5日目

 僕は考えていた。

 次はどちらから誘えばいいのかと。

「なあ、あかね」

「なによ」

「ちょっと聞きたいんだけどさ。もしもの話なんだけど」

「私はブラコンじゃないから、お兄ちゃんとは付き合えないよ」

「いや、お前、僕のことなんだと思ってるの?」

「気持ち悪い年頃高校生」

「……酷い」

 って、そういうことじゃないんだ。

「お前さ、気のない男の自転車の荷台乗れる?」

「……はぁ?」

 あかねが呆れたように溜め息をつき、こちらを振り向いた。

「私はお兄ちゃんの荷台には、絶対に乗らない」

「……なるほど」

 大変分かりやすい答えを妹から頂く。分かりやすいが、少し傷つく。昨日の傷も癒えてないので、4連続パンチだ。

「なに。なんかあったの?」

 にやにやと彼女がこちらへ近づいてくるのを察知して、僕は立ち上がった。

「いや、翔太の話」

「翔太先輩?! 別れた?」

「お前、本当に失礼だな」

「ちぇ。つまんないの」

 あかねはテレビへと視線を戻す。

 そこでは中山さんに良く似た芸能人が、にこにこと笑っていた。可愛い。

「……なんで、テレビ見てにやにやしてんの? 気持ち悪」

 あかねが嫌なものでも見たような目でこちらを見ていた。何故、笑ったことがバレたのか。

「ふへへ、とか笑ったら、嫌でもわかるわ。てか、わかりたくなかったわ」

 また心の声が漏れていたらしい。

 気を付けねば。

「なんか良いことあったんだね、お兄ちゃん」

「……なんで?」

「もう、十何年も一緒にいるんだよ。わかるよ」

 がんばれよ、とあかねが呟く。

 僕は思わず妹を抱き締めたくなった。が、すぐに立ち上がり母親に告げ口に行ったので、罵声を浴びせる妄想をしながら自分の部屋へと逃げる。

 ベッドに転がり、携帯を見る。

 メールがいつの間にか1通入っていた。急いで開く。『中山ちゃんだと思った?』という翔太の件名に、携帯を放り投げようとして諦めて手を降ろした。

 やっぱり、僕からメールすべきだろうか。

 昨日の最後のメールは僕から送っている。

『明日も頑張ろうね、おやすみ!』なんて何の変哲もない文章にしたから返信がないのか。もう、今日1日中、授業の時も弁当の時も悩んだが、やっぱりわからない。

 それよりもわからないのが、どうしてこんなに気になるのか、だった。

 ただ、仲良くなっただけの、ただの友達なのに。どうしてここまでメールが来るか来ないかで気になってしまうんだろう。

 わからないから、寝てしまおうと思った。

 明日で学校は終わりだ。短いようで長い冬休みが待っている。毎年、代わり映えはない。今年も、たぶん、ない。

 だけど。

 少しの期待を胸に、僕は眠る。

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