2ー5.小さな世界
「んー……本当に何も見えないな」
ユーシャは光の槍を作り、真っ暗な通路を照らす。ドラゴンのいる場所から洞穴がさらに続いているらしいことはディンから聞いていた。
今いる場所はヒカリソウが生えておらず、ディンが探索を諦めた原因になっていた。だが、ユーシャは光の槍を明かりにできる。
元々アレクは実力を測るために一人で戦わせようと思っていたため、今の状況は好都合だった。
「うわぁぁぁあああっ!!」
向こうからアレクの悲鳴が響いてきた。それなりのダメージをくらっていそうだが、離れてからあまりにも早すぎる。
アレクは頼る相手がいると甘える様子が見てとれた。一人でも力を発揮できずあのドラゴンに一方的にやられるようでは、遅かれ早かれ旅の道中で死ぬ。
防御魔法があるから耐久力はあるはずと、ユーシャは心を鬼にして洞穴の探索を進めた。
意外とすぐ最奥に行き着くと、そこには簡素な石造りの台座。上に乗っているのは城から盗ってきた国宝の色違い、〝黄の魔封石〟に見える。
「こんな近くにあるのに回収しなかったのか……? いや、近くにあるからこそ勇者のエサにしたのか」
魔封石が一個でも見つかれば達成感が得られる。その達成感は王への不信を逸らすには十分だろう。
もし、勇者たちが魔物に殺されて魔封石に辿り着けなかったとしても、それはそれで魔導士を絶やしたいロゼリア教の目的に適っている。
呟きながら考えをまとめ、石に手を伸ばした。指先が触れた瞬間、ユーシャの目の奥でチカチカと光が走る。
「ぐっ……!?」
触れた左手が燃えるように熱い、めまいがおさまらない、心臓が痛いくらいうるさい、意識、が……。
激しい動悸に、ユーシャは意識を失った。
――――――――――
そこは牢獄のようだった。
どれだけ豪華な調度品がそろえられていようが、外鍵しかない扉は、窓にはめられた鉄格子は、部屋の主の世界をその中に押し込める。
食事も、勉強も、剣の練習さえも、全てがこの部屋で行われた。
今日は二十歳の誕生日だった。しかし、祝いに来る者は誰もいない。
青年が一人ため息をついていると、ノックもなしに扉が勢いよく開いた。
「ご機嫌いかがですか兄上? 今日は素晴らしい日ですよ。ああ! 兄上も僕の生誕祭に来られれば良かったのに!!」
「そうだね。お誕生日おめでとう、エヴィ」
弟は青年が部屋から出られないことをわかっていながら、意地悪く笑う。
今日は青年の二十歳の誕生日だった。そして、五歳離れた弟の誕生日だった。窓の外から、弟の誕生を祝う騒ぎが聞こえてくる。
「これからパレードなんです。兄上もぜひ、その小さな窓から手を振ってご参加下さいね!」
言いたいことだけ言って、弟は嵐のように去って行った。
しっかりと閉じなおされた扉から、少ししてノック音が響く。男がトレーにケーキを乗せ、入室してきた。
「持ち出せた範囲のものになりますが。お召し上がり下さい、アリア様」
「ありがとう、ゲイル。一緒に食べようよ」
「申し訳ございません。すぐに戻らねばならぬのです」
「持ってきたのも危ないんじゃない? ごめんね……」
一番親しいと言える召使いすらこれだ。
アリアはケーキを口に運ぶと、寂しさを隠すように微笑んだ。
――――――――――
「いたっ……」
固い感触に、ユーシャは目を覚ました。意識とともに消えてしまった光の槍をもう一度つくる。
地面で寝ていたようだ。伸びをしながら起き上がれば、苦しいくらいに騒いでいた胸は落ち着きを取り戻し、左手も異常はない。だが、寝すぎたときのように頭が少しズキズキしていた。
「夢、だったのか?」
他人の魔石に触れた時に起こることがある、共鳴反応に似ていた。
ユーシャと同じ歳の青年はアリアと呼ばれていたが、アリアの名で男といえば国名にもなっている英雄と同じだ。魔封石に触れた結果として、偶然にしてはできすぎている。
そっと黄の魔封石を手に取る。異変は二度は起きないが、青の魔封石にはなかった湧き上がるような力が感じられる。石は腕輪の台座にぴたりとはまった。
ふとアレクの存在を思い出し、ユーシャの中に焦りが芽生える。
いざという時は助けるつもりだったが、どのくらい寝ていたのか。ドライに対応しながらも、死なれたら気になるくらいには、すでに関わってしまっている。
ユーシャはアレクが耐えていることを祈りながら、来た道を駆け戻った。
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