第3話 年の瀬に考える普通の人生
子供のころに思い描いた普通の人生から外れていったのはいつ頃だったろうか。
大学を出て、会社に就職をして、20代のうちに結婚、子供を作って・・・なんていう人生を送っていくのだろうという漠然としたものを思い浮かべて日々を送っていた子供時代。
しかし、その普通の人生を送るのはとても大変で難しいことだと、今ならわかる。
子供の頃はよく泣いた。
それは思うようにいかないときもあったし、他人からの悪意に晒された時もあった。
すぐ泣くなと叱られてあまり泣かなくなったが、その頃から自分の感情をあまり表に出さなくなっていったと思う。
怒りや悲しみをそもそも抱かなければ感情を動かすこともないし泣くこともないから自然とそうするようになった。
どこか一歩引いて見てしまうようになっていた。
感情が動かなければ新しいことに興味を持ったり、行動に移ることも減っていく。
いじめを受けるような学生生活は送らなかったが、卒業後も連絡を取り合う友人というのもできはしなかった。
それでもいいと思っていた。
手が届くもので生活を形成するようになったからだ。
大学へ進学し、研究室へ配属されると今まで避けてきた問題に直面する。
他人とコミュニケーションを取って研究を進めていかねばならない。
この頃には他人と同じ空間にいるのは苦痛だったし、何を考えているのかわからなかったから苦労した。
そこに担当教員からのプレッシャーや就職活動が重なり、壊れた。
人間、耐えきれなくなると本当に壊れるのだと思い知った。
3カ月間は人と会話ができなかった、口から音が出せないようなイメージなのだが、とにかく声が出せなかった。
家族とも口を利いた覚えがない。
死なないから生きているような生活をしていたし、夜は眠れず朝になることの方が多かった。
その後別の研究室へ移り、多くの方にサポートをして頂いてなんとか卒業はすることができた。
この時点でもはや幼少時代に思い浮かべた普通の人生からはかけ離れた地点にいるが、まだ生きているし、食うに困る状況にもなっていない。
しかし、今でも他人と会話するのは苦手だし必要以上に関わることもしたくない。
自分だけがなんでこんな目にとかそんなことではなく、子供のころ見ていた自分の親は普通のことを当たり前にやっていたのだからすごいなと思ったのである。
最後に、心は一度壊れると割れたガラスを貼り合わせたようなもので強度は全く戻らないので辛い時は辛いと言うのも、誰かに助けを求めるのも、それは逃げではなく自分を守るためだと思って声をあげた方がいい。
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