武力衝突

 司令官の古谷警備局長は悩んでいた。

「状況が想定外すぎるな・・・」

まず、降下してみると、そこにはレールが存在しなかった。これでは当然列車砲を運用することができない。整備車両によって撤去されたのだろう。先手を打たれた格好になった。

さらに、作業用の縦穴を降下したパワードスーツ隊が1層都市で見たのは通路に溢れる人々だった。

「これは、どういうことだ?」

『群衆後方に武装車両を確認』

前方の兵士からの無線連絡が入る。

『…局長、状況を報告してください』

 会議室にいる委員長から連絡が入った。

「現在、1陣が第一層に侵入、群衆と遭遇しています。状況から考えて武装車両が一層の隔離柵を破壊したのでしょう。当初の想定環境と異なります。状況整理のために一時撤退いたします」

『撤退はしないでください』

「委員長、今何と?」

『警備隊は直ちに状況を開始してください。攻撃目標は脱走した群衆です』

「しかしそれは」

『この通信は全部隊と共有されていますね?よろしい、では隊員の皆さん、聞いてください。その群衆を逃せば彼らは下層又は地上に出ようとするでしょう。そうなればどうなるか?地下鉄システムによって守られてきた我々の秩序は崩壊します。我々は一層を切り捨ててでも守らなければならないものに責任を負っているのです』

 数秒の沈黙が無線機を支配した。

『なお、警備隊による攻撃が行われなかった場合、2層への通路を閉鎖し、毒ガス攻撃を行います』

 若い隊員が恐慌に陥り引き金を引くのにはそう時間はかからなかった。

『こちらデルタ小隊、暴発発生、武装車両が応戦してきました』

『暴徒が迫ってきます!射撃許可を!』

「畜生!各個に応戦!」

 最早、古谷になすすべは無かった。

「また10年前と同じなのか?だって仕方ないだろ、毒ガス攻撃が行われたら部下も市民も全員死ぬんだ…、これしか道はないんだ!」

 阿鼻叫喚の地獄絵図とはまさにこのことであろう。

 実戦経験の無い若い兵士は恐慌に陥り銃を乱射。罪のない人々に弾丸を撒き散らしている。撃たれた人々がパワードスーツに襲い掛かるのも責めることはできないが、それが兵士の恐慌の原因になっているのだから救いようがない。

 武装車両はといえば警備隊のパワードスーツに対して発砲を行なっている。しかしその弾は纏わりつく人々にも当たっていた。

「わざと狙いを外してるのか?!総員、攻撃目標変更!武装車両を潰せ!!」

『武装車両後方に重砲を確認、射撃準備をしています!』

「なに!!総員退避!耐衝撃防御陣を構築!」

 激しい衝撃がパワードスーツのコックピットまで伝わってきた。

『敵重砲発砲、損害甚大!』

「トンネル内壁にも損害が出ているじゃないか!奴らここを崩落させる気か!」

『こちら、前線。敵増援を確認!火力で押し負けます!』

 悲鳴に近い声だった。

「全隊に通達!各隊は隊長判断でサーベル展開、近接戦闘に移行せよ!重砲が出てきた以上銃火力だけでは押し負ける!」

『デルタ中隊通信途絶!』『ガンマ06サーベル喪失、残弾ゼロ!継戦不能!』『アルファ08、脚部損傷、移動不可能。現在地にて遠距離支援を行う』

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