今夜の泊まる村は、閑静な森の中でした(現時点)

「それにしても、すごい荷物だね」

「たまに言われる」


 言われていたのは、江戸に居た頃だが。

 刀は3振り、ミニエー銃に弾薬入れに背嚢。

 その背嚢にも、フェルトの毛布に水筒と、戦争をするには自分でも荷物が多いと思う。

 ただし、本格的な行商に比べたらそこまで多くないはずだ。

 多く見えるのは、刀や銃が出っ張っているからだろう。


「それより、俺は慣れているからいいが、お前は長いこと歩けるのか?」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。そもそも私は魔法使いだし。歩くことにも魔法を使えば、長時間の移動もなんのその」

「魔法とは便利なもんだ」

「疲れたら言ってね。魔法をかけてあげるから」

「なるべく使わないようにする」

「むぅ……」


 悪いが、得体の知れない魔法に頼るのは良くないきがするので断った。

 好意で言ってくれたからか、エフィスは断る俺に抗議の目を向けて来た。


「それで、今日の宿はどこにするんだ?」

「森を抜けたところに村があるんで、今日の宿はそこで。このまま問題なく行くことができれば、昼過ぎ、夕方手前にはたどり着くと思いますよ」

「なら今日も、屋根があるところで寝られるんだな」

「それは、私が保証します!」


 ドンッ、とエフィスは薄い胸を誇るように叩いた。

 旅は始まったばかりだが、幸先が良い旅になりそうだ。

 このまま野営することなく、王都まで行きたいもんだ。



「屋根はあるな。屋根は」

「壁もあるから」

「あとは何もない」

「空っぽですねー」


 エフィスの言う通り、目的の村には昼過ぎとも夕方とも言えない時間帯に到着した。

 これが普段通りであれば、「お疲れさま」と一言、労ってやりたいところだが、残念なことにそうもいかなかった。

 村に誰も居ないからだ。


 戦争があったわけでも、野党に襲われたような荒らされた様子はない。

 もちろん、動物に食料を荒らされたような跡はあるが。

 全ての家を見て回ったが、どの家も綺麗すぎる。

 まるで、ついこの間、村人が神隠しにあってしまったように。


「さて、腰を下ろしたいところだが、どうもそうは言っていられないようだな」


 「村長の家」とエフィスが紹介してくれた、村で一番、大きな家。

 今、俺たちはここに居る。

 荷物を置いて、腰には本差しだけ。

身軽な姿で、いつ何が来ても対応できるようにしておく。


「ふた月前に来たときは、普段と変わりは無かったんですけどね。病気で村を捨てたとは考えられませんし」

「戦争はなかったし、野盗でもモンスターでもない……」


 この世界の住人のエフィスでも理由は分からないのだから、別のところから来た俺が考えたところで答えは見つからないだろう。


「どうしようか?」

「病気で村を捨てたのなら問題だが、そうでないならこのまま、ここで夜を明かしても問題ないだろう」


 幸い、この家の壁は頑丈だ。

 ドアや窓に立て板をしておけば、獣が襲って来たとしても対処までの時間は稼げる。

 まずは再度、周りに人が居ないが確認し、次いで水の確保をしておこうと思う。

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