第32話 綺羅綺羅名前
「これこれサテナさんや」
俺はトントンと腰の刀を叩いた。
「んー? どったんだヨ。せっかくレム睡眠突入してたんだヨ?」
「悪魔のレム睡眠は真昼間か」
「悪魔は闇に生きるんだヨ。で、要件は?」
「ああ。あれ見てどう思う?」
俺は顔をエドルと小町さんの方に向けた。
「やっぱり住むとしたらこっちの方がええかな」
「そうじゃな。わっちもこの土地から離れられんので、その方が助かる」
「式はどないする?」
「それもここで執り行う。幸いにも広い屋敷じゃ」
二人とも気が早いようで、結婚は既に決定事項のようだ。
「どうって......。幸せなら良いと思うヨ」
「その場のノリで初対面が結婚して、長続きした事例を聞いたことがない。......あるんだろうけど」
「確かに、エドルが結婚してギルドを抜けちゃったら、『Life on the ded』は弱っちくなるヨ。あたしは刀として小吉に魔力を分け与えるくらいしか出来ないし」
「魔力を分け与えられた記憶が無いんだけど」
俺の声は無視し、サテナは刀から実体に変身した。久々に見るサテナの姿は、意外にも綺麗だった。
「刀の中で怠けてたわけじゃなさそうだな」
「中は快適だヨ。エアコン、冷蔵庫、洗濯機が備え付けの3LDK。家賃はタダだし、学生にオススメだヨ」
「安く学校で青春を謳歌する為に封印されないといけないとか、事故物件を上回るな」
実際『妖刀』なのだから既に事故った後を思わせるが。
それよりもエドルと小町さんだ。二人の話は着々と進んでしまっているようで......。
「子供は、男やったら
「それは少しばかりキラキラネームが過ぎるのではないか? わっちならば、男子であれば
「二人とも名付けセンス無すぎだろ」
「
如何せん最近の若者はどうのこうの。名前で子供の人生が決まるとも言われていて、俺も小吉って名前のせいで知っての通り。言霊って凄いよ。
って、名前じゃなくて。
「二人とも、ガチで結婚するつもりなの?」
「当たり前やろ。こんな美人逃す訳にはいかん」
「わっちも、もう何周も婚期を逃しているのでな。筋肉とは男子の美徳じゃ。これほどの好条件を逃すなど有り得ぬ」
んー。本気で二人の幸せを考えたら(どうでも)良くなってきた。
「サテナさん。ここは一肌脱いでくれません?」
「ちょっ!? 小吉!?」
サテナは髪色と同化するほど赤面し顔を隠す。いきなり言われると、やっぱり自信がないのか。
「こんな所で......、脱ぐ、なんて」
あ違う。こいつ理解してない。
「でも小吉はご主人様だし......。悪魔としてなら......、ちょっとだけ、だったら。良い、ヨ?」
「そうじゃない。言い方悪かったと謝る気もない。話をちゃんと聞いてください」
俺が説明すると、サテナはさっきよりも赤面し、理不尽に怒って小町さんの方に歩いて行った。
小町さんの前にサテナが立つ。その時は既に、赤い顔は羞恥から怒りへと変わっていた。
「ヨウ。よく見たら可愛い可愛い小野小町じゃん。元気だったかヨ」
「おや? そなたどこかで......?」
小町さんの答えを聞いたと同時、一瞬だった。
小町さんは料亭の外へ投げ出され、サテナはまさしく、悪魔の姿と呼ぶべきそれになっていたのだ。
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