星合い

星合い・一

 砂交じりの乾いた風が、夜の帳が落ちた空を渡っていく。地上から舞い上げられた浮かれた空気は風に乗って、城市まちの静かな区域にもその気配をまき散らしていた。


〈おや、どうしたのじゃ〉


 外出した雷禅らいぜんを見送り、止まり木がある彼のへやに戻ろうとした天華てんかは、庭院にわをうろついて何かを探している様子の神獣を見つけた。


 乾いた大地に痛みさえ感じる陽光が容赦なく照りつける、清国西域辺境の都たる彗華すいか随一の豪商、そう家。その豪邸に、護国の神獣の一であるこの獣――白虎がやって来たのは少し前のこと。長きにわたる封印から目覚めても、その身に刻んだ使命は忘れられるものではなかったらしい。因縁の大妖魔との決着をつけ、今はこうして新たな主が暮らす、かつては罪人の町であった彗華の一隅に身を置いているのだった。


 白虎は、近くの木の枝に止まった天華を見上げた。


〈天華。主はいずこにおられるか〉

〈ああ、虎姫こきなら、今しがた雷禅と外出したところじゃ。夜まで帰ってくるまいよ〉

〈街へか?〉

〈そうじゃ。今宵は乞巧奠きこうでん、逢瀬に相応しき夜であるからの〉


 言いつつ、天華は喉で笑った。


 何故ならあの粗忽で頓珍漢な虎娘に、逢瀬という甘いひとときを堪能する感性などあるはずがないのだ。雷禅とて、琥琅に甘やかな感情を抱いていても子供で意気地なしだから、何か行動を起こせるわけがない。成り行きでそんな雰囲気になることがあったとしても、それはすぐさま自分たちでぶち壊すさましか天華には想像できないのだ。


 しかし、だからと言って手助けしてやるつもりはない。こんな楽しいもの、誰がぶち壊しにするだろうか。


〈ゆえに、まさかそなたも出かけるなどと、無粋なことを言うでないよ〉

〈そのくらいわかっておる。お前こそ、覗きたくてたまらないのであろうが〉


 白虎が呆れ混じりに天華を見やる。それを笑って流し、天華はまた羽ばたいた。

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