第10話 おばけなんてなーいさ

 あれは去年、俺が中二の頃だ。

 夏休み。野球部の俺は午前中部活に行っていた。

「はえぐ行けじゃ。遅れっと」

 母さんに言われ、俺は布団も直さずに家を出た。すぐに母さんも仕事へ行き、妹達も用事(上が遊びに、真ん中は習い事、下は幼稚園)でいないので家には誰もいない状態だ。

 その日も部活を頑張った。


「いや、お前その日じゃない?」

「うっせぇ。聞いてろ」


「はぁ、疲れた」

 俺は家に帰って自転車をしまい、家に入ろうとした。

「あれ?」

 ふとして見た俺の自室の窓から誰か髪の長い女が覗いている。

 まあ、見間違いだろう。

 鍵がかかっている。まだ誰も帰ってきていないのだろう。

 鍵を開け家に入り、玄関で練習着を脱いだ俺は真っ先に自室へ向かった。

 部屋に入ると……誰もいない。

 当たり前だよな。

 俺は荷物を置き、ゲームを始めた。

 ロード中暇になると、俺は癖で周りをキョロキョロ見始める。

 その時、俺は違和感を感じた。

 何に。布団だ。

 俺は朝直さずに出かけたはずだ。しかし、布団が綺麗にされている。

 匂いもいい。ファボリーズをしたようだ。

 俺は母さんかなと思ったがすぐに違うとわかった。

 母さんは今朝俺と一緒に家をでたからだ。

 じゃあ誰がやった?

 さっき……窓から覗いてたやつか?

 それが本当だとしたらもしかしたら、家に誰か忍びこんでいるかもしれない。

 俺は家中、隅々探し回った。しかし誰も出てこない。

 じゃあさっきの奴は?もしかしたら幽霊?

 いや、ないない。幽霊なんていねえよ。子供じゃあるまいし。

 でも幽霊がいたとしたら。

 わざわざ人の布団を直すとか……

「ハハ。家政婦かよ」

 そう呟いた瞬間、耳元で、

「フフッ」

 と笑う声がした。驚いて振り返るが誰もいない。


「それから俺は幽霊を信じる様になったってわけだ」

 教室で親友の青衣人あいとに話している。

 青衣人ははぁ、とため息をついて言った。

「もうちょいくまなく探せば?誰かいたかもよ」

「いねえよ。耳元だぜ?振りむきゃすぐに見つけるだろ」

「それもそうか」

 青衣人は少し考え、はっと何かに気付いた様に叫んだ。

「てことは、幽霊!?」

 教室中の視線が俺達に向く。

「だからそう言ってんじゃん」

「おおおお、お、おばけ……」

 ああ、こいつ。


 そういう系苦手なのか。

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