恋とチョコと乱数調整(後編)
「サカタ、時間だいじょーぶ?」
「ん?ああアイシア。別に大丈夫だけど?」
昼休み。
弁当の他に色々と戦利品を味わっていたらまた鼻血が噴き出してしまい、トイレに駆け込んでトイレットペーパーで対応していた。
そして出てきたところで声をかけてきたのは、今年から転校してきたアイシアだった。小柄な彼女の肌は雪のように白く、髪は煌びやかな金色に輝いている。くりくりの目が可愛らしく、その姿はまるで人形が動いているようだ。
アイシアは訳あってこの学校に通っている。その事情について全部話そうと思えば軽く文庫本一冊にはなるのだが、まぁそれは良いだろう。
「はい、サカタ」
アイシアが差し出してきたのは、独特のカラーリングで彩られた、幾何学模様の少し大きめの箱だ。
「これ、僕にかい?」
「うん。今日、好きな人にお菓子あげる日って聞いた」
にひひと天使のように笑うアイシア。ストレート故に、その破壊力は恐ろしい。この世の男子という男子、ひいては女子までもが高乱数で一撃ノックアウトだ。恐らく僕の顔は真っ赤だが、本日三回目の鼻血はどうにか堪えた。
彼女関係では最低限その場凌ぎの乱数調整しかしていないのだが、結果的にこうなってしまったのはしょうがない気もしている。
「ありがと、アイシア」
受け取った箱は大きさの割に軽く、少々驚く。
「開けていいかな?」
「うん」
包装されているのかと思いきやしっかりした木箱。開けてみると、中には高級チョコ――ということはなく、入っていたのは煎餅だった。
「……まぁ、そんな気はしてたけど」
何せ、この世界で彼女が一番好きな食べ物なのだから。
「サカタ、煎餅嫌だった?」
アイシアが下から覗き込むように、上目遣いで僕を見つめる。その愛くるしい仕草に、気が付くと手が彼女の頭を撫でていた。
「ううん、丁度しょっぱいのが――って!?ごごごごめん!!」
すぐに手を離し、距離を空ける。右手にはまだ彼女のさらさらな髪の感触と、じんわりとした熱が残っていた。
えぇと、今のは乱数的にどうなんだ、クソ!今すぐ調べたい!!
アイシアも少し戸惑った様子で、撫でられていた頭を触る。
「……こんなことされたの、初めて」
「ホントごめん!代わりに何でもするから!」
「……何でも?」
「えぇと、まぁ」
いかん、つい勢いで言ってしまった。丸腰でアイシア相手は擬似乱数のパターンが分からないので不安だが、まぁそこまでハードルの高い要求はしてこないだろう(フラグ)。
「んじゃあ、今度一緒に行く」
「一緒にって、どこに?」
「私の家」
「……それは、どっちの」
「
「……」
さて、少し昔の話をしよう。
乱数調整に目覚めた頃、僕はネットで有効活用できそうな乱数を調べていた。
リンクを飛び回るうちに、僕は怪しげなオカルト系の掲示板にたどり着いた。そして、そこにはこんなものが書いてあったのだ。
『異世界に行く乱数』
当てはまる座標乱数がたまたま地元だったので、興味本位で287行程の乱数調整を試した結果、当然だが異世界に行くことはできなかった。そう、行けなかった。
行けなかったのだが……来てしまったのだ。
天文学的確率で乱数が噛み合ったのか、はたまた情報が間違っていたのかは分からないが、真上から少女が降ってきたのである。
理論上存在しないと界隈で言われていた『親方!空から女の子が!乱数』を、まさか僕が、しかも『異世界転移乱数』と同時に引き当ててしまうとは……。
そんなわけで、その時降ってきた少女がアイシアなのだ。
そこからはまぁ、アイシアを追う人がこの世界に来たりモンスターとの乱数を駆使した死闘があったりしたのだが、前述の通り
「言っただろ?今度乱数が噛み合うのは三年後だって。それに、僕は帰れるか分からないから行けないよ」
「サカタ、何でもするって言った」
「う……」
事の発端である以上責任を取るべきとは思っているが、片道切符で異世界へ行けと言われると流石に困る。僕にだって未練くらいあるのだ。
「前サカタ言ってくれた、責任取ってくれるって……」
ちょ、言いながら下腹部押さえるの止めて、いらぬ誤解が生まれちゃうから――
「へー、坂田君、どういうことなのかな?」「坂田、少し話がしたい」
「ひえぇ!?」
背後からの冷え切った声に、恐る恐る振り返る。
そこでは天川さんと高嶋さんが、ハイライトの無い目で笑っていた。震える腕時計を確かめると、針は覚えのある時間を指していた。
しまった、時間・今日交流した人数・場所――基本中の基本の修羅場遭遇乱数、通称シュラバール乱数じゃないか!くそ、僕としたことが!
「違うんだ二人とも、誤解なんだっ!」
「五回で済めば良いけどな……」「十倍は欲しいねー」
ボキボキと指を鳴らす高嶋さんと、カチカチとカッターナイフの刃を出し入れする天川さん。ちょっと待って何で天川さんカッター持ってるの……!?
くそっ、打破しようにも乱数が……このままじゃ鼻血以上の血が撒き散らされることになるぞ!どうにか誤解を解かないと!
「アイシアも黙ってないで誤解を解いてくれ!」
視線をアイシアに戻すと、彼女を囲うように太い火柱が舞い上がった。紅蓮の中で髪を靡かせる彼女の目は、完全に
「サカタの垂らし……!!」
「ちょっと、ここ学校!?魔法禁止!」
誤解を生んだ張本人まで相手側に回られては、もう僕に勝ち目は無い。この状況に驚かない二人も二人だが、どうせ僕はここで死ぬんだ。そんな事を知ったところでどうにもならないのだろう。
乾いた笑いが漏れる。乱数で笑った者の最期が乱数によって引き起こされるとは、何とも滑稽だ。
「「「覚悟!!!」」」
三人が飛びかかってきたところで、僕は目を瞑る。
来世は乱数とは無縁なもの……そうだな、二次関数になりたい。
……?あれ、何か死んでない感じ?
「全く。昔からすぐ調子乗るのね、アンタは」
「その声――
目を開けると、いつの間にか僕は屋上で倒れていた。
そして身体を起こして辺りを見渡すと、見覚えのある少女が立っていた。
「どんだけ女の子好きなのよ」
「うるせぇ、僕の勝手だ」
「ていうか、どうして僕がここにいるんだよ、危うく殺されるところだったのに」
「たまたま空間転移の乱数が合ったから助けてやっただけよ」
「く、空間転移!?ピコ秒単位にナノメートル単位の乱数調整じゃないか!?」
「何よ、それくらいできて当然じゃない?」
「えぇ……」
「――そうか、きっと夢だ」
「残念だけど現実ね」
「嘘だ、僕は既に二次曲線になってるはずなんだ!」
「何で次元数落ちてるのよ……とにかく、もう女の子とつるむのは止めなさい、このままじゃあと三回は命の危機が迫るわ」
「そんな、僕の乱数ハーレムが……」
「せめて絞れ」
「誰にだよ!僕には絞れない!」
「高校に入ってクズに磨きがかかっちょる……まぁ、これでも食べて落ち着きなさい」
ぽんっと投げられたものを反射的に受け取ると、それは手作り感のあるチョコだった。
「何これ?」
「たまたまチョコが安売りだったから買って、それで色々作ってみたやつの余りよ」
「分っかりやすい嘘だなぁ……大方、誰かに渡しそびれたのだろ?」
「……さぁ、どうかしら?」
「なんだ今の間は、乱数調整か?」
「アンタみたいに露骨にはしないわよ」
渡されたチョコを遠慮無くいただく。芳醇なカカオの香りが鼻から抜けていく。割と僕好みの味だ、美味い。しかし何だか少し鉄臭い……あぁ鼻血か。
「っていうか何だよ、瑠千逢も乱数勢だったのか」
「まぁね」
「何のためにだよ」
「あら、聞きたい?それじゃあゆっくり話してあげるわ」
「何だよもったいぶって……って、あれ」
何だか身体の感覚が無くなっていく。踏ん張りも効かないまま崩れ落ち、僕は再び屋上に倒れ込んだ。
「良かった、ちゃんと効いたみたいね」
「瑠千逢、お前変なの入れやがったな……!」
「さぁ、なんの事かしら?」
そう返す瑠千逢は怪しげな笑みを浮かべており、心なしか息も荒い。
そうしているうちに瑠千逢は僕の制服に手をかけ、ボタンを一つ一つ外していく。
「おい、何する気だやめろ!?」
「大丈夫、人が来ないよう調整済みよ。それとも見せつけたいタイプ?」
「何をだ!?」
「そりゃあ、ナニに決まってるじゃない」
上を全部脱がされたかと思えば、今度は瑠千逢が制服を脱ぎ始めた。翡翠色のブラジャーに包まれたそれなりに大きい双丘を露わにすると、そのまま瑠千逢は僕の上に跨がってきた。
「ずっと、こうしたかった……でもアンタはああやって他の女を乱数でたぶらかしてた。だからこうやって、アンタ以上に乱数を使いこなした上で襲ったわけ」
「他の方法は無かったのか!?」
「あら、じゃあお望みのシチュエーションを教えてくれるかしら?丁度二時間後に時間を巻き戻せる乱数が来るのよ」
「さらっとえげつない事言うな……普通に言ってくれりゃーOK出すから、とにかく今は解放してくれ……!!」
「あら?言ってることが違うわね?前のアンタに告白したらあっさりと振られたわよ?という事で、恨むなら自分を恨むことね」
「嫌だ!初めてがレイプは嫌だ!」
「ふふっ、きっと忘れられないわね……」
「おいやめろズボン脱がすなあああああああああああああ」
これが
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