3ー6.分断

「おいユゥ、ダメ元で回復魔法かけてくれ」


「あっ、ああ……〝彼の者を癒せ、ヒール〟」



 ユーシャはのどや肺への傷を想定し、胸元に触れて唱える。アルテシアの顔色は良くならない。



「チッ、やっぱ毒か。それもこの様子じゃ強いな」


「解毒できない?」


「ああ。こんな時間差で効く毒物は心当たりがねぇ。治せるのはその開発者くらいだろうな」


「そ、そんな! じゃあアルテシアさんは……」



 毒の開発者と言われれば、今までの経緯から思い当たる人物は一人。


 注目されたヴァイスは服の裏から六つの小瓶を取り出すと、それを相手方一人一人に配り、残る一つをユーシャに投げてよこした。中には毒々しい色の液体が入っている。



「これがその解毒薬。全部合わせて完全に中和されるし。飲ませてみて、立てるくらいにはなるし」



 果たして信じて良いものか。ユーシャが悩んでいると、横からディンに取られた。



「まあ、毒ではねぇな」



 フタをあけ、匂いを嗅いで一口舐めた後、ディンはアルテシアの口にその赤黒い液体を流し込んだ。呼吸が少し落ち着いてくる。



「オレたちは息が合わない。これで団体戦したところで同士討ちするし。状況は整えたんだから、やることやって欲しいし」


「やることやれ、ね。大丈夫スか、ユーシャ様」


「ああ、問題ない……覚悟は決めた」



 相手方がなにやら話していたかと思えば、彼らは散り散りに走り去って行った。



「悠長に一人ずつ倒して間に合うほど、その毒は甘くはないし」



 ヴァイスがそう言い残して行く。アーティを助けたくば全員倒して解毒薬を奪え、ということだろう。個人戦なら殺せるとでも思ったのか。舐められたものだ。



「どうすんだ? あえて空気読まずにヘアバンド野郎を集中攻撃するか? 速攻で終わらせてバラつけば間に合うだろ」


「なにそれ楽しそう。でも、後を追う時間も考えると別れたほうがいいね」


「じゃあ僕、アリア兵さん追いかけます!」



 アレクが元気よく言いきる。ヘタレのくせに珍しい。



「あの人なら戦わずに済むかなぁって思うんです!」


「いや、おま……うん、そうだといいね」



 舐められたと思っていたが、分断ってとても効果的かもしれない。ユーシャは一気に心配になるも、これでも実力はあるから大丈夫なはずと自分に言い聞かせる。



「大剣相手、任せて」


「ああ、よろしく。じゃあ、俺はあのヘアバンド男を」


「ユゥ、お前は偽王子を追え。下手に傷つけられない相手だ、お前の方が上手く加減して戦えんだろ。いざとなれば治せるしな」



 ユーシャの主張はディンにさえぎられた。抗議しようと見れば、ディンの顔には有無を言わせないものを感じる。



「クズ野郎は手加減なんて知らねぇオレがしっかり絞めるから、な?」


「分かったよ。残りの二重人格少年は最初に片付いた人が追うってことで……」


「彼なら、私が相手しましょう」



 ささやくような声がする。腕に抱えていたアルテシアが、自力で立ち上がった。



「アルテシアさん! 無理しちゃダメですよ!!」


「いえ、少し回復してきましたから」



 ユーシャはアルテシアの顔を覗き込む。相変わらず顔は蒼いが、目は強く輝いていた。



「無理はしないでね」


「余計なお世話です」


「大丈夫だとは思うけど、一応確認するよ。相手は俺たちを殺す気で来るけど、俺たちが相手を殺したら敵に大義名分を与えることになる。上手く立ち回ってね」


「はい! 任せてほしいです!!」



 一番心配な人に元気よく返事され、ユーシャは思わず笑ってしまう。

 危機的な状況ではある。だが、アルテシアが言い返してくるだけの元気はあることに、いくらか落ち着きを取り戻せていた。



「じゃあ、また宿で会おうね」



 五人はうなずきあい、それぞれの目標へと駆け出した。


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