3ー4.仲間割れ
「俺達の目的はアーティの救出。無理に誘拐犯と戦う必要はないから、各自危なくなったら逃げようね」
「ゆ、ユーシャさんが消極的なこと言ってる……」
廃墟の立ち並ぶ道に、人の気配はなかった。そろそろ指定された公園が近い。なにが起こってもおかしくないため、警戒しておきたいところだ。
無駄に不安になっているアレクに、ユーシャはため息をついた。
「なに戦う前からびびってんの?」
「だ、だって、ユーシャさんがそれだけ注意する相手ってことですよね!?」
「まあ、相手も勇者一行だからね。同じくらいの実力はあるんじゃない?」
もしもユーシャたちがロゼリア教徒だとでも吹き込まれていれば、もしくは全員ロゼリア教徒でもあれば、相手は魔封石に限らず命も狙ってくるだろう。
注意喚起のつもりが、アレクは完全にびびって涙目になっていた。先が思いやられるにもほどがある。
「アレクはやればできる子、アレクはやればできる子、アレクはやればできる子……よし、行こう」
「ちょっと! なんですかその自己暗示っ!」
わめくアレクを無視して進めば、前方に公園と人影が見えてきた。
いるのは二人。大剣を背負った長身の男と杖を持った少年だ。身長差がかなり大きく、少年の方はアレクよりも歳下に見える。反対に、長身の男はディンよりも上だろう。
「アルテシアをさらったのは君たちか?」
ここにいるということは呼び出してきた相手だろうと、ユーシャは声をかける。近づくと相手もこちらに気付いたようなので問いかけたが……。
「アルテシアって、だぁれ?」
「スレイも知らないよ」
「それより、おにぃさんたち、だぁれ?」
「スレイは知ってるよ」
なんだろうか、この単調な会話は。気が抜けるゆるさに戦意を削がれながらも、ユーシャは改めて問う。
「俺はユーシャ・アシュレイ、俺たちも勇者一行だ。〝漆黒の女神〟を連れ去ったのは君たちでは?」
ユーシャの言葉に、二人は顔を見合わせた。
「スレイは違うよ。でもヴァイスが連れてきたね」
「そうかも。ヴァイスが、つれてきた、ヒト、かも」
うんうんとうなずき合っている様子から、実行犯は別だが彼らもちゃんとその仲間ではあるようだ。
アルテシアを誘拐したのは一人だった。そいつが独断でやったのだとしたら、他の者は話し合えるかもしれない。
「もし君たちの仲間が勝手にしたことなら、交渉の余地はあるかな? できれば争いたくない。あくまでアーティを返すつもりがないのなら話は別だけど」
「あ、く、ま……?」
アルテシアを助けるまで、避けられる戦闘は避けたかった。しかし、急に言葉遣いのたどたどしい少年の目の色が変わる。
「〝我、魔道に通ずる者なり。今、力を行使せん。火よ、斧と化せェ! フレイムアックス!!〟」
先程までのおぼつかない口調はどこへやら、少年が朗々と叫んだ。
その手に握った杖を燃える両刃の斧に変え、振りかぶる。振り下ろされた刃は凄まじい熱気となってユーシャたちへ迫ったが、アレクが構築したシールドに阻まれ消滅した。
「ドラゴンのブレスに比べたらなんともないです!」
「はいはい、すごいすごい」
ふふんと胸を張るアレクをユーシャが雑に褒めた。かたや少年は、攻撃が失敗したとわかると頭をかきむしって叫び始める。
「チクショウがァ! ウザイウザイウザイウザイクソウザイんだよォオッ!!」
術の詠唱もさながら、少年のあまりの変わりようにユーシャは開いた口がふさがらなくなった。
「剣ブッ刺されて内臓ブチまけて死ぬくらいなら魔法噛まされて一瞬で逝くほうが幸せだろォ? 俺様の優しさ拒否るとか何様? あァそうでした、ユウシャサマでしたねェ。イイぜ? そんなに瞬殺がお嫌いならご希望通りなぶり殺してやるよォ! キャハハハハハハハハッ!!」
何か危ないクスリでもやっているのだろうか。甲高い笑い声を壊れたように絶え間なく上げ続ける少年はかなり不気味で、敵ながら精神が心配だ。
その様子には、隣にいる男までドン引きしているように見えた。
「スレイもそれはどうかと思うよ、デュアル」
どうやら実際に引いていたらしい。男がデュアルと呼んだ少年の頭を軽くたたく。
「あ痛ァッ! スレイ、テメェ何のつもりだ!! あァ!?」
デュアルがスレイという名らしい男をにらむように見上げる。やたらとスレイスレイ言っていたのが自分の名前だったとはと驚く。とてもじゃないが良い歳をした男の一人称ではない。
「スレイはデュアルが叩いたら治るかなと思った」
「はァ!? 頭イカれてんじゃねェの!!」
怒りをぶつけられているというのに、スレイは平然としている。当然ながら、その態度は更にデュアルをあおったようだ。
「スレイは違うよ。頭おかしいのはデュアル」
「んだとコラ! テメェから殺すぞッ!」
小競り合いから本格的に仲間割れがはじまり、ユーシャは呆れるしかなかった。
ふと自分の仲間をかえりみれば、ディンは腕を組んで完全に見物人モード。シダーは無表情に突っ立ち、アレクはいつものごとくアワアワ。ヘタレゆえに行動力がないアレク含め、傍観体制で動きそうにない。
視線を戻すと、正に一触即発。デュアルはブツブツと術……ではなく怨恨の言葉をつぶやき、スレイは背負った大剣の柄に手をかける。
「地獄を見せてやるよォ!」
「デュアルの血はどんな色?」
どちらが先だったか。一方は杖を振りかざし、もう一方は抜刀して斬りかかろうと踏み込む。
武器が合わさる寸前、遅れてやってきた者が二人を止めた。
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