしゃーーーーー!!!!!」
右手で握りこぶしを作り、天に掲げてみた。
俺の名前は、
昨日、人生で初めての彼女が出来ました。
「おい、押野~、昨日の結果はどうだったんだよ?」
学校に登校し、自分の席に座ると、後ろの席に座っていた
こいつは1年の時に、名簿が近くて仲良くなり、今では学校の中で一番仲のいい友達になっている。そのため、俺が昨日、告白をした事実も知っているわけで…。
「あぁ、それなんだが___」
付き合うことになったと言おうとしたところで、教室に馴染みのある人物が入ってきた。
俺は昨日、彼女に告白して、付き合うことになった。
石井さんを見ていると、不意に目が合った。てっきり『おはよう』と微笑かけてくるかと思ったが、すぐに俺から目をそらして、自分の席に戻っていった。
「おい、押野、今の石井さんの反応って……」
「いや、待て待て待て、勝手に決めつけるなって!」
絶対こいつ、俺が振られたと思ったんだろ。
「じゃあ、成功したって言うのか?」
「えっと、また後で言う!」
俺はそう言って、後ろに向いていた身体を前に向け、安達から顔をそらす。
いや、素直に成功だったと言ってもいいんだが、どこか気恥ずかしい。最初は言おうとしたんだが、石井さんの姿を見たら途端に恥ずかしくなってきた。
どことなく、動悸が激しくなり、落ち着こうと黒板を見る。
「……ん?」
「なぁ、お前、今日日直じゃね?」
そう、黒板の右端、日直の欄に『押野』『石井』と書かれていた。
俺たち二人は、名簿が「い」と「お」で前後だ。だから日直は、いつも二人一緒になる。というのに、今日は両方そのことを忘れていたようだ。
俺は、例のごとく昨日のことで頭がいっぱいで、日直どころではなかったわけだけど、石井さんも同じだったりするのだろうか。
「っと、そうじゃなくて、学級日誌取りにいかなくちゃ!」
俺は勢いよく立ち上がり、石井さんの席まで駆け寄っていった。
俺たちのクラスは、日直が朝、学級日誌を取りにいかなければならない。
朝のショートホームルームまでに間に合わなければ、次の日も日直をする羽目になる。
「い、石井さん!」
「お、押野くん…?」
勢いで、石井さんの元まで来てしまったけど、いざ対面すると緊張で声が上擦ってしまう。
しっかりしろ、俺。その、付き合ってんだぞ?一応。
大丈夫だ、俺はしっかり石井さんと会話が出来る!
「そ、その…。に、にに日直」
ダメだー!目を合わせてしゃべれないどころか、めちゃくちゃどもってるじゃねぇか。
「あっ!そ、そうだった!ごめん、急いで行こっか!」
そう言って石井さんは、席から立ちあがり、先に教室から出て行ってしまった。
なんか、緊張してるっぽいけど、石井さんの方は案外いつも通りだな。
もしかして、俺って緊張しすぎているのか?付き合ってるんだから、もうちょっと普通に振舞うべきなんだろうか。
「石井さん、待ってー!」
俺は、先に行った彼女を追いかけるようにして、教室を出た。
「あの、押野くん……」
学級日誌を持って職員室から教室に戻る階段を上っている途中、石井さんが声をかけてきた。
「な、なに?」
「えっとね、私たちのこと、なんだけど……」
「えっと…、付き合ってること?」
やっべぇ、付き合ってるって言うの恥ずかしい!なんか、こう、ムズムズする。
「うん。そのことなんだけど、あんまり人には言わないで欲しいの。も、もちろん、仲のいい人には言ってもらって、いいんだけど、あんまり騒ぐ人にはやめてほしいな。その…、恥ずかしいから」
っかぁ!なんですかそれ、めちゃくちゃ可愛いんですけど!
え?なに?彼女ってこんな可愛いものなの?ダメだ、今すぐ床に転がって悶えたい。
「そ、そういうことなら。と言っても、俺も恥ずかしいから、あんまり皆には言うつもりもないんだけど。その、ずっと応援してくれてた、安達には言っても大丈夫かな?」
「うん。………ずっとって、そんなに前から私のこと………」
「えっ?なんて?」
最後の方に何か言ったと思うんだけど、声が小さくて聞き取れなかった。
「ううん。何でもないよ。うん、安達君なら大丈夫」
何か恥ずかしいものを隠すかのように、両手を顔の前で大きく振り、あせあせしている。
ちなみに日誌は俺が持っているから、石井さんが腕をぶんぶん振っても飛んでいく心配はない。
それにしても、この行動どうしようもなく可愛いな。
「そ、それより!早く戻ろ!ショートホームルーム始まっちゃう!」
そう言って石井さんは、先に教室に帰って行ってしまった。
その日の夜、安達にLINEで告白の結果を伝えると、
『何となくそんな気がしてた。リア充爆発しろ』
という返事が返ってきた。
俺の行動って分かりやすいのかな?もしそうだったら、他の人にも、俺たちが付き合ってることがバレてしまうかもしれない。明日からは、気を付けて行動しないと。
こうして、俺の愛に満ちるはずの、リア充生活が幕を開けた。
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