第41話 休暇

 異世界に来てから、まともに休んでない気がする。元引きこもりの俺には辛い現状だ。

 というわけで。

「俺は今日から一週間、休暇を貰う事にする。モンスター討伐も絶対に行かん」

 エドルに「有給届け」と書いた紙を渡して、俺はそう宣言した。

 のだが。

「ははははははは! 冒険者なんやからモンスター討伐がない限り毎日が日曜日やってのに、わざわざ有給って! 小吉、お前ほんまおもろいわ!」

 大爆笑されてしまった。

「木下バッカじゃないの! お腹痛いんだけど!」

 近くにいた大舞にも笑われた。

「良いだろ! 休みてえんだよ!」

 全く、引きこもりに対してデリカシーのないやつらだ。引きこもりは女の子よりもデリケートなんだぞ。……泣きそうになるな。

「それじゃあ」

 扉を開けて入ってきたアナが二人の笑いを遮った。

「私も有給休暇を取ります。今日は小吉さんとデートです」

 それから俺たちが家を出るまで、エドルと大舞はずっと真顔だった。


 ✩.*˚


「どこに行きましょうか、小吉さん」

「どこにって……」

 今更何を言っているんだろう。

「もう原宿に着いてんじゃねえか」

 そう、原宿である。

 今俺とアナは原宿にしに来ている。

 こんな経験、引きこもってゲームしてた頃の俺なら想像もしていなかった。女の子とデート。しかも原宿。引きこもりオタク中学生には縁遠い話だ。

「やっぱり竹下通りですかね」

「すっかり観光気分だなイタリア人」

「当たり前じゃないですか。KAWAIIカルチャーの中心地ですよ」

 そうですね。やっぱり女の子なんだな。というか、アナはうちのギルドで一番女の子らしい。

 真は女の子というよりはお母さんとかお姉さんって感じだし、大舞は俺に対してキツいし、サテナは悪魔だからコレジャナイ感が激しい。

 その点アナは、

「小吉さん! 虹色のわたあめです! 実在するんですね!」

 なんとも可愛らしい事か。妹ができた気分だ。

「小吉さん見てください! ユニコーングッズです!」

「小吉さん! こんなところにもアニメショップが!」

「小吉さん! これこれ!」

「小吉さん!」「小吉さん!」「小吉さん!」

 うん、可愛いな。

 そんなアナの可愛さを再確認したところで、ふと思い出す。

 そう言えばアナは、俺に対してあからさまに好意を抱いている。ギルドメンバーでも気づいていないやつはいないだろう。

 なんで、俺なんだろうか。

「小吉さん! チーズハットグって流行ってるやつで……。あれ? どうしたんですか?」

「……わっ!」

 ぼーっとしていたら、アナの顔が急接近していた。心臓に悪い。……思春期男子としてはアソコにも悪い。

「大丈夫ですか? やっぱり疲れてるんですか?」

「いや、ちょっと考え事しててさ」

「考え事ですか」

 アナはあまり腑に落ちない様子だが、それ以上は聞かないでくれた。良い子だ。

 原宿を堪能した後、明治神宮に行った。

「わあ! 大きいお社ですね!」

「そうだな。さっきくぐってきた鳥居もでかかったな」

「わび・さびですね!」

「それは寺な」

「違うんですか!?」

 全然違う。説明は難しいけど、わかっちゃえば一目でわかる。

「んー。簡単に言えば、鳥居があれば神社で、仏様がいる所が寺」

「鳥居があるのに仏様がいる所もありますよ? こっちの世界に来る前、パパと日本旅行しに来たときに行きました」

「それは神宮寺だな。ちょっと説明難しい」

 神仏習合の名残りだとか、言ってもわかるだろうか。俺自身がその辺の知識に疎いし、後でマリウスさんに聞こう。

「にしても、今日は観光客が少ないみたいだな」

「そうですね。人とすれ違いません」

「時々獣人がいるな」

「オオカミの子供、可愛かったですね!」

 さっき風船飛ばしちゃって泣いてたか。なんで神社に風船持ってきてたんだろ。

 そんなゆったりとした時間は続かず。

「あの、小吉さん」

「ん?」

 アナの方を向くと、アナの頬は薄紅色に染まっていた。

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