地下5

山のような大男が日向と平沢に銃口を向けていた。見ると2人の背後にも3人ほどが銃を構えて立っている。

「コルトガバメンツ80、旧世紀の骨董品とは…」

平沢は銃口を向けられているにもかかわらずヘラヘラしている。

「答えろ。お前らは自警団か?それとも政府か委員会か」

「私は検査院の職員です、こっちは委員会のスタッフで」

「なるほど、委員会の差し金か。お前ら、銃を下げろ」

「感謝しますよ」と平沢が軽口を叩いているのを尻目に日向は膝をついていた。

「俺のことはサスケと呼べ。あんたらはなんて呼べばいい?」

「私は平沢です、こちらは日向さん」

「一つ聞きたい、地下鉄になにをした?」

沈黙が流れた。

「質問を質問で返すようで申し訳ありませんが、地下鉄に何かあったのですか?」

「徐々にだが武装車両の割合が増えてきた」

「残念ながら各種車両の割合は地下鉄システムが独自判断で行なっています。詳しい割合については把握していないですね」

「ではなんで、こんなところに委員会と政府の人間が降りてきた。俺はずっと委員会の奴らは絶対に居心地のいい地上から降りてこないと思っていた」

「地上の汚染が偽情報だと知っているのか?」

日向の問いかけにサスケは嘲笑うように答えた。

「そんなもの、少しでも疑うって発想があれば誰だって気づく、気づいた後で気づかなかったふりをしてそのまま忘れちまう奴も多いがな。そんなことよりこっちの質問に答えろ」

「システムが申告する電力使用量と実際の消費量に食い違いが生じたので実態調査を行なっている」

「よく委員会が許可したな、そんな調査」

「まあ、ところであんたらはここでなにをしているんですか?破壊活動の報告は受けてないですよ」

「日向さんが知らなくてもしょうがないですね。委員会が秘匿しています」

「それで委員会の秘匿工作に乗っかる見返りとして存在を黙認されているのが俺たちパルチザンだ」

「特に破壊活動などは行っていない為、掃討作戦はコスト的に妥当ではないと私が判断しました」

「破壊活動なしのパルチザンって一体なにをしているんですか?」日向は興味津々と言った様子で銃を向けられていた事実など忘れているようだった。

「まあ、抵抗にもいろいろあるもんさ。あんたらスラム街のことは知っているか?」

「ホームから見ただけですが、あのような惨状になっていたとは知りませんでした」

「あの状況を作った一因は俺たちにある」

「どういうことですか?あなた達は体制に抵抗しているんじゃないんですか?!」

日向はサスケに掴みかかろうとしたが、サスケの隣で黙って立っていた男の銃口がかすかに動くのをみて、身を引いた。

「人の話は最後まで聞け。俺たちが介入しなかったら今は1層は無人化して苦しみが続くことは無かったってことだ」

「それは」

「俺たちが1層都市群で生産した物資を運び出し、食料を搬入していた。俺たちがいなかったら奴らはとっくに飢え死にしている」

「人道活動ですからね。委員会が仕掛けたこととはいえ人助けを妨害するのは気が引けます」

平沢が飄々と言う。

「おいおい、気持ち悪いこと言わないでくれよ。さっきコストとか言ってたじゃねえか、それに俺たちがやっているのはそれだけじゃねえ」


サスケの語った内容は日向の中のパルチザン像を覆すには十分なものだった。

サスケとその仲間は当初、地下鉄システムの破壊を目論む中で地下鉄システムの負荷を計測する仕組みの構築に取り組んでいたらしい。

「俺たちは見つけたんだ」とサスケは興奮気味に語ったがそれも無理のない発見だった。地下鉄システムは壁の汚れ検知機能を通信に使っている。それも通常の通信システムをはるかにしのぐ容量の通信が交わされている。


「それは、問題ですね。通信が行われているのは間違いがないのですか?」

「ああ、俺たちが地下鉄に負荷をかけたエリアから壁に取り付けた電位計測器の値が段階的に変化していた」

「壁には損傷を検知する機能があるので、通信傍受は無理そうですね」

「全くその通りだ。俺たちが端子を刺すと、途端に通信が止まる。しかしその言い様だと委員会もこのことは把握していなかったのか?」

「少なくとも事務局としては把握していませんでした。可能性としては情報局が極秘に何かをしているというのがありますが」平沢が悔しそうに壁を見つめた。

「あんたら、この後どうするんだ?」

唐突にサスケが聞いてきた。

「どうするって、解放してくれるのか?」

「そりゃあ、お前らを養うような余計な食料はねえし、俺らは人の道に反することはしてねえしこれからもしねえ。で、どうするんだ?」

「とりあえず下に降りる。現在一番エネルギーを消費している地区を見ないことには調査を終えられない」

「5層工事地区か」

「ああ」

「それなら、いいことを教えてやろう。さっき言った通信だがな、5層深部の特定のエリアから定常的に大量の通信が行われてい。調べてみる価値はあると思うぞ」

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