2ー4.お馬鹿さん
「ひぃっ!?」
「あれ? これドラゴモドキ? 凶暴化にしたって大き過ぎだけど……まあ、俺の敵じゃないね」
「どう見ればこれがあのちっちゃい魔物なんですかぁっ!」
ドラゴモドキはアレクより小さい魔物だ。護衛を専門にしていたアレクはそう大型の魔物を相手取った経験はなく、ドラゴンから明確な敵意を向けてられてユーシャのように落ち着いていられない。
「アレク、防御よろしく」
「は、はい! 〝我等を守れ、シールド!!〟」
アレクが防壁を思い浮かべながら唱えると、半透明の壁が二人の前に現れる。ほぼ同時に、ドラゴンは火炎を吐き出した。
「アレク、熱気すごいんだけど? シールド薄くない?」
「うぅっ、言わないで下さい! 余計に自信が……!!」
攻撃魔法の強さが術者のイメージ、意志の強さに影響されるように、防御魔法の強度も術者のメンタルに影響を受ける。
あんなドラゴンのブレスを防げるかというアレクの不安はそのままシールドに現れ、直撃したブレスに半透明の壁はあっさりと消滅した。
せまる熱気に、アレクは思わず目をつむる。
「も、もうだめ…………じゃない? あれ……?」
こんがりと焼きあがるという嫌すぎる最期を想像していたのに、急に熱気が消えた。何が起きたのか確かめようと、おそるおそる目を開く。
「まったく、ちゃんとしてよね。置いてくよ?」
アレクの前には風の剣を片手に立つユーシャ。地面を見ると、周りだけ焼け焦げがないのがわかる。ユーシャが魔法でブレスを相殺してくれたのだ。
「ぼさっとしない! 次が来るよ!」
お礼を言おうとしたら、それより早い指示。そして、急に洞窟内に突風が巻き起こった。ドラゴンが羽ばたいて風を起こしてる。
吹っ飛ばして壁に叩き付けようという考えだろうか。身体が上手く動かせないくらい、風圧がすごい。
「うわあっ!」
槍を支えに踏ん張ろうと背中へ手を伸ばしたとき、ひときわ強い風が吹く。
足が地面から離れ、身体が宙に投げ出される寸前。ユーシャに腕をつかまれ、なんとかなった。
「つくづく手がかかるなあ」
「うぅ……ごめんなさいっ」
ユーシャは風を操って平然と立っていた。ドラゴンの羽音はまだ続いているが、風は段々と収まってくる。
首を動かせる余裕ができて見上げると、ドラゴンが羽ばたきながら上昇し続けていた。
「あの、ここって洞穴ですし、このままじゃ天井に――」
ズガンッ!
ドゴォオオオオオンッ!!
「――えぇぇ……」
大きな音を立ててドラゴンは天井に頭を打ち付け、落下。そして落ちてきた大量の石に打たれ、ぐったりと倒れてしまった。
地面が揺れるほどの振動があったが、幸いにも崩れたのはドラゴンの周りだけで洞穴全体が崩落しそうな様子はない。
「何アイツ、自分のサイズ分かっていないの?」
「もしかしておバカさん……?」
「アレクに言われるとか相当だね」
「いやいやいや、僕だってここまでのことはやらかさないです!! ……多分」
ドラゴンの脇をユーシャが通っていく。ピクリとも動かないとはいえ、近づく勇気はアレクにはない。
「道、まだ奥に続いてるみたいだね」
「ど、ドラゴンほっといて大丈夫ですか? ユーシャさん」
「こんなに埋もれてて動けるかなあ。気になるならアレクがトドメ刺しなよ。頭貫けば死ぬんじゃない、きっと」
別にユーシャさんが倒せばいいじゃないか。急所にしたって、きっとなんて言われたら不安すぎる。
そんなアレクの不満をよそに、ユーシャはぐいぐいと進んでドラゴンの陰に隠れていた通路へと入っていく。
ドラゴンは怖い。でも、また動き出したらもっと怖い。アレクは槍を構え、大きく息を吸う。
「〝我に地をも砕く腕力を。解放せよ、リアライズ〟」
魔法で腕力を強化すると、そっとそっと近づいて石の隙間から槍を突き刺す位置を探る。
「ゴァアアッ!!」
「ひぃいいいっ!? やっぱりまだ生きてるじゃないですかぁっ!!」
後ろに飛び退くと、立ち上がるドラゴンから雪崩のように石が落ちてくる。
「うわっ、アレクごめん!」
「ユーシャさんっ!!」
ユーシャが進んだドラゴンの向こうの道が、石で埋まってしまった。謝罪の言葉を最後に、声が聞こえなくなる。
大変な状況だが、人の心配をしている場合ではない。大きな目玉がぎょろりとアレクを見て、ブレスを溜めた。
「〝我を守れ、シールド!〟」
服を着るイメージでシールドを展開。アレクの身体を半透明の膜がおおう。炎が直撃したが、熱さも感じない。アレクはようやく本来の力を発揮し始めていた。
ドラゴンにはまだ頭をぶつけたダメージが残っているはず。それなら一気にしかけてしまったほうがいいかもしれない。
そう考えると、アレクは意識を足へ集中させる。
「〝我に止まることを知らぬ強靭なる脚力を。解放せよ、リアライズ!〟」
唱え終わると同時に、全速力で駆け出してドラゴンの背後に回り、その勢いのまま頭を目がけて跳ぶ。
前から突っ込んだら腕の爪で応戦されるが、後ろからなら反応できないはず…………だった。
「えっ……! うわぁあああああっ!!」
脇腹に激痛、そして全身に衝撃。
まさか攻撃に尻尾を使うなんて、いや、そもそもその存在が頭になかった。
アレクの脇をえぐり地面に叩きつけた凶器がまた迫る。槍でさばき、届かない範囲まで逃げるが、痛みで身体が重い。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。石に埋まっちゃったのかなユーシャさん。生きてるなら助けてよ……。
助けを求める声はうめきにしかならず、アレクの目から涙が落ちた。
頼みのユーシャは、ふさがれた通路の向こうで沈黙している。
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