4.武ノ国ヴァロア
4ー1.仮面の男
「マジで来たか、勇者」
「えっと、どちら様です?」
ユーシャたちの前に立ちふさがるのは、裾の長いマントをなびかせ、羽の付いた帽子を目深に被り、顔には目元を隠すシンプルな仮面を付けた人物だ。背中には物々しい戦斧を担いでいる。
当然ながらユーシャにこんな舞台役者みたいな格好の怪しい知り合いはいない。
「勇者辞めろ。殺されるぞ」
「へえ……それで?」
「は?」
ユーシャの返しに、謎の人物の口がぽっかりと開いた。
リベア国を出て歩き通し、辺りが薄暗くなってきた頃、ようやくヴァロア国の防壁までたどり着いた。
ヴァロアは国境をぐるりと壁で囲んでおり、本来入国するには関所を通らねばならない。だが、はっきり言って入国審査やら手続きやらが面倒臭い。
そこでユーシャたちが向かったのは、外れに位置する小さな門だった。
その門は魔物が生息している〝アヤカシの森〟からほど近く、その森に異常が発生した際にヴァロア兵や雇われた傭兵たちが出動するためにある。
そして、その〝アヤカシの森〟こそ魔封石があると思われる場所だった。
シダーが言うには実家がそちらの方面にあるらしく、もし泊めてもらえるとしたら好都合だ。ならば後は門兵を言いくるめるだけだと思っていたのだが。
現在、謎の仮面君が立ちふさがるという事態が起きている。
「人が親切に忠告してんのに、その反応はおかしいんじゃねーの!?」
返事が悪かったのか、仮面君は怒り出す。最初は反応してしまったがこの手の輩は無視するのが一番と、ユーシャは歩き出す。皆も同じ思いだったようで、スタスタとついてきた。
「え、あの、ほっといていいんですか?」
「無視すんじゃねーよっ!!」
アレクがオドオドしながら言うと同時に仮面君が怒鳴り、また前に回り込んできた。
「そういう忠告とか間に合っていますので……」
「はぁあっ!? 何その押し売りはいいんでみたいな雑な追い払い方! テメェらのために言ってんのがわかんねーのかよ!!」
アルテシアの発言に対し即座にシャウトする仮面君。テンションが高すぎて正直引く。
この不審者をなんとかしろと言わんばかりの目をアルテシアから向けられ、ユーシャは仮面君を黙らせるべく口を開いた。
「勇者なんて何回か魔物討伐して調子づいた頃に油断して死ぬんでしょ、知ってる知ってる。君は〝殺される〟って言ったけど、それは付け狙ってくるロゼリア教に? それとも……無茶な魔物討伐を課してくるアリア王に?」
軽い感じで問いかけて、反応を見る。相手は口をポカンと開けたアホ面をさらしていた。仮面をつけてるくせして感情がここまでダダ漏れなのは面白い。
アリア国民の中でも勇者使い捨てに批判の声はあるが、危険な魔物は誰かが対処しなければならない脅威であり必要な犠牲だからと抑えられている。その批判を他ならぬ勇者が口にしたのだから、驚くのも無理はない。
「危険なんて承知の上で勇者になったのでお構いなく。ご忠告どうも」
一声掛け、脇を通り抜けようとする。しかし、仮面君に腕をガッシリ掴まれてしまった。
「ロゼリア教とアリア王が組んでるかもしれないって言ったらどうする」
「陰謀論に付き合ってる暇はないんだけど……もしそうだとしても、どっちも倒せばいいだけだと思うよ」
ユーシャからすればなんとも今更な情報だった。仮面君はまたも開いた口が塞がらない様子で、腕を掴む力が緩む。その隙に手を振り払って前に進んだ。
そのまま門へ向かっていると、アルテシアがふと後ろを振り返る。そして、ギギィッと音がしそうな感じで首を戻し、顔を引きつらせて口を開いた。
「ユーシャ、あれ……」
「ん? あれって何、が……」
アルテシアにならって後ろを向くと、コソコソと俺たちの後をついて来る仮面君とバッチリ目が合ってしまった。
仮面君はズサササッと後退り道端の岩に身を隠す。
「不審者が仲間になった」
シダーの冗談に、ユーシャは乾いた笑いしか出なかった。
ひとまず仮面君は放置し、門へと入る。ユーシャは過去にヴァロアでも傭兵活動をしており、門兵とは顔馴染みだった。
門兵は快く門を通してくれる。しかし、ヴァロア王に入国を伝えないで欲しいという頼みには、困った顔をされてしまった。
「おお、シダー君。やはり今日だったんだね、おかえりなさい」
「ん。ただいま」
シダーも家が近いのは本当のようで、門兵とあいさつを交わす。
仮面君といい門兵といい、ユーシャたちが来るのを知っている様子があるのはなぜだろうか。
ユーシャは引っかかりを覚えながらも進み、念のため後ろを見る。なんと、仮面君も自然に門を通過していた。不審者じゃなかったのか、あれ。
「門兵さん仕事してます……?」
同じことを思ったであろうアルテシアがつぶやくが、不法入国しているユーシャたちが言えたことではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます