2月

節分

今日は節分♪ 鬼さんこちら♪

 じゃんけんだとね、あたしたち、グーとパーしか出せないでしょ。

 だから、チラシの裏にあみだくじを書いたの。


 何のあみだくじかというとね、豆まきの豆をまく人と鬼さんの役を決めるあみだくじ。

 今日は、節分だもの。


 豆をまくのは年男っていうでしょ。それならウリ坊のウリンちゃんやおとうさんのイノシシさんがぴったりなんだけど、もう年神様のいるお山に帰っちゃったしね。


 あたしときつねこちゃんとチャコマロンちゃんは猫年だし、クマパンちゃんとコンちゃんはぬいぐるみ年だから、あみだくじで決めることにしたんだ。


 それでね。あみだくじの結果、豆をまくのは、あたしときつねこちゃんとチャコマロンちゃんで、クマパンちゃんとコンちゃんが鬼さん役になったのよ。


 奇しくも、かわいちゃんチームとぬいぐるみチームに分かれたのでありました。

 

 さて、それでは、豆まき開始します。


 福はうちー!

 鬼はそとー!


 「たんま」


 あたしたちが豆を投げようとしたら、いきなりクマパンちゃんとコンちゃんが止めたのよ。


 「外、寒いよ。ねぇ、コンちゃん」


 「うん、クマパンちゃん。もう、だいぶ暗くなってるしね」


 「そうだよね、コンちゃん。ぼくたち、外に逃げて行くのいやだよね」


 「うん、クマパンちゃん。いくら、ぬいぐるみだって、豆当たると痛いしね」


 「そうだよね、コンちゃん。豆は食べた方が美味しいよね」


 そう言って、ふたりでポリポリ豆をつまみぐいしだしたの。


 「ちょっと、あなたたち、豆まき、これからだよ。豆は豆まきした後に食べるんだよ。年の数プラス一個」

 きつねこちゃんが注意しても、クマパンちゃんもコンちゃんも、つまみ食いをやめない。


 「だからさ、ぼくたち、豆まきしてるんだもん。ねぇ、コンちゃん。ポリポリポリ福はうちー!」


 「うん、クマパンちゃん。おなかの中にね。ポリポリポリ鬼はそとー!」


 「おなかの中って、なにそれ?」


 あたしが呆れてきくと、クマパンちゃんが答えた。


 「鬼さんは怖いよ。病気だって、鬼さんみたいに怖いよ」 


 「そりゃ、怖いわよ」と、あたし。


 「怪我も怖いわよね。苦しいのや痛いのイヤ」と、きつねこちゃん。


 「わたし、もやもやしたり、不安な気分やゆううつな気分もイヤ」と、チャコマロンちゃん。


 「でしょ。病気は体がなるんだよ。もやもやしたり、不安な気分になるのも、心の中だよ。だから、体や心の中に豆まきして、苦しいのや痛いのを追い出してんの、ぼくたち」


 「だけど、クマパンちゃん、コンちゃん。そんなに食べちゃ、おなか痛くなっちゃうよ。逆に鬼さんがおなかで暴れちゃうかも」


 「あっ、そうか、ミケちゃん!」


 クマパンちゃんとコンちゃんは、やっと豆のつまみぐいをやめた。やれやれ。


 「気を取り直して、豆まき始め……」


 「ちょっと、ちょっと、ミケちゃん」

 きつねこちゃんが、豆を投げようとしたあたしを引っ張ったの。


 「なに、きつねこちゃん」


 「これ見て」

 きつねこちゃんは、あみだくじを書いたチラシをひっくり返して、あたしに見せた。


 「あれ、これ、お菓子屋さんのチラシだったんだ!」


 「うん。節分の日替わりお菓子、豆大福と鬼まんじゅうだって」


 「うわぁ、食べたい!」


 「夜に豆まきもするから、おいでくださいとも書いてあるよ」


 「今からでも、間に合うかな」


 「急げば、間に合いそうだよ」


 「じゃ、みんなで行こうか。チャコちゃんもクマパンちゃんもコンちゃんも行くでしょ?」


 「行く、行く!」


 でも、チャコマロンちゃんだけはモジモジしている。


 「チャコちゃん、どうしたの?」


 「だって、ミケちゃん。節分の夜って『鬼はそと』って追い出された鬼さんたちが、外にいっぱいいるんでしょ? 鬼さんたち、怒ってイライラして、きっといつもよりずっと怖いと思うんだ、あたし。だから、外、出たくないの」


 あたしときつねこちゃんは、顔を見合わせた。


 「でも、みんながお菓子屋さんに行っちゃって、ひとりでお留守番も怖いけど」

 チャコマロンちゃんたら、ものすごく小さい声で言ってコンちゃんを見た。コンちゃんだけはお菓子屋さんに行かずに、いっしょに残って欲しかったのね。


 そしたら、コンちゃんが言った。

 「だったら、鬼さんもみんないっしょに、お菓子屋さんに行けばいいよ」


 チャコマロンちゃんはびっくりして、大きな目をもっと大きくした。


 「だって、チャコちゃん。鬼さんだって、お菓子屋さんに行って豆まきして美味しいお菓子を食べたら、怒ってイライラした気持ちも追い払うことができるんじゃない?」


 クマパンちゃんも、うなずいた。

 「そうだよね。鬼さんだって、みんなに嫌われて、あっち行け、出て行けって追い払われたら余計カッカして悪いことしたくなっちゃって暴れちゃうよね。今年一年、悪いことだらけになっちゃうかも」


 「あっ、そうか!」あたしは、ポンと手を打った。「カッカしている鬼さんたちが、ニコニコになったら、悪いことが減るのかもね!」


 「そうそう、きっとそう!みんなで、鬼さんたちも誘ってお菓子屋さんにお菓子買いに行こう! 今年は悪いことが減って、良いことがたくさんになるように!」


 あたしもきつねこちゃんも賛成したけど、チャコマロンちゃんは、まだ不安そう。

 そうだ! あたし、良いこと思いついちゃった! 


 「だったら、コチバちゃんとニコちゃんも誘っていっしょに行こうよ。あの子たちは犬さんなんだから、心強いよ」


 コチバちゃんとニコちゃんは、ふたごの子犬。この間、お引っ越ししてきたのよ。もちろん、あたしたちとは大の仲良し。


 「どうして、ミケちゃん?」


 「だって、チャコちゃん、犬さんは桃太郎さんといっしょに鬼ヶ島に行ったんだよ」


 チャコマロンちゃんの顔が、パッと輝いた。


 それで、やっと、みんなでお菓子屋さんに行くことに決まったの。


 クマパンちゃんとコンちゃんが子犬のコチバちゃんとニコちゃんをよんできて、いざ、出発!

 


 「福はうちー!」 


 「鬼さんこちら♪ 手の鳴る方に♪」


 「福はうちー!」


 「鬼さんこちら♪ 豆大福に鬼まんじゅう♪」


 「福はうちー!」 


 「鬼さんこちら♪ いっしょに食べましょ♪」


 「福はうちー!」


 「鬼さんこちら♪ イライラカッカは追い出して♪」


 「福はうちー!」


 「鬼さんこちら♪ ニコニコみんなで♪」


 「福はうちー!」


 あたしたちは歌いながら、いっしょにお菓子屋さんに行きました。


 三毛猫ミケ




***

 



 鬼まんじゅうは、ローカルな蒸し菓子。

 東海地方定番の素朴なおやつです。


 おまんじゅうといっても、小麦粉とお砂糖と角切りにしたサツマイモを混ぜて、蒸しただけのもの。

 和菓子屋さんやスーパーでも売っていますが、おばあちゃんやおかあさんがおうちで作ってくれたりもします。

 角切りのサツマイモが鬼の角や金棒みたいに小麦粉の生地から飛び出しているので、鬼まんじゅうという説があります。


 鬼面仏心きめんぶっしんという言葉を、ご存知ですか。

 鬼のような恐ろしい見た目なのに、心は仏のように穏やかで優しいという意味です。


 鬼まんじゅうは、見た目はゴツゴツしているけれど、サツマイモそのままの優しいお味。

 まさに、鬼面仏心みたいなおやつです。 

 

 ※『猫のお菓子屋さん』のお話は、アルファポリスで挿絵つきで連載しています。

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