第40話 悪魔裁判

 何故だろう。

 俺の記憶が正しいのなら、俺は何もしていない。……ほんとに。

 それなのに。

「被告人、木下小吉に判決を言い渡します。……有罪です!!」

 何故俺は涙目のイタリア少女に裁かれているのだろうか。

「これはしょうがないよね。小吉が悪いな」

「せやな。ホンマに可哀想やわ」

「小吉、良い奴だった」

「いやいやいやいや! 俺は悪くない!!」

 って、犯人が言う台詞だな。

「まだ悪あがきを続けるつもりですか! 小吉さん、言い残した事は?」

「まじで心当たりがありません」

「即死刑です! エドルさん、小吉さんを触手で殺してください!」

「おう! 任せときぃ」

「おい待てってぇぇぇえええ!!!」

 その触手ケツから出てないか? そんな触手で触られたら死ぬ以上の地獄だ。


 して。時間は十分ほど前に遡る。

「大好きだよ、小吉」

 そう言い放ったのは悪魔少女サテナ。

「ちょっと! どういうことですか!?」

 突っかかったのはアナ。

「まあ、サテナちゃんには嬉しいことやったんやろな」

 少しややこしくしたのはエドル。

「どうしたんだよサテナ。寝ぼけてるのか?」

「あたし、初めてだったんだからネ?」

 もっとややこしくしたサテナ。

「木下、サイテー」

 軽蔑した大舞。

「小吉、言い逃れはできないな」

 何かを察してしまった真。

「裁判ですうううううううう!!」

 何故か取り乱してるアナ。

 まじで俺はなんもしてない。


「じゃあ、本当になにもしてないんですね?」

「だから、ずっとそう言ってるだろ」

 何とかアナの誤解を解いたものの。

「でも、初めてなのは事実だしネ」

「やっぱりサテナちゃんとぉおおお!」

「だから違うって!」

 何故サテナはそう、誤解を招く言葉を使うのか。

「サテナ、お前何の話をしてるんだ?」

「そりゃあ、もう……」

 そう言って頬を赤らめ、モジモジしだすサテナ。痛い。みんなの視線がめちゃくちゃ痛い。

「あたし、小吉に助けられてばかりで」

「助けられて?」

 助けた覚えはない。はずだ。

「確かに小吉には自覚ないかもしれないけどネ。でもあたしは助けられた」

「封印のことやろか」

「ひとつはそう。小吉が運命の人だから、あたしの封印は解けた」

 その言い方やめて。

「もうひとつは、小町のこと」

「小町さん?」

 コクリと頷いた。こうしたところを見るとやっぱり美少女だ。

「小町はセタの、弟の仇だから。小吉が戦ってくれて、仇を打てた」

「倒したのはエドルだ」

 イエイ、と後ろでピースするマッチョを感じる。……マッチョを感じる(パワーワード)。

「小吉が戦おうとしてくれたから、エドルも正気に戻った。それにあたしは、小吉の姿に救われた」

「救われた……って」

 それも戦ってたのお前自身だろ。

 しかし、いつもみたいに「ネ」をつけない辺りから、気持ちが入ってるのを感じる。

「小吉。あたし決めた」

 サテナは俯いていた顔を上げ、はっきりと告げた。

「小吉を、悪魔界に連れていくネ!」

 はっきりと告げていたはずなのに、言っている意味は伝わらなかった。

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