2ー3.ドラゴン退治

「っく……ひっく…………グスッ……」



 困っている人がいたら助ける。そんなの当たり前なのに、みんなの意見は違った。ついてきたのは間違いだったのかなあ。


 アレクはそう悩みながら、道の外れでうじうじしていた。


 あの時は確かに、疾風の義士様、そして王子様についていくのが正しいと思えた。でも、実は二人とも困っている人を見捨てるような人間だった。



「あーもう! これはきっとどれもこれも言いだしっぺが悪いんだ! ユーシャさんのいじわるっ! 大バカぁっ!!」


「誰がバカで意地が悪い性根の腐った人間だって? 俺だけのせいにしないでよね」


「ぎゃぁあああっ! い、い、いつからそこに!?」



 突然かけられた声に驚いて振り向けば、そこにはユーシャさんがいた。



「困っている人がいたらー、からだよ」


「え、なな、なんでそれを……僕の考えていたことが分かるなんて、まさか心が読める……!?」


「いや、違うよ。言っとくけど、全部声に出てるからね」


「マジですか」


「ああ、マジで」



 聞かれていたなんて恥ずかしすぎる。アレクは頬が熱くなるのを感じて、うつむいた。


 ユーシャが苦手だ。いつも笑顔だけど、それはどこか人を拒絶している優しくない笑みだ。


 そんな苦手な人に自分の気持ちを知られるのは、とても、とても、恥ずかしい。絶対にバカにされる。



「ふっ、ははっ! ほんとバカ正直だなあ」


「う、うるさいっ……です」



 言い返そうと顔を上げてびっくりする。ユーシャの笑い方は今までの印象からは想像もつかない、やわらかい笑みだった。


 こんな風に笑えるなら本当はいい人なのかと思いかけるも、すぐにその笑顔は消えて、いつもの顔に戻ってしまう。



「あ、そういえばアレクで遊んでいる場合じゃないんだった。行こうか」


「へ……? 行くってどこに?」



 質問にユーシャの嫌な笑みが深くなる。嫌な予感しかしない。



「ドラゴン退治に決まってるじゃん?」


「ああ、ドラゴ……って、え? ええっ!? 依頼は受けないって言ってたじゃないですか!」


「気が変わったんだよ。他の三人は周辺の小物を倒しているから、俺たちはメインね」


「え、いや、でも……」


「うだうだ言わない。ほら、行くよ」



 みんなが頑張ってるのに一人だけ何もしないわけにもいかない。アレクはとても重い足を引きずって、先を歩くユーシャの背中を追う。



「ユーシャさん! 歩くの速いですっ!!」


「アレクが遅いだけだよ。何? 怖いの?」


「うっ……そうですよ!」



 図星をさされ、アレクは頬をふくらます。


 困っている人を助けたい気持ちは本物だ。でも、ドラゴンは怖い。むかし本で読んだけど、デカくて強くて火を吹く最強の魔物らしい。


 絵本の中の王子様はドラゴンからお姫様を助け出したけど、僕は王子様でもなんでもない。


 あっ、でもそれならユーシャさんは王子様だからもしかしてドラゴンからしたら天敵になる……?



「ははっ、王子は関係ないと思うけどなあ」


「うぇっ! 僕また声にっ!?」



 考えているうちに、雰囲気のある洞穴の前まで着いていた。および腰のアレクに対し、ユーシャは恐れる様子もなくぐいぐい進んでいく。


 洞穴の中はヒカリソウがいっぱいで外みたいに明るい。太陽とはちがう優しい光がきれいだった。



「見とれるのもいいけど、そろそろ出るよ」


「へ? 出るって何が……」


「ゴァアアアアッ!!」


「で、で、出たぁああっ!」



 腹の底にずっしりと響くうなり声。洞穴の奥から、家くらいの大きさがありそうなそれは現れた。緑色のうろこがびっしりの巨体、するどく光る牙と爪、大きな翼に、トゲの付いた長い尻尾、黄金色の瞳。


 正に絵本に出てくるようなドラゴンだ。怖いとか通り越して、自分の目に映ることが他人事のようだった。ドラゴンの目がぎょろりと動き、二人を見る。

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