六月

紫陽花討議と雨だれの催眠術

 雨の日は、ねむーい。

 ねむい。ねむい。ねむい。


 「ねむれーねむれーねむれーって、雨粒さんたちが催眠術をかけてる」って、カエルくんが言ったって、カタツムリさんから聞いたんだ。


 あれ?

 逆だったっけ?


 カタツムリさんが言ったのを、カエルくんから聞いたんだっけ?


 確か、別の話といっしょに聞いたのよね。


 紫陽花あじさいの前で、雨傘をさした人間が二人、『紫陽花の葉っぱに、カタツムリはいるのか、いないのか』って、議論していたんだって。


 いない派の人間が言うのには、『紫陽花には毒があるから、カタツムリはいない。よく見かける写真は合成。単に梅雨のイメージにぴったりだから、人間が勝手に紫陽花とカタツムリを結びつけたもの』


 で、いる派の人間は、『こどものころ、実際に、紫陽花の葉の上にカタツムリがいるを見た。それに紫陽花に毒があると言っても、その成分は、いまだ明らかではない』からなんだって。


 猫的には、どっちだっていい。カタツムリさんの好きにすればいい。

 紫陽花に毒があるんなら、あたし的には、紫陽花の葉っぱをかじらないように注意しとけばいいんだし。第一、あたしは、紫陽花の葉っぱをかじりたくはないし。(あっ、でも、もし、かじりたい猫や犬がいたら、止めてあげてね)


 きっと、人間って、議論好きなのよね。

  

 何の話してたんだっけ?


 そうだ。雨だれさんが催眠術かけてるって、カエルくんが言ったのを、カタツムリさんから聞いたっていう話をしていたんだ。


 ううん。違う。カタツムリさんが言ったのを、カエルくんから聞いたんだ。 


 どっちだったけ?

 

 ああ、もういいや。

 どっちだって。

 ねむい。ねむい。ねむい。


 夢の中で、カエルくんか、カタツムリさんに会ったら、また聞くからいいや。

 

三毛猫 ミケ



***



 2018年の6月18日は、旧暦の5月5日。端午たんご節句せっくです。


 昔は、この日に薬草を摘んだり、薬玉くすだまを飾る習慣がありました。


 旧暦だと、梅雨の頃でもあり、流行病はやりやまいが心配な時期。だから、その備えでもあったのでしょうね。


 薬玉は読んで字のごとく、もともとは薬草などを袋に入れた魔除けのお飾りでした。

 その薬玉と同じように、紫陽花の花を、魔除けのお守りにする地域もあったそうです。


 紫陽花のお守りは、花の一枝を半紙で円錐形に包んで根元を水引などで結んで作ります。飾る時は、花を下にして吊るします。

 紫陽花守りは、くれぐれも、ちっちゃなお子さんや犬さんや猫さんの手の届かないところに。

 お守りを飾る時の、そんな小さな心遣こころづかいも、魔を防いでくれるような気がします。


 梅雨の時期、心も体もいたわって、お過ごしくださいね。

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