第22話 哀

「ここが例の幽霊屋敷や」

「うわー。話数変わったら場面も変わる。都合がいいー」

 エドルがわざわざ教えてくれたことに、俺は棒読みで答える。

 幽霊屋敷の見た目はなんと言うか…………。まさに幽霊屋敷。これぞ幽霊屋敷。と言う風貌だ。

 古びた和風の建物に、荒れ果てた広めの庭。周囲は竹林ちくりんで囲まれ、周りとは隔離かくりされている。近くにあった住宅街から徒歩二十分程度まで離れているのも、地域住民ですら恐れている証拠だろう。

「ほほほほほ、ほんとに入るんですか?」

「ややや、やだ。やっぱりうちやだぁぁ!」

 アナと大舞はまだ怖がっている。すぐ目の前なんだからもう慣れていて欲しいのだが、やはり苦手な人には苦手なんだな……。

「じゃあ行こうか」

 先導を切ったのは真だ。この人、意外と度胸がある。

 真に続き、エドル、俺と、幽霊屋敷に入って行く。

「なんで行っちゃうんですかああああ!」

「うち……うち……あ」

 大舞はパタリと倒れ、気絶してしまった。

「ああ。アナ。大舞と一緒に向こうの住宅街行ってきな。多分、どっか休ませてくれる家とかあるだろうし」

「はい……。ありがとうございます小吉さん。名前や力は小さくても、心は大きいですね」

「小さいは余計だ」

 失礼だなおい。


 にしても中は……。

「……なんもないなぁ」

「幽霊がうじゃうじゃ出るんじゃなかったのかい?」

「そのはずなんやけど」

 エドルと真はそんな会話を交わしている。が……。

(俺にはバッチリ見えてます。うじゃうじゃいます!)

 今も俺の隣を何故か並んで歩いているし、各部屋に五人くらいは普通にいる。

 なんで? 俺って霊感あったのか? この二人が全く見えない体質なのか?

「……すっごい感じるヨ」

「あ、サテナ」

 久しぶりに刀から出てきたサテナが、深刻な表情でそう告げる。

「感じるってやっぱり……?」

「うん。オバケの気配だヨ。そこかしこから。キモイくらいに」

「まあ、感じるって言うか俺はバッチリ見えてるんだけどね」

「だろうね。悪魔と契約してるから、憂魔ゆうまを見る力が高くなってるんだヨ」

「え。幽霊って憂魔だったの? 妖怪だと思ってた」

 サテナとそんな会話をしながらも、どうやら最上階の最後の部屋に着いたようだ。

 ……古井哀がいるとしたら、ここがラストか。

「ほな、開けるで」

 エドルがゆっくりと戸を引く。

 和室。まあまあ広く、一部屏風で隠れている。

「なんもあらへんな……」

「いや。一応屏風を調べないかい?」

「せやな」

 二人が屏風に歩いて行く。

 と、突然畳が一枚消え、その下に空いていた穴に真が落ちてしまった。

「真ん!」

 エドルが穴を覗き込む。

 ……真の声はしない。

 するとまた突然。

『誰だ。俺のうちに入ってきたのは……。俺のうち……。うち……。まあいっか』

 屏風の奥から声が聞こえた。

「誰だ!」

『誰でもいいだろ。にしても、よくぞここまで辿り着いた。幽霊達をかいくぐってくるとは』

「いや、幽霊なんて一匹もおらんかったで?」

「ああエドル。いたよ。多分エドル達には見えてなかったの」

「いたんか!? 見たかったわ〜」

 結構シリアスな場面なのだが、謎の声の『まあいっか』のおかげでこの有様だ。

「んで、お前は誰なんや」

『ふっふっふ。見つけたら教えてやろう』

 は? ふざけてるの? 明らかに屏風の方から声がすんのに『見つけろ』って、保育園のかくれんぼかよ。エドルも呆れて……。

「なにぃ? クソっ。どこや!」

 マジですかい。

 この人達大丈夫か?

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