劇団便座第一回公演『うんちょこぴー』

めぞうなぎ

劇団便座第一回公演『うんちょこぴー』

コンコン。

「入ってます」

「またまた~」

「何がだよ」

コンコン。

「しつこいな、入ってます!」

「点が?」

「スポーツじゃねえんだよ」

コンコン。

「うるさいな、入ってるって言ってるだろ!」

「SSRがですか?」

「トイレで初回限定確定ガチャ回せるわけないだろ」

「お腹がぐるぐるするのとガチャ回すのって似てますもんね」

「入ってるんだって。ちょっと待ってくれよ」

「腹に出すもん入ってますよね」

「お前のせいで引っ込んじゃったじゃないか」

「シャイなお便ですね。立腹だけに弁が立つ、ですか。うぷぷ」

「何なんだお前」

「え、もう先客がおられる?」

「さっきまでのやり取りで察しろよ」

「いやはや、尻には面も目もない」

「素直に面目ないって言えばいいだろ」

「すいません、出すもん出して早く代わってください」

「誰のせいで長引いてると思ってんだ」

「あ、どれだけ長く出せるかにチャレンジしてるんですか?」

「してないわ」

「ちょっとギネスの記録員連れてくるんで待っててください」

「お前のトイレはどうしたんだ」

「そういえばそうでした」

「ったく、変な奴に絡まれちゃったな……」

「そうだ、WCって何の略か知ってます?」

「おう、知ってるよ」

「『ウーマン』と『ちんちん』の略ですよね」

「ガキか。ウォータークローゼットの略だわ」

「あ、素敵な水分をお召しになられて」

「俺の体の70%褒めてんじゃないよ」

「はっはっは、そんなこと言っても焼け石に水ですよ」

「意味分かんねえよ」

「『to 便 or not to 便。それが問題だ』」

「一大事だよ、早くトイレ行け」

「シェイクソピアの作品にあるんですよ」

「汚ぇな」

「『オ漏レット』っていうんですけど」

「間に合ってねえじゃんかよ」

「お漏らしだけにお漏らshitですから」

「そろそろ怒られるぞ」

「ところで、大きい方ですか、小さい方ですか?」

「なんでそんな事お前に言わなきゃいけないんだよ」

「黙して秘して便について語らず……さては便秘ですね!?」

「うるさいよ。個室に入ってるんだから分かれよ。大きい方だよ」

「大きい方にもサイズがありますよね? S・M・Lのどれですか?」

「初耳だよそんなサイズ分け」

「順番に『するっ』『もりっ』『力む』です」

「ワケ分かんねえな」

「でも、便器は便の器って書くんですよ? それに対応したサイズ展開あってもよくないですか?」

「誰も求めてねえよ」

「SMLの3サイズの他に、レディースサイズ、お子様サイズもご用意しております」

「ファミレスか!」

「おっ、便意疎通、僕の考えてること漏れ漏れですね~」

「腹立つわ~コイツ」

「お客様、『うんTカード』はもうお持ちですか?」

「何だよそれ」

「用を足すだけじゃなくて、水を流すのでもポイントが溜まるお得なカードなんです。デザインはフンドシとTバックの2種類がございます」

「ポイントは何に使うんだよ」

「サービス参加店舗で、100ポイントにつき1回トイレを借りられます」

「地味だね~」

「ところで、まだ終わらないんですか?」

「お前がいちいち付き合わせるからだろうが」

「意地でも個室を占拠するつもりか……。こうなったら」

「また何か始まるの?」

「大人しく出てきなさい! 君は完全に包囲されている!」

「個室だからね」

「里で君のお母さんも泣いているぞ!」

「トイレ行く度に親に泣かれて堪るか」

「親の気持ちは汲み取り式便所、子知らず、か……」

「大したこと言ってねえぞ」

「やはり君のカツ丼に下剤を入れたのがマズかったか……」

「お前のせいじゃねえか」

「あれ、なんかちょっと臭いません?」

「トイレなんだから仕方ないだろ、ある程度は我慢しろよ」

「腹下しだけに花くたし、ですか? 臭いですね~、ラフレシアみたいで!」

「うるせえよ! ちょっと黙ってろ」

「お花摘みに来たんですよね? 趣味悪いな~」

「人の話を聞けよ」

「あれ、便座ってO型とC型がありますよね。お尻の穴はO型だから……もしかして二酸化炭素CO2出してません?」

「呼吸してれば誰だって出るわ。もう、やっと終わったわ……あれ?」

「どうしたんです?」

「紙がない」

「じゃあ、給紙トレーこっちにください。A4ですか、B5ですか?」

「オフィスじゃねえんだよ」

「葉書サイズでいいですか?」

「まあ、紙の規格の中では一番トイレットペーパーらしいな」

「といっても、備品のトイレットペーパー切らしてるみたいなんで、僕の私物のティッシュペーパーになりますけど、大丈夫ですか?」

「ああ、もうそれでいいよ」

「一応念の為A1まで用意してあるんですけど」

「いらねえだろそんなもん」

「紙がある個室の風景印刷しときましたんで、壁に貼って落ち着いてください」

「落ち着くより先に拭くもの寄越せよ」

「どうして僕があなたの尻拭いをしなくちゃいけないんですか!」

「言うと思ったよ。いや、でも、ここで紙問題を解決しないと、後々困るのは次にここに入るお前だぞ?」

「汗顔の至りですね」

「早く紙よこせ、ほら」

「すいません、汗拭くのに使っちゃいました」

「もぉ~」

「ウェットティッシュでよければありますけど」

「それお前の汗拭いたティッシュだろ?」

「まあ、そうなんですけど」

「嫌だよそんなの使うの」

「あ、ウェットティッシュで思い出したことがあるんですけど」

「なんだよ」

「水に流しちゃいました」

「なんだよ忘れたのかよ。バカかお前、それはほら、トイレ系のネタのオチに使うやつだろ?」

「やっぱり挑戦って大事だと思うんで」

「いらんところでストイックだなお前」

「そこ、ウォシュレットとかついてないんですか?」

「ついてねえな」

「水入らずですね、ふふふ」

「やかましいわ。何がおかしいんだよ」

「腹具合です」

「そうだろうな、お前も腹痛くてトイレ来てるんだもんな」

「仕方がない、JAF呼びますか」

「なんで?」

「紙のあるところまで、この個室レッカーしてもらいましょう」

「紙持ってきてもらった方が早くない?」

「はっはっは、上手いことをおっしゃる。チリ紙一枚」

「持ってんじゃねえか」

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劇団便座第一回公演『うんちょこぴー』 めぞうなぎ @mezounagi

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