#3 三つの地区
「メディアって、いつもあんな感じなのか?」
「まぁな。すぐに面倒くさがって、職務放棄だ」
「あなたはいいでしょう、ブラック。彼女の放棄した分は、私の方に回ってきているのですから」
事情はよくわからないが、この二人も随分苦労しているようだ。
「そういうわけで、俺たちも暇じゃねぇんだ。さっさと説明しちまうぞ」
「何かわからないことがあれば、途中でも構いませんので聞いてください」
「まずは俺たちのいるこの世界、これが
「ここもその地区の一つ?」
「はい、ここはハートの城で、住人が住む地区としては城下町になります。あんなのですが、陛下が地区長です」
…宰相という割に、このウサギたちはあまり女王を敬ってはいないらしい。
「城下町の特徴は、三地区一番の治安のよさです。常に警備兵が巡回しているので、犯罪らしい犯罪はありません。代わりと言っては何ですが、月に一度、全ての人に陛下への貢ぎ物の義務が課せられています」
毎月貢ぎ物っていうのは大変そうだ。それでも治安のよさに惹かれる人は多いだろう。
「ちなみにその貢ぎ物、陛下が気に入らなかったら打ち首だけどな」
「忘れても、ですね」
「なっ…短気すぎるだろ?!」
そういえば、先程も首をはねよと言っていたが、まさかあの人は貢ぎ物に失敗した程度で首はねの命令でも出すのか。
「基本的に赤ければ何でも喜びます、単純ですから。反対に黄色いものは嫌いますので、黄色の入った貢ぎ物を送るとほぼ間違いなく死刑です。単純なので、あまりこういった事例は少ないのですが」
(単純単純って…本人がいないからって、結構な言い草だよな)
日頃の鬱憤でも溜まっているのだろうか。
「この城下町をまとめているのが、その女王陛下メディアだ。見ての通り飽き性でな、後は怒りっぽい。一見しっかりしてるから、住人からは信頼半分恐れ半分ってところだな」
「私たちは宰相です。私が内政を、ブラックが軍部の指示を行っています。私は専ら書類仕事が多く、城の外に出る機会は少ないので、城下町の巡回担当などはブラックに任せています」
聞く様子だと、仕事はほとんど宰相たちがやってしまっているようだ。
(女王の仕事って…首はね指示、なわけないよな?)
半分とはいえ、住人に信頼されているらしいのだから、そんなことはないと信じたい。
「残り二つの地区ですが、一つは貴族屋敷で、住人が住む地区としては居住区になります。名前の通りなので、一番わかりやすいのではないでしょうか?ここは帽子屋が地区長をしています」
(貴族屋敷…親近感が湧く名前だな)
いい意味でも悪い意味でも。
貴族というのは合理主義だ。そういうところは性に合っていると思うが、時に感情を無視しすぎてしまう。家族を放って仕事に明け暮れていた父のように。
「居住区の特徴は、どこもかしこも豪華なところですね。帽子屋の一人支配とでも言いましょうか…物価や売り物は、全面的に彼が選別しているので、かなり高いと思います」
「条例ってやつも、帽子屋の小僧が独自で決めてるからな。それに抵触しない限りは、保護されるはずだ。一応、自分の地区の住人は可愛いがってるらしいぜ」
「帽子屋は貴族ですので、所謂使用人──というより部下ですが、三月ウサギがいます。あの人はずっとべったりなので、見ればすぐにわかります。もう一人眠りネズミの部下がいて、汚れ仕事は彼に任せているようです」
「…眠りネズミ?」
ネズミには心当たりがある。頭に浮かんだのは、あの話を聞かないネズミだ。
「おや?もしかして会ったのですか?」
「ここに来た時にちょっと…」
「チェシャ猫と会ってたのなら、別におかしなことじゃねぇだろ」
あの二人はよく一緒にいるということだろうか。決して友達がいないわけではないが、何だかそういう関係は羨ましい。
(でもマーミット、汚れ仕事を引き受けているタイプには見えなかったけどな)
人は見かけによらないということかもしれない。
「最後の一つはカジノで、住人が住む地区としては貧民街になります。ここでは伯爵婦人が地区長をしています。そうですね…チェシャ猫は自由に色々な場所を行き来していますが、一応は婦人のペットです」
「貧民街の治安は最下位だな。俺もたまに視察に行くが、よく路地裏で喧嘩してるのを見かけるぜ。ただ、伯爵婦人はカジノだけじゃなくて孤児院も経営してるから、その辺の子供からは感謝されてるんじゃねぇか?」
「荒くれ者にも仕事を回しているみたいですからね。一見いい人ですが、彼らをまとめきるということは、ただ者ではありませんよ」
(一体どれだけごつい女性なんだ…あるいは策士か)
それにしても、治安が悪いというのはいただけない。もしここに行く機会があれば、少し周囲に気を付けなければ。
「地区については以上ですが…疲れていませんか?」
「ああ、平気。続けてくれ」
「わかりました。それでは次は、
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