続三国志演義II─通俗續後三國志前編─

河東竹緒

 さて、史書とは過去の事跡じせきを記すのみならず、往古おうこ盛衰せいすいを明かにして君臣の善悪をかんがみ、政治の得失を載せて人才の吉凶を観て、国家の安危あんきを知らんとする人に答えるものです。

 かん王朝の治世ちせいにおいては二十四代の皇帝がだいわって天下を治めたものの、霊帝れいてい桓帝かんてい昏弱こんじゃくにより忠良ちゅうりょうの臣は信任されず、宦官かんがんが朝権を握って文武の百官はその飼い犬にしました。

 陳蕃ちんばん竇武とうぶが朝廷を正さんと図るも長くは続かず、志を果たすを得ずしてついに姦悪かんあくな者のために陥れられてしまいます。ましてや、何進かしん識見しきけんを欠いたがために董卓とうたくは混乱に乗じて洛陽らくように乗り込み、皇帝の死命しめいを制して朝廷の内外に毒を流し、自ら滅亡したのは理の当然でありました。

 この混乱に乗じて孫氏は江南こうなんに拠って東呉とうごと号し、曹瞞そうまん曹操そうそう、幼少の頃に阿瞞あまんと呼ばれたことによる)は中原を占めて大魏だいぎと称します。幸いにも漢の徳はいまだ衰えず、昭列帝しょうれつてい劉備りゅうびの英雄により漢の治世を継いで国家を開基かいきし、魏呉と鼎立ていりつすること五十年を経ると強横きょうおうなる司馬氏が現れるに至ります。

 後主こうしゅ劉禅りゅうぜんは暗愚にして黄皓こうこうという奸人かんじんを用い、譙周しょうしゅうみだりに国事を論じて国を挙げて魏に降り、司馬氏は須臾しゅゆの間に魏をうばって呉を伐ちました。

 三国は罪なくして相継いで滅び、魏の臣は服従して呉の民は帰降きこうし、旧主を忘れて仇敵に仕えたことは実に恥ずべきことでした。ただ漢の将帥の末裔まつえいたちは忠心をいだいて逃れ去り、一人の晋に帰する者もありません。

 先に中村なかむら昂然こうぜん氏は蜀漢の滅亡後も関羽かんう張飛ちょうひなど忠良の末裔の事績じせきが史書に伝わらないことを思って『續三國志ぞくさんごくし』を著し、私もその校訂こうていあずかりましたが、今また五十八巻を著して『通俗續後三國志つうぞくぞくこうさんごくし』と名づけました。

 文は曖昧にせずまた俗に流れず、事実をしるすことは史書に近いと自負しておりますが、いたずらに歴代の事を記すだけのものではありません。

 

正徳しょうとく二歳(一七一二)壬辰じんしん皐月さつき吉天

洛下の儒医 尾田おだ玄古げんこ


 ※


 本作は『続三国志演義─通俗續三國志─』につづき、早稲田大学出版部『通俗二十一史つうぞくにじゅういっし』第七巻に収録の『通俗續後三國志前編』の現代語訳となります。上の序文もそれによります。

 原典げんてんは前作と同じく『三國志後傳さんごくしこうでん』ですから作品としては一連のものです。晋漢しんかんの和平に終わった前作の新章とお考え頂いて問題ありません。作品の性質や著者の酉陽野史ゆうようやしについては前作『続三国志演義─通俗續三國志─』の「序」をご覧下さい。

 書名に「前編」とあるとおり、本作は前後二編に分かれた連作の前半です。前後まとめて一編とすることも考えられますが、前編百十四回、後編九十七回の合わせて二百十一回という長大なものとなるため、『通俗二十一史』に倣って前後編の構成を踏襲しています。

 今回も孔祥義こうしょうぎさん校点こうてんの『三國志後傳』(上海古籍出版社)を併用しつつ、前作と同じやり方で現代語訳します。訓読は前作の中村昂然さんから尾田玄古さんに変わっていますので、読み味が少々異なるかも知れません。

 原典から見ると前作で活躍した蜀漢遺臣の末裔たちが後景に退いた感があり、より史実に接近しているようです。そういう意味では、三国時代以降の歴史に興味がある方にもある程度お楽しみ頂ける内容かと思いますが、やはり前作から通読しなくては分かりにくい改変箇所が多々あります。

 そのため、三国時代末期から五胡十六国時代初期の予備知識をお持ちの方であっても、前作を読み終えた後にこちらに進まれることを推奨せざるを得ません。

 現代語訳にあたっての方針や▼の使い方も前作を踏襲しております。また、今回は翻訳と更新を並行して進めるため、初回公開時に疑義がある箇所は◆を置いて後日解消させて頂く場合がありますので、ご承知置き願います。

 疑義や御指摘などはコメント欄に記載頂ければ大変助かります。

平成三〇年(二〇一八)、元日夕刻

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