Happy Valentine’s day !

Happy Valentine’s day !  其の一

 「ミケちゃん、ミケちゃん」


 気がついたら、クマパンちゃんときつねこちゃんが横にいた。


 「あれ? ふたりとも、公園にいつ来たの?! いきなり、びっくりしちゃうじゃない!」


 「なに言ってるの、ミケちゃん。さっきから、何度も呼んでいるのに、ちっとも気がつかないんだもの」


 「ミケちゃん、ブランコに乗ったまま目を開いて寝てるのかって思った」


 クマパンちゃんが心配そうに、あたしの顔をのぞき込んできた。

 あたしは、慌てて言った。


 「寝てないよー! ちょっと、考えごとしてただけ……」


 その考えごとがまた頭に浮かび、あたしは小さくため息をついた。でも、きつねこちゃんは気がつかなかったみたい。


 「ねぇねぇ、ミケちゃん。これから、お菓子屋さん見に行かない? 手作りブラウニーのキットがあるんですって! 普通のキットの他にも、猫専用の『カリカリブラウニー手作りキット』もあるんですって! どっちも、すごく美味しいらしいよ!」


 「ブラウニー?」


 「うん。チョコレートケーキ。だって、バレンタインでしょ?」


 あたしは、また、ため息が出てしまった。

 今度は、きつねこちゃんも気がついた。


 「ミケちゃん、どうかしたの?」

 「どうもしないよ」 


 あたしはそう答えたけど、クマパンちゃんがきつねこちゃんを引っ張って行ってヒソヒソ耳打ちをしてる。

 きつねこちゃんが、あたしを見た。それから、元気よく言った。 


 「行こう! 行こう! これから、猫のお菓子屋さんにいっしょに行こう!」


 きつねこちゃんは、あたしが返事をする前に、あたしの背中を押した。あたしは、仕方なく赤いブランコから降りた。

 クマパンちゃんもついて来ようとしたけど、きつねこちゃんが首を横に振った。


 「クマパンちゃんは、だめ! 女の子同士で、バレンタインのチョコ、見に行くんだから。ねぇ、ミケちゃん」


 「だったら、ぼくのチョコ忘れないでね、きつねこちゃん。ぼく、チョコ大好きだから! バレンタインデー、期待大!」


 「さあ、どうするかな」


 「きつねこちゃんの意地悪〜。ぼく、泣いちゃうから」

 クマパンちゃんが、おどけて泣き真似をした。


 「早く行こう、ミケちゃん! ブラウニーの手作りキット、売り切れちゃうかもしれないよー! 早く早く、早く行こうよ、ミケちゃん」

 きつねこちゃんが、あたしをかした。


 「ふたりとも、気をつけてねー! ぼくのチョコ、忘れちゃダメだよー」


 振り返ると、クマパンちゃんが赤いブランコに乗って、あたしたちの方に手を振ってる。


 「クマパンちゃんたら、まだ言ってるよ」

 きつねこちゃんがくすっと笑った。


 あたしはゆううつな気分のまま、きつねこちゃんといっしょに、お菓子屋さんに向かったの。


 三毛猫ミケ

 (続く)



 

***




 あらあら、いつも元気なミケちゃん、どうしちゃったんでしょうね。


 チョコレートに含まれている成分デオブロミンは、集中力や思考力を高め、さらにはリラックス効果も期待できるとされています。

 でも、そのデオブロミン。猫さんや犬さんには、とんだ癖者くせものなんです。猫さんや犬さんは、デオブロミンを人間のように体内で素早く分解できず、中毒を起こしてしまうから。場合によっては、死に至ることもあるそうです。

 だから、猫さんも犬さんも、チョコレートを食べることができません。

 犬さんや猫さんにチョコをあげないのはもちろん、うっかり食べたりしないよう注意してあげてくださいね。


 もちろん、猫のお菓子屋さんの猫専用のカリカリブラウニーには、テオブロミンは入っていませんよ!

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