第5話 真面目に考える高等教育2

 前回の続き。

 前回書き忘れてしまったが、私は工学部だったので工学部の話として読んでいただきたい。

 前回の後半部で、大学教育の質の低下と研究不正の話を書いた。

 今回は実際に私が体験、教授から聞いた話を紹介しつつ考えていきたい。


 まずは私の所属していた研究室の例から書いていこうと思う。

 学生達が就職活動に追われ研究の時間がその分少なくなっていることは前回にも書いたが、研究を指導する立場である教授、准教授の方々も研究の時間は取ることが難しいのが現状だ。

 研究所ならば研究に打ち込める環境があるのかもしれないが、大学は学生達への講義の準備、課題の採点、その他雑務が意外と多い。

 レポートの採点なんかは大学院生が代わりにやっていることもあるが、結局のところ研究室全体の研究時間を失っていることには変わりない。

 若い准教授は学生が気の毒になるくらい激務だった。

 学内の会議や学内行事の役員にされ日中はほぼ研究室にいない。

 さらに学外の共同研究者との打ち合わせもあるので自分の研究は休日に研究室へ来て進めていた。

 一番下っ端なので研究室内の事務仕事も一人でこなしていたのに学生の研究を4つ抱えながら研究費を貰う為の論文を数本、書いていた。


 この金の問題も深刻だった。

 国や企業からの研究費を獲得し損ねると、そもそも研究が継続できなくなるような自転車操業状態であった。

 そのため研究に用いた実験装置の多くは学生達の手作りで多少の持ち出しもあった。(研究費を獲得できなかった教授は悲惨だった)

 論文上は図にしてしまうのでわからないが、お世辞にも良い環境で取ったデータではなかったがそのデータが論文にも載った。


 ここで中国の大学の件に触れたい。

 8月頃に中国からの留学生を受け入れた時に現地の大学の様子を聞くことができたので紹介したい。

 高価な実験装置を扱う場合、学生が実験を行わずに担当の人間が別におり、学生はデータを貰うだけだ。

 学生が半端な知識で器具を扱うよりよっぽど正確なデータを得られるだろう。

 また、薬品を用いた実験を行う場合でも日本では学生が1から準備して後片付け、薬品の処理等をするだろう。

 そういった面倒な処理も学生とは別にやる人間を用意しているという。

 金と人間が有り余っていると言えばそれまでだが、研究環境としては雲泥の差が付いてしまっている。

 すべての大学がこのような環境であるわけではないと思うが、少なくとも日本にはないと思う。


 また論文の提出本数もここ数年日本は減っている。

 この状況には多くの人が危機感を持っている。

 政府は確かに科学研究へ多額の投資をしてはいるが、それは花形の研究、例えばIPS細胞やスパコン等へと使われやすく技術立国を支える基礎研究やその他の研究へは届いてないのかもしれない。

 またそれと合わせて研究環境の改善も早急に整備していかないと技術立国の立場は危ういものとなってしまうだろう。

 

 正直言うともう結構ヤバいと思っている。

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