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 彼女と共に来店していたのは、彼女よりもずいぶん年上の男性のようだった。彼女は入って来た時からずっと男性の方を見つめていて、とても穏やかに微笑んでいた。丁寧に毛先を丸めた黒髪、整えられた爪、メガネの奥に輝く瞳。彼女を形作るすべてが可愛らしいと思った。

 薄い唇からか細くも強い“気持ち”が溢れた時、男性の表情が凍ったように固まった。

『そういうつもりじゃなかったのに』

 それがどんな結末を迎えることになるかは、先ほど出合ったばかりの俺ですら分かる。それでも彼女は精一杯笑って『冗談です』と言った。

 彼女が俯いたのは、チェックを申し出た男性を見送ってからだ。

『ここは私が。いつもお世話になっていますから』

 強い、と思った。涙を零さないように、ニッコリを笑って言うのだから。

「ありがとう、ございます」

 肩の震えが止まるまで、顔を上げなくていい。強い貴女なら、きっと素敵な出会いが待っているはずだから。 

 それまではか弱い貴女でいていいんです。

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