人ならざる少女を斬る

「あらやだ。なぁに、このあばら家?」


 漆黒の少女は今気づいたと言わんばかりに、自分が居る部屋を見てそう評した。

 一周、たっぷりと時間をかけて見回すと、その視線が俺で固定された。


「美味しい食事だったけど、その目、むかつくわね」

「あぁ?」

「とても無礼だわ」

「なにを言って――ガァ!?」


 漆黒の少女が手を俺に向かって振り上げると、突然、目の前から見えない壁が飛んできて弾き飛ばされた。


「高次さん!? 何が起きているんですか!?」


 何が起きているも何も、ミイラが少女の姿になりナニカ・・・をやって来たんだろう、と心の中で愚痴る。

 痛みで声が出ないからだ。

 跳ぶように起き上がり、漆黒の少女を見た後、チラリとラフィスを見る。


 ラフィスには漆黒の少女が見えていないのか、俺を見る目はしっかりとしているのに、俺と相対している漆黒の少女への視線はフラフラと焦点が合っていない。もしかして、見えていないのだろうか?

 対して漆黒の少女は、優雅に、そして不遜に腕を組みながら、立ち上がった俺を蔑むように見てくる。


「それで? この状況はなんなのかしら?」

「…………」

「哀れね。言葉も分からないのかしら?」


 再び漆黒の少女が手の平を振り上げる、その瞬間に合わせて横へ跳んだ。

 ボッ! と、今まで俺が居た場所が吹き飛び、床の破片が飛び散った。

 状況が見えていないラフィスは不意打ちを受けたような形となり、「きゃあ!?」と叫びながら尻餅をつく。


「……生意気ね」


 攻撃を避けたことが不服だったのか、漆黒の少女は苛立った様子を隠すことなく顔に出し、俺を睨みつけて来た。

 しかし、おかげで勝てる要素が見つかった。

 訳の分からない攻撃ではあるが、向こうは全くといっていいほど、戦いに慣れていない。


 銃と同じなんだろう。部隊の中でも、射撃の腕はとても良いが、拳や刀での斬り合いになるとてんでダメな人間が居た。

 遠くから狙い撃てる銃とはとても便利なものだがやはりそれのみを訓練していては、こいつのように付け入る隙になる。


「貴方を生贄・・にしてあげる」


 ニタリ・・・と気色の悪い笑みを浮かべ、漆黒の少女は再び俺へ向けて手を挙げ――る前に――。


「ゼァッ!!」

「ツッ!?」


 手の平を向けてから、何らかの攻撃が発生するその隙を狙い、間合いまで跳び込み一閃の内に腕を切り落とした。

 子供と同じくらいの体躯だからだろうか、腕を切り落としたというのに骨といった、斬った・・・感覚が乏しくまるで泥を刃ですくったような妙な抵抗感だった。


「ハッ! 正面きっての斬り合いは初めてか?」


 腕の切り口から、俺の体から出ていたような黒い砂がこぼれ落ちる漆黒の少女は、挑発にいら立ちを込めた視線を向けて来た。

 そして、ギリリ、と怒りに口を歪ませた。


 タネは分からないが、ようは飛び道具を使う前に斬ればいいだけだ。戦い慣れていない奴が相手なら、なおさらやりやすい。

 そして極めつけは――。


「エフィス! 今だ!!」

「うぇえっ!?」


 そちらを見ずに、エフィスへ号令をかける。

 号令を受けたエフィスは戸惑いながらも杖を漆黒の少女へ向けるが、迷いに迷って魔法が出てこない。

 しかし、それでいい。

 なんたって、漆黒の少女がエフィスそちらに視線を向けたのだから――。


「フッ!!」


 一息に漆黒の少女へ跳び近づき、下腹部に力を込めて天井スレスレまで振り上げた刀を一気に頭めがけて振り落とす。

 時が止まったかのような一瞬。

 漆黒の少女は目玉でチラリと俺を見るが、すぐに行動に移ることは無かった。


 いや、できなかった。

 それより早く、刀は少女の頭へ吸い込まれるように切り入り、そのまま股近くまでほぼ一刀両断したからだ。

 こちらを見た時と同じ表情のまま少女は背中から床に倒れ、そして動かなくなった。


 完全に息絶えたことを確認してから、ぬちゃり・・・・とする刀を拭き上げる。

 残心という意味ではやや褒められた行為ではなかったが、この滑りは今後の戦闘に支障をきたすものだと思ったからだ。

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