真っ赤な……
NEO
サイレントナイト?
その日、真っ赤な服を着た筋骨隆々としたおじいさんは、膨大な荷物を捌くために夜明け前から黙々と作業していました。
上半身の服をはだけ、大小様々な荷物をサクサク仕分けていく姿は、熟練の職人のような姿です。実際、本人ですら忘れてしまうほどの、長い長い間この日はいつもこうでした。
おじいさんは一度も嫌と思った事はありません。これが、おじいさんの生き甲斐なのです。一年にたった1日だけのため、日々鍛錬に勤しんでいるのです。
「フゥ、まずはこの山じゃな……」
おじいさんは額の汗を拭い、山と積まれた荷物を巨大なソリに積み込んでいきます。日が昇って朝という時間。全ての荷物には「午前中指定」とラベルが貼ってありました。
「全く、昔は深夜と決まっておったものだがな。最近は、大人の勤務形態が様々だからな」
汗を拭って服を正し、ソリを引くために向かったのは、休耕期で空いていたのでレンタルしてきた農業用トラクターでした。色は当然赤です。それが一六台。
昔はトナカイでしたが、ここのところ個体数が激減してしまって使用が禁止されたため、おじいさんが目を付けたのがこれだったのです。一六台も要るかは別として。
一台一台労るようにエンジンをかけ、おじいさんはソリに乗ると魔法の言葉をつぶやきました。
すると景色が変わり、どこかの国の田舎道へと転じます。一六台ものトラクターを魔法でコントロールしながら、空を飛ぶ事は出来ません。トラクターは何台繋いでも時速一五キロくらいしか出ませんが、トルクはあるので重量物でも問題ありません。
軽快な自転車に追い越されながらも、おじいさんは熟練の技で、次々に荷物を配っていきます。こうして、午前中の「配達」は終わったのでした。
「さて、これからが本番だぞ」
深夜の都市部を時速一五キロでかっ飛ばしながら、本日最終の配達に出たおじいさんは、クリスマスプレゼントを満載した車から、盛大なクラクションを浴びつつ、ひたすら配ります。
どれくらいたった頃でしょうか?
パトカーが、ランプとサイレンを鳴らしながら接近してきました。
「ダメですよ。おじいさん、こんなイカれた乗り物で公道を走ったら。免許証は?」
おじいさんは目深に赤い帽子を被り直し、魔法の言葉をつぶやきました。
それまで晴れていた空が急に曇り、チラチラと雪が舞いだしました。
「これも時代だな。メリークリスマス」
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