ミケちゃんきつねこちゃん秘密のアルバイトその1

 いよいよ、秘密のアルバイトの当日。

 ドキドキ。ドキドキ。


 雇い主のおじいさんのお家には、たくさんの猫の手バイトが集まっていました。

 おじいさんから、当日の注意と手順を書いたファイルと地図とチェック表をもらって、それぞれの持ち場に移動。


 あたしは、もちろん、きつねこちゃんと同じチーム。


 「ミケちゃん、がんばろう!」


 「きつねこちゃん、がんばろう!」



 222番のソリのところに行くと、もうトナカイさんたちが並んで待っていました。

 まずは、トナカイさんたちにご挨拶。


 「今夜は、よろしくお願いします。みなさんの道案内をするきつねこです」


 「配荷はいかを担当するミケです。よろしくお願いします」

  配荷っていうのは、荷物を送り届けることを言うらしいの。それが、あたしの役目。


 「きつねこちゃん、ミケちゃん、よろしくお願いします」

 トナカイさんたちがニコニコ笑顔で、新米バイトを迎えてくれたので一安心。

 

 次に、緊張気味に、きつねこちゃんが、トナカイさんたちの点呼です。


 「ダッシャーくん」

 「はい!」


 「ダンサーちゃん」

 「はい!」


 「プランサーちゃん」

 「はい!」


 「ヴィクセンちゃん」

 「はい!」


 「コメットくん」

 「はい!」


 「キューピッドくん」

 「はい!」


 「ドナーくん」

 「はい!」


 「ブリッツェンくん」

 「はい!」


 いつの間にか、おじいさんが、きつねこちゃんとあたしの後に立っていました。

 「さすが、師走狐しわすぎつねだね、きつねこちゃん。よく通るきれいな声だ」


 「本当にそうですね、おじいさん。わたしたちも、今夜は、安心して走れます。頼りにしてますよ、きつねこちゃん」

 トナカイのヴィクセンちゃんも、嬉しそうです。


 おじいさんが、ヴィクセンちゃんの肩をポンとたたきました。

 「ヴィクセンときつねこちゃんは、きつね仲間だからね」


 「きつね仲間?」

 あたしはびっくりして、おじいさんを見ました。

 きつねこちゃんが猫と狐の両方の血を引いているのは知っているけど、狐の血を引いてるトナカイさんがいるの?


 おじいさんは笑いながら、説明してくれました。

 「ハハハ、ミケちゃん。ヴィクセンは、残念ながら狐の血は引いていない。ヴィクセンという名前が英語の『めすぎつね』なんだよ」


 なーんだ。名前に「きつね」が入っているってことね。


 きつねこちゃんが、言いました。

 「わたしも、おじいさんからアルバイトのお話があった時、ヴィクセン役なのかと思いました。それなのに、ルドルフ役なので意外な気がしました」


 「ハハハ、きつねこちゃんとミケちゃんのチームは、古くからのトナカイたちが引くソリだ。もし、これからヴィクセンの代わりが必要な時は、きつねこちゃんに頼むことにしよう」


 「その時は、よろしくね、きつねこちゃん」

 ヴィクセンちゃんがウインクしました。


 「本物のルドルフは、今夜は全トナカイチームの総指揮だからね。ソリの前には立てないんだ。それで、きつねこちゃんに頼んだわけだ」


 「責任重大です」


 「そんなに緊張しなくても、きつねこちゃんなら大丈夫だ。トナカイたちやミケちゃんと楽しんでやってくれたらいい」


 おじいさんときつねこちゃんが言ってること、ルドルフ役とか、よくわかんない。あとから、きつねこちゃんに聞いてみよう。

 おじいさんは、今度をあたしの方を向いて言いました。


 「ミケちゃんは、今夜は、わたしの代役だ。よろしく頼むね」


 「はっはぃぃ、せき……に……ず……だい……でつっ」

 あまりの責任重大さに、あたしは舌がもつれてしどろもどろ。自分でも何を言ってるのかわからない。


 「大丈夫、大丈夫。ミケちゃんなら子どもたちが大喜びするよ」

 おじいさんは自分の帽子を、あたしの頭にかぶせてくれました。

 

 それから、出発までの時間はチームごとの確認やなんやかやで、やることいっぱい。

 今夜の天気に合わせて、きつねこちゃんはトナカイさんたちと地図を見ながら、幾つもの候補の中から最終ルートを決めています。

 効率良く回らないと時間内に終わらないから、とても大事な作業だわ。

 あたしは、ソリの操作手順をもう一度、おさらいします。それから、一つ一つの荷物の内容と宛先を確認してリストにチェックを入れて、ソリの大きな袋に入れていきます。


 なんだかワクワクしてきた。

 おじいさんが言った通り、楽しくなってきちゃった。

 荷物には、知ってる名前もチラホラチラホラ。

 しろちゃん、クロちゃん、パロさん、ペロさん。

 アピさん一家に、ハニーちゃんにひろみちゃんに。

 フフフ、みんな、喜ぶだろうな。

 あれっ?れれれ?

 クマパンちゃんのがない。


 あたしは見落としたのかと思い、リストを見直してみたけれど、クマパンちゃん宛の荷物がないの。

 そういえば、クマパンちゃん、おじいさんとの秘密だって言って、あたしに教えてくれなかったな。プレゼントは何がほしいのか。

 だったら、おじいさんは知ってるはずよね。知ってるんなら、どうして、クマパンちゃん宛のものがないんだろう。


 「ミケちゃん、どうしたの」

 トナカイさんたちとの準備を終えたきつねこちゃんが、心配顔のあたしのところにやってきました。


 「きつねこちゃん、あのね、クマパンちゃん宛のプレゼントがないの。ほら、リスト表、見て」 


 「ほんとだ。もしかして、クマパンちゃんのところは、他のチームのルートだとか」

 きつねこちゃんが地図を見ると、ちゃんとクマパンちゃんのおうちも、あたしたちのチームのルートに含まれています。


 「ミケちゃん、おじいさんにきいてみようか」

 きつねこちゃんが言い終わらないうちに、出発5分前のベルが鳴りました。

 

 きつねこちゃんがトナカイさんたちの先頭に走っていきます。

 あたしも急いで、ソリに乗りました。


 出発の合図のベルが響き渡ると、大きな荷物を積んだソリが次々に出発していきます。

 深呼吸をしてると、いよいよ、あたしたちの番。

  

 「チーム222、出発します!」

 きつねこちゃんの澄み渡った声が響きます。

  

 トナカイさんたちが、クリスマスイブの空に高く駆け上がりました。


 いってきまぁーす!

 よいこのみんな、今から行くから待っていてね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る