地下9 真実
「待っていたよ。日向君と平沢君であっているかな?」
縦穴の底にいたのは、白い髭の主張する外見の老人だった。
「あなたは誰ですか?なぜ我々の名前を知っているのですか?」
「さっき武装車両にIDカードを見せただろ?」
老人はニヤニヤしながら答えた。
「すると、あなたは委員会の方ですか?」
「地下鉄の疑似人格AIを委員会の構成員とするなら、もしかしたら私は委員会の一員なのかもしれない。いやAIは委員会そのものか」
ガチャリという言い知れない不安を煽る金属音が響いた。
「その話、詳しく聞かせてもらえませんか?」
見ると、平沢が拳銃を老人に向けていた。
「私のような老人一人死んだところで意味があることとは思えんがね。いいだろう、君たちが知りたいことを話す」
老人は自らの髭を弄っていた手を小さく上にあげた。
「ご協力感謝します」
「私は以前、委員会にいた。しかし私にはどうもあの政治の世界が苦手でね、一つの夢を求めたんだ」
「夢ですか?」
「ああ、大いなる知性による直接統治の夢だ。我々を政治や悩みから解放してくれる大いなる知性だ」
老人は目を爛々と輝かせながら両手を広げた。
「君たちは、人間の脳がどのような仕組みになっているか知っているかね?」
「それが今の話と何の関係がある?」
「大いにあるさ!地下鉄の全容を思い出してみたまえ、脳細胞と似ていると思わないかね?」
老人は銃を向けられているという事実を完全に忘れているようだった。
「私は調べた、地下鉄に知性を発見しようとしたのだ…、しかし何も見つけることはできなかった。しかし思い至ったのだ。大いなる知性による統治は何も機械が行わなくとも良い。私がやればいいのだ」
「やはりあんたが…、あんたのせいで何人の同胞が死んで行ったと思っている!」
「10年前の話かね?あの時は、確かに申し訳ないことをした。各級指揮官の苦悩は計り知れなかっただろう。しかし、犠牲はこれで終わる、この最後の尊い犠牲をもって全ての人々は唯一信じるべきは地下鉄システムであると気づくのだ」
「尊い犠牲って、一体何をしたんですか?」
今まで沈黙を守っていた日向が割って入る。
「私がやっているのは人助けだよ、少々手荒だがね」
「言っていることがよくわからない。説明しろ!」
「やれやれ、若者は短気でいけない。人生は長いのだ、もう少しゆったりと構えてはどうかね? 流星群のことは知っているかね?」
「委員会の議題で取り上げられたやつか?」
「そうだ、よく覚えているね。あれはここに直撃する隕石だ」
2人は絶句をした。老人は髭を触っている。
「どういうことだ!そんな報告は受けていないぞ!」
「上げていないから当然だな。天文台は解析できなかったことが地下鉄システムのコンピュータでは解析できた。システムはその情報に基づき、独自の救出作戦を開始、しかし委員会の特殊部隊が救出を妨害、システム側の武装車両の奮戦虚しく避難は遅れ委員会と地下鉄システム反対派を多く含む一層の住民は不遇の死を遂げる…」
「それ、あんたのシナリオか…」
「残念ながら、結果になりつつある…」
老人はちっとも残念そうではない口調で言った。
「なんだと!」
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