第24話 二時間後の君へ

 その日、異世界人は思い出した。

 能力に自惚れていた恐怖を。

 名前のせいで能力が小さくなる屈辱を。


 エドルとサテナの宣戦布告のせいで戦うハメになった小吉は一人、妖刀小悪魔を振りながら抗い続け――――――



「ナレーションいらねえからお前も戦えよ!」

「宣戦布告しておきながらサボるエドルに、器用にもツッコむのであった」

「戦えって!」

 エドルとサテナが月斬丸に喧嘩を売って二時間。俺がただ攻撃をの状況は一向に変わらない。

 エドルは戦いが始まってから、やれお茶休憩だの、やれトイレ休憩だのでサボっている。

 サテナは小悪魔に戻り……そのまま眠った。魔法は全く使ってくれない。

「お主の仲間も非道よな。我がもとの使い手にもよく似ておる」

「全く持ってその通りでございますよ! なんでこんなギルドに入ったのかなあもう!」

「小吉は『元の使い手』という意味深な発言にはあえてツッコまず」

「気づかなかったよ! ありがとう! 突っ込むから戦ってくれよ本当に!」


(^ω^)ニコニコ


 さらに二時間が経過した。

 勝敗は決した。

 何故でしょう。俺たちが勝っちゃいました。わぁああー。

 …………。

「なんで?」

 エドルと古井は床に倒れ、俺だけがポツリと立っている。

 何故かと自分で問うたが、うん。わかってる。簡単に言うなら、「エドル先輩強すぎっス。まじでパネっス」だ。

 あれからどうにかこうにかしてエドルを説得したが、一向に戦う気は見せなかった。しかし月斬丸が標的を、俺からエドルに替え、エドルの髪が数本バッサリいってしまったのだ。エドルは激おこプンプン丸で反撃を開始。ものの数分で月斬丸と古井哀は敗れたのだが、疲れ果てたエドルもばったりと倒れ……。

 はい。そんな感じです。

 ……俺はこれからどうすればいいのでしょうか。

 俺が迷いつつ辺りを見回すと、古井が月斬丸に話しかけていた。

「な、月斬丸。……行っても……いいか? あいつらと一緒に」

 そうだった。古井はもとより、敵意はなかったのだ。

「……お主は吾輩に……、成仏せよと申すか?」

 月斬丸も喘ぎ喘ぎ声を出す。

「成仏したかったんじゃ……なかったか?」

 月斬丸は少し黙る。

「……そういえば、そうであったな。元々吾輩は……、成仏したいが故に、お主に力を貸したのであった」

「じゃあ……、いいんじゃないか? 多分俺は……、もう、お前の身だけで大丈夫だ」

「寂しいことを言ってくれるな……。……何故だろうな。死ぬることが、人と離れることが……、こんなにも恐ろしく思える」

「ようやっと……、か?」

 俺には二人の会話が全く理解できない。……脳みそが小さいとか言わないでくれ。多分これは、俺じゃなくても理解できない。

「おい若造。小吉……だったか? 名前の小さい、背丈も小さいの」

「うるせえよ」

 人を悪口で特定するな、と。

「すまぬすまぬ。……小吉。少しばかり、吾輩の昔話に付き合ってはくれぬか?」

「またですかい。昔話はこないだので十分だよ」

「まあ、そう言わずに、死にかけの話を聞いてくれ」

「あんたもう死んでるだろ」

 俺のツッコミは無視し、月斬丸は勝手に話を始めた。

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