クリスマス小話ーあの1914年のメリークリスマス

Kronborg

その夜

 12月も終わりを迎えつつあるフランドル地方


の夜は凍てつく寒さだ。


 しかし今日の夜は不思議とそんなに寒さは感じ


ない。このなんともいえない感覚は …


 

一体何だろう?今日は何かあったのか?



あ、今日はクリスマス・イヴだったのだ。もう4


ヵ月も銃を握っていると感覚も狂ってくるものだ


な。この夏、私はイギリス陸軍に志願した。何せ


私は一騎討ちで誇り高い戦をしてみたかったの


だ。God Save the King を高らかに歌い、妻や


我が子たちにはクリスマスまでには戻って皆で


ミンス・パイを食べようと言ったものの、この4


ヵ月で私の誇りの精神は粉々に打ち砕かれてしま


った。私と共に志願した友人達は最初の戦いであ


んな悲惨な死に方をしてしまった。戦争とはこう


いうものなのか、そして私もそのように死んでい


くのだなと思った。今妻や子供たちはどのような


クリスマス・イヴを過ごしているのだろうか?


ここは塹壕だが私はクリスマスを今生きてこの場にいる我々だけでも


祝おうと思い、ここにある物資を代用して祝いの準備を始めた。



準備が出来、Silent Night きよしこの夜を歌おうとした時、




Stille Nacht, heilige Nacht《静かな夜、聖なる夜》


Alles schläft, einsam wacht《すべての者が眠っていて、わずかに起きているといえば》


Nur das traute, hochheilige Paar,《睦まじい高貴な夫婦だけだ、》


Holder Knabe im lockigen Haar《愛らしい巻き毛の男の子よ、》


Schlaf in himmlischer Ruh!《天国のような安らぎの中に眠れ!》


Schlaf in himmlischer Ruh!《天国のような安らぎの中に眠れ!》


向こうから聞こえたてきた きよしこの夜 に我々は自然と拍手を送った


続けて我々も歌うと向こうからも拍手が聴こえてきた。


そして驚いたことに彼らは手を振り、塹壕から這い出てきた。


不思議なことに我々は誰しも銃を彼らに構えなかった。私は気づいたときには


塹壕から穴ぼこだらけのゾーンに入っていた。彼らも同じように近づきあい


彼らドイツ兵と握手をした。葉巻を交換する者もいればお互いに作った祝いの菓子


を食べあう者もいた。ついこの間まで殺し合っていた者同士であったのに。


なんとも不思議な夜だった、そしてとても幸せな時間だった。これはサンタクロー


スのプレゼントだったのではないかと今思うとそう感じる。

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