第4話 『君への手紙』 ~君に出会ってから~
大学二年まで、私は誰の
自分の
個々の友人に打ち明けるかたちで話したのが悪かったのだろうか。
きっと、私の話を自分のなかに閉じ込めて思いを
それこそが気を使った優しさなのかもしれないが、そんなものを私は求めてはいない。もっと表面的に哀れんでほしい。馬鹿馬鹿しいほど
変に頭を使う奴ほど、しばしば憎しみの対象になる。それを知ってほしいものだ。
そんな
私は酷く
私は警戒に警戒を重ね、自分の
手始めに、高校時代に交際していた女に対しておこなったわがままを重ねてみた。ところが君は私を拒絶するどころか、喜んで受け入れてくれた。深夜に呼び出しておいてひたすら黙っている、という非常識極まりないやり口にも君は
無視しても送られてくるメールに、私は押し潰されそうだった。
この女は狂っているのではないか、そう思ったことさえある。
そんな奇妙な関係が半年ほど続いたとき、ふと考えた。もしかすると
しかし、それを信用するのは恐ろしいことに思える。発生源の分からないものに
ただ、この退屈な日常に変化を与えてくれたのは君の存在である。思えば君から声をかけられて以来、退屈に身を腐らすこともなくなってきていた。これはもしや、よい
そんな
そう、そのときに告白されたのだ。わずかに
付き合ってからも君は以前と変わりなく、私のわがままに付き合ってくれていた。一年が
自己愛が目的なら、とうに別れを告げられているか、あるいは優しさや
……君は自己愛が目的ではなく、加えて言えば私の
その発見は衝撃的だった。苦しみと引き換えに訪れる充足ではなく、なんの対価も払うことなく充実を得られる。
そう、私は私自身が君との生活に充実を感じていることを知ったのだ。いや、それは
……実験的な交際と
そう、確かに実験的ではあった。しかし、恋愛なんてどれも自己探求的な実験でしかないだろう。君は反論できるだろうか。私を突き落してみせた君が。
大学四年目の話に入ろう。
誰もが他人と関係性を持とうとしないような、寒々しい空気のなかでおこなわれる講義の数々に耐えられなかった私は、三年次に留年することになった。
君は私の理不尽な誘いに毎回乗っているにもかかわらず、
この頃から
心を開く、という表現は嫌悪するところだが、私は次第に自身の過去について話すようになっていた。無論、哀れみを多分に含んだ過去を。
それ以降も、君は変わらずに接してくれた。哀れみを感じさせない程度には優しかったのだ。
どうだろう。私の切実な想いが伝わるだろうか。
君の、対価を求めない優しさは母を想わせた。それがなにより
それは、君のせいだ。
憎い。憎くて仕方がない。
しかし私は、君に毒されてしまった以上――
苦しくてたまらない。……だからこそ私は君に手紙を書いているのだ。
もしかすると私はこの手紙を出さないかもしれない。あまりに不毛だと考えて、思い切るかもしれない。ゆえに、これが君に届いた場合は私の覚悟を理解してほしい。
そして、それに
続けよう。
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