#13 宣言

 僕の考えていた通り、宣言の日はすぐにやって来た。



「…聞くまでもねぇが、ルールなんでな」

「ああ、わかってるよ」

「あなたには、幸せになって欲しかったのですが…」

「僕は元の世界でも、十分幸せだったから」



 僕はウサギたちに連れられて、女王の間に向かっている。宣言というのは、それ程固いものではなく、ただ女王の質問に素直に答えればいいとのことだそうだ。



「それにしても、どうして突然宣言の日が来たのかな」

「それは俺の方が聞きてぇよ。何かあったのか?」

「…え、僕?」



 何かと言われても、心当たりと言えば、ぼんやりとしか覚えていない夢の話くらいだ。しかし、そんなものが関係しているとは思えない。



「いや、僕はよくわからないけど」

「俺はてっきり、お前が時間切れになって、こっちで宣言の準備をする羽目になると思ってたからな。吹っ切れたなら、よかったじゃねぇか」

「吹っ切れた…」



 迷わなくていい。

 恐らく夢の中で言われた言葉で、多少は楽になったのかもしれない。だが、結局僕が何に悩んでいたのか、何を迷っていたのか、今考えても出てこない。



(まさか、不思議ワンダーワールドに残るかなんてこと、迷ってたわけないだろうし)



「さて、話してる間に着いちまったな」

「ああ…ホワイト、ブラック。ここまで付いて来てくれてありがとう」

「礼はいりません。さぁ、中へ」



 ここからは一人だ。

 女王の間にはメディアが一人、いつもの玉座に座っている。



「来たか、『アリス』」

「…はい」



 個人的な用事ではほとんど呼ばれなくなった、『アリス』という名で呼ばれ、緊張感が走る。メディアもいつもの調子ではなく、厳格な女王の体裁を保っている。



「それでは問うぞ。『アリス』、お前はこのゲームを経て、どこの地区に住みたいと思った?もしくは、それでもまだ、家に帰りたいと思ったか?」

「僕は──家に帰りたい」



(家族の元へ…)



「そうか…」



 メディアの声に、落胆の色が混ざる。だがそれも一瞬のことで、すぐに先程までの声色に戻った。



「『アリス』よ。お前が望むのならば、帰り道への通路は開かれる」



 そう言って立ち上がり、部屋の中に飾られている大きな鏡を、剣で数回叩く。するとその鏡は、最初は正面にいたメディアを映していたが、次第に映すものを変えていった。



「僕の家だ…」

「チェシャ猫の穴に飛び込むのと同じようにすれば、この鏡から元の世界へと戻れるようになっておる」

「ありがとう、メディア」



 言われた通りに、鏡に向かって足を踏み出す。本来ぶつかって止まるはずの足は、そのまま鏡の奥へと飲み込まれた。



「っ…」



 目を瞑って、思い切って体ごと鏡の奥へと入ったところで、僕は意識を手放した。

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