第3話 『君への手紙』 ~高校生の頃~
高校二年の頃の話をしよう。
この時期になにがあったか、知っているだろう。私が私自身の
……私の母が事故死した年だ。そのときのことは今でも鮮明に覚えている。
私が片親だと知っていたからか、随分と
君も知っての通り、母は即死だった。
遅めの昼休憩の時間にコンビニへ向かっていた母は、歩道に突っ込んできた自動車に
……当時はその男が憎くてたまらなかった。しかし今となっては、どうにも完全に憎むことができなくなっている。というのも、その男は過労気味で睡眠不足の状態だったという。それほど働いているにもかかわらず、いつ首を飛ばされてもおかしくない苦境に立たされていたらしい。
そこに人殺しの責任が加われば、絶望的な人生を
母は死んだが、噂に聞く限りその男も辞職させられ、
誰が殺したのか。それを考えると、やはり、被害者の方が
葬式の
私は
……この複雑な心境が理解できるだろうか。悲しみに貫かれながらも
君には分からないだろう。分からなくてもいいさ。
母の葬儀が終わると、私は離婚した父に引き取られた。思いのほか優しげな印象だったが、父の住む家と高校が
金銭の
……
それからの高校生活は母の死とは反面――いや、母の死が作用しているからだろう――非常に充実したものだった。誰もが
そう、優しさなんて
わずか一年のあいだだったが、私は三人の女性と交際した。誰もが悲しみを癒すという名目で――その
自己愛を満たすために――あるいは私のように
たとえば深夜に呼びつけたり、宿泊を強制したり。自己愛が前提にある奴なんてのは大抵、数ヶ月もすれば相手の要求に耐えられなくなってしまう。それでも関係は続くのだろうが、私への
優しさや
そうして三人目を捨てた時期に、私は卒業した。
君はどう感じるだろうか。
……さぞかし嫌な気分だろう。しかし、私を責めることはできまい。彼女らのように自己愛に埋め尽くされていたわけではないだろうが、君も私の
ただ、決定的に違うのは、彼女らの優しさと君の優しさのようなものが
私が居心地のよさを感じるのは哀れみを多分に含んだ、見え
ただ、君のは……なんだろう。不透明な優しさとでも言おうか、強度も質も見えてこない妙な優しさだった。哀れみもあるだろうが、それだけではないような、むしろそれ以外の部分が大きいように思える。おそらくは、その異質さが私の興味を
母についてのくだりは、どう感じただろうか。私を
……いや、結構だ。期待しておいて突き放すのは悪いが、あの感情は共有不可能な
解決なんて不可能であるし、そもそも正確な解答があるなんて、ありえないし耐えられない。
君はただ、この手紙に
では、次の話に入ろう。
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