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部屋で天井を眺めていた。












狐「今日は唐揚げについてだ。普段唐揚げは食べるかな?あれはいい、いいものだ。とてもご飯が……あれ、想像してみるとそこまででもないな?だがそういう話じゃない、これはおかずとしてとても美味しい存在であるって話だ。ただ残念で申し訳ないことにここで最初に話題に挙げる料理、それは唐揚げではない。竜田揚げだ。僕はどちらかというと竜田揚げの方をこそ好む。何故そうなったかの理由もちゃんと説明するからそう焦るんじゃない。事の顛末は母の説明放棄にある……あぁここの母は僕の母じゃないから。そうだね、例え話として受け取ってくれると助かる。そう、例えば。頭の中にイメージして欲しい。どこにでもあるような家庭、母と子の夕食の風景を。子の好きなメニューは唐揚げだった。それを唐揚げと信じて疑わなかった。なにせ母が唐揚げ、と言ったのだからね。だがしかし唐揚げ、と認識して育ってきた子は後に衝撃を受けることになる。家の外で食べた唐揚げ……例えば祭りの屋台で食べた唐揚げ、それは子の知る唐揚げではなかった。なんと母が出していた唐揚げは唐揚げではなく竜田揚げだったのだよ。母は幼少期の子に唐揚げと竜田揚げの説明をするよりも唐揚げとして通す事を選んだんだよ。だから屋台で食べた唐揚げのコレジャナイ感に子は打ちひしがれ……はともかくとして、まぁ竜田揚げ…というか母の作るアレが一番好きだね。ご飯は思ったよりも進まないがご飯はとてもおいしい。マヨネーズはちょいと無粋ではあるがたまのアクセントにはいいね。ラー油もいい、刺激は重要だ。もちろんカロリー的には相当なものになるだろうがまぁそれは些細な事だと思わないかい?あ、始める?」




首が縦回転で飛んで行ったと思う。




狐「お前さんも暇なものだね。ああ実際暇なんだろう、暇すぎてこれしかないのだろう。記憶もパンクしそうだったりする?それはない。同じような風景は重なって混ざって判別できなくなるだろうが、しかし記憶として確かに残っているはず、平常の精神ではそれをうまく認識もできなければ読み込みロードもできないというだけだ。人の脳のキャパはすごい、らしいからね。別に僕はそこに関してはよく知らない又聞きの知識さ。僕はなんでも知ってるような風に見えているかもしれないがその実浅いのなんの、世界のことなんか何にも知らない。僕が知り得ることはあくまでも神様の知り得ることだけ、ただそれだけだよ。言うなれば自分より次元が下のところならなんだってできるよ、例えばここ。ああ自由自在さなにもかも、意識のある無しさえも自由自在。こうして話しているように見せてはいるがこうして意思があるように見せてはいるが、その実僕に魂は無い。わかる者にはわかるだろうが文字の集合体だよただの文字、それで意思を自分を僕を表現して一応そこにいるみたいに振舞っているのさ。誰が?それを考えちゃ何も進まない。考えなくても進むなら考える必要はない、むしろ考えたら進まなくなるだろう。エンジンの話をしただろう?それと同じことさ。ではそろそろ動いてみようか、数多の記憶から頑張って僕の動きを引き出しなよ。もしかしたら何とかなるかもね」




上下に三等分。




狐「今日で何日目か、まぁ知る意味もないからそれはスルーするとして。料理は好きかい?僕は好きでもなんでもない、やったことないし。興味はなくもないがそれは僕の話じゃないね、置いておこう。なに、料理とは芸術じゃないかって話さ。というのも類似点が多い。芸術がどれか、についてはここでは絵としておこう。絵だよ絵。例えば同じ素材を使うとしよう。同じ材料、つまり絵なら同じ色、ブラシ、あとキャンバスかな?料理ならば同じ食材に同じ調理器具。複数人が同じ料理を作ろうとしても同じ絵にはなりやしない。描き方もそうだ。レシピを見ながらでないと描けない人もいれば、描く対象を見ていると逆に料理ができない人だっている。そしてここからが本番だが、レシピ通りに描かない話、つまり自由系の話だ。同じ材料を使っても本人の好みで作らせたらそれはもう全然違う方向性のものが出来上がる。そしてそれを気にいるかどうかは食べる人次第だ。レシピ通りにやれば確かににたものはできるだろう、上から塗れば似たようなものはできるだろう、でもそれはそこまでだ。よく料理に必要なのは愛情とか言うけど、実際それは正しいと思うんだ。愛情というか感情。絵でも料理でも感情を込めてこそ機械的にやっても出てこない差異が生まれる。そこの裁量はもはや無意識の領域だけが知っているまさに秘密のレシピさ。自覚できないのなら感覚にやらせるしかない。だから感情が必要。そしてそれは絵も料理も同じ。……とか考えると、料理もまた芸術なんじゃないかと思えてね。というか、ぶっちゃけなにかを生み出す物全ては芸術なのかもしれない。一種の自己表現。自分の感情なんか自分で把握できるはずないんだし、やっぱり技術は必要なものの基本的に感覚に任せた方がいいと僕は思うんだけどね。じゃあ感覚的に適当に殺し合おうか」




頭が貫かれたと思う。




狐「そういえば……あー、これは前に話したことがあったかな?正直忘れてる。なにせこの会話、おっと申し訳ないこれは会話ではないただの独り言だ。僕が喋ってるだけだからね。それでえーっとそう、この独り言の中身は一切無いわけで、言うなれば日常で活動するに当たって発せられる生活音のようなものだからね。耳に馴染んだ音は確かに記憶には残るが、その詳細、中身などはあまり記憶されない。もう影が焼き付いているようなものだ。だけど影は影、ただの影。だから覚えてないからもしかすると二回目かもしれないが、まぁ聞きなさい。この狐面だが、見ての通り何も空いていない。完全にお面だ。どういう意味かわかるか?今現在僕の視界は0ってことさ。全くの闇だ、目の前に本当に誰がいるかどうかも実は定かではない。そんな僕はどうやってこうして話して殴って遊んでいると思う?正解は予想さ。正解は勘さ。ぶっちゃけ何となくで動いている。声が聞こえたらそれに反応はできるよもちろん、塞がれているのは視界だけだから。だけどそれ以外はそうはいかない、いつもいつも殺すときも本当にここでいいのか不安でひやひやするよ全くね。そんなひやひやを僕がどうしているか気になる?気にならない?どちらにせよ教えてあげよう。盲信だよ。これでいい、と信じ込むのさ。考えてみれば、そもそも視界が自由であったとしてもそれが本当かどうか信じる材料にはなりゃしない。根拠もないのに何故目の前の視界を本物と信じる?見えるから、は無しだぜ理由にならない。冷静になってみろよ、身の回りに理由もなく信じ込んでる事柄はいくつある?そして僕は別にそれを批判しているわけじゃない、むしろ大賛成さ。言ったろ?僕は勘で動いていると。根拠のない予想を信じ込んで動いてるってわけさ。信仰心のおかげか今まで予想が外れたことはない。信じるのって大事だぜ?お前さんはちゃんと信じて殺しにかかってるか?信じてないなら今からちょっと意識して殺しにかかってみなさいな」




多分頭が壁のシミになった。




狐「宇宙人は居ると思う?その疑問に僕は“居る”と答えるしかない。それは居ない理由が全く浮かばないからだ。宇宙って広いだろう?地球みたいな星が存在する可能性は十二分にある、だったら宇宙人だって居る可能性は十二分にある。というか可能性がかすかにでもわずかにでも塵のようにでもある時点で存在する、としか言えないわけだ。未知の領域とは可能性に満ちた領域だ。ある程度の無知は夢を膨らませる為の最適な環境だ。知らないからこそ空想が膨らむ。宇宙人がいる、という想像もそう。また別パターンで未来の人類が居るとかそういうのでもいい、可能性はある。可能性があるなら存在する。だが知ってしまえば?夢は散らされ、空想は吹き飛ばされ、そこにあるのはただの事実。何にも面白くない陳腐な個体さ。事実が最も正しい?確かにそうだろう。だが、正しさを求める意味は?“それを知る意味はあるか”、そこが重要だ。正しさで不利益を被るのなら当然正しさはいらない。不幸しか産まないなら知る必要はない。そんなものただの自殺と同義だよ。知らぬが吉という言葉はそういう意味では正しいと言える。夢は夢のままがいいのさ。少なくとも無意味に夢を霧散させることには賛同しかねる。極論を言うなら夢なんて叶わない方がいい。遠く届かない、だけれどただただ心地よく心を包み希望を与えてくれる、その状態が続くことが幸福。そんな事を言う僕はおそらく夢を叶えた事がない、どうせそう思うだろう?だけど話はもっと単純、僕は死にたくないってだけだ。死ぬかもしれない“願いが叶う”という行為と夢を追い続ける今の幸福、どちらを取るかというなら僕は後者を取るね。冒険に興味はない。スリルに興味はない。僕は安定を取り続けよう。……まぁ、現時点で僕に夢はないんだが。夢も希望もないって顔をしてるが、そのままじゃ僕に勝てんぜ。僕に夢はないが希望はばっちり持ってるもの」




両腕が飛んだから、次は多分頭が飛んだんじゃないかな。




狐「酷ぉぉい顔だなぁ、ちゃんと寝てる?睡眠は大事だぞ、夜更かしは楽しい確かに楽しい、毎日来る日常に潜む非日常、活動時間のロスタイムだ。続ければ続けるほどどんどん睡眠時間は短くなりこうなったら眠るも眠らないも同じと霞む思考が錯覚を起こし判断を鈍らせ更に夜更かしへと誘っていく、そして後悔するまでがテンプレート。まぁ日中でもどこか夢の中のような感覚に陥られるのはメリットと言えるかもしれないが行動のパフォーマンスは大幅にダウンだ、勤務先へ行く足も勤務中も身体が辛いったらありゃしない。断言しよう、あえて断言しよう、夜更かしは悪だ。人生を豊かにするチャンスを棒に振っている。僕が言えるとしたらただ一つ、寝ろ。それだけだ。やらねばならない時があるのは知ってるわかってる、だがしかし、寝れる時に寝ろ。思い返してみろ夜更かしの記憶を、その中で後悔しなかった時が果たしていくつあった?できることならやめるべきだよ。と言ってやめられてたらやめてるんだろうね。人間は過ちを繰り返すってもう幾ら言われてきたかわからないくらいに言われてるがこういう時にしみじみ思うね。繰り返すと言えばこれでもう何回目だろうね、覚えてる?僕は覚えてるよ、毎日毎日斬った首の数をちらほらと。ちらほらと?丁寧に一つずつ首を並べてカウントアップ。その結果は……知りたい?知る必要はないだろう?どっちでもいいって顔をしているね、最後に喋ったのはいつだい?人は喋らないと死ぬって言うけどそれの実験中かな?ならそれいつまで続けるんだ?」


狐「それ、いつになったらやめるんだ?」

















「———————……………」



記憶を思い返す。



たぶん……今度は。あごを鞘で下から殴られて。すぽんって飛んでって……いや。それは…いつかのやつで。


きのうは…………いっか。別に。



行こう。



「…………………」



……。


ん。あれ。








狐「おやややや、今日はどうしたんだー?結構様子が違うけれど」


「………………」


狐「また喋らない。じゃあ仕方ない、描写されそうなところを喋ってあげよう。今目の前にいるのはそう、例えるのなら、というかそのまま表現すると。死体に取り憑いた液状の鉄の化け物が手足を生やして教室の中央に佇んでいる、そんな感じだな。死体のように動かない身体の代わりに鉄を使ってやって来たと見える。よくもまぁそんな勇気出たものだね」


「………………」



うるさいな。


仕方ないでしょ。動かないんだから。

でも。身体が動かなくても。意識はあるんだから。身体の代わりに鉄を動かせる。

だからなんにももんだいない。


狐「ちなみにそれ、いわゆるアレだと思うよ。“口でそう言うが身体は正直”ってやつ」


なにそれ。


狐「要は“もうやりたくない”って言ってるのさ。身体が」


「………………」


そんなの。何回も思った。


今更。そんなこと言っても遅い。


狐「“もういやだ”」


遅いって。


狐「“諦めたっていいでしょ”」


そんなわけにはいかないよ。


狐「“頑張る必要なんかない”」


狐「“元々勝手に頑張ってるだけ”」


狐「“今まで何回殺してきたと思ってるの”」


狐「“汐里はこの事知らないんだから”」


狐「“知らんぷりしたら誰も気づかない”」


狐「“私も同じ時間を過ごせばいい”」


狐「“考えるのをやめて繰り返す時間を過ごせばいい”」


狐「“ちょっとの変化はあるんだから、それでいい”」


狐「“嫌ならずっと眠ってしまえばいい”」


狐「“これが私の死なんだ”」


狐「“これでもうおしまいなんだから”」



……今日の話は。そういうやつなんだ。


いつになったら終わるかな。これ。


早く戦わなきゃなのに。何のために話すんだろ。

なんて。そんなの愚問。嫌がらせだ。


もういくつも無駄話を聞いた。

散々だってのを何回も何回も繰り返すくらい聞いた。


だから今更何かが動くことなんてない。

途中で殺そうとしても無駄だから。私はひたすら待つだけ。

終わるまで。

終わるま「けふっ」


狐「……あーりゃま」


今のは私の声かな。

喋ってないのにどうして声が出たんだろう。


「ごぼ」


血が出た。口からだ。

じんわりと痛い。

なんとなくわかった。でもそれが意味する事がわからない。


狐「いや、そりゃさっきと同じ“身体は正直”案件だろう?」


胸を鉄の槍が貫いている。


狐「鉄も“嫌”だとさ」


狐が刀を抜きはなった。



と思う。
















なる、ほど。


そう。

そうですか。


そうですか。



身体は動かない。


鉄も出ない。動こうとしない。


布団から出ようとしない。

ここから私を出そうとしない。


もうやめて。


そう言ってる。狐の言う通り。


もういやだ。


そう言ってる。狐の言う通り。


私だけだ。私の中で、私だけが——



——私だけ、が。


私?


私、わたし、私。私、わたし、ワタシ、私、私 わたし私、私。


身体も嫌がって。

自分の意思で動く鉄も嫌がって。

じゃあ、じゃあ、それでも駄々こねてる私は?


ねぇ、私は?私って?


誰?


だって、私、私はさ。なにしようとしてたんだっけね。ふ。

だって。だって、だってってなに?


「ふ」


なんですか。

なにが、でもちょっとふつふつと。なんだっけこれ、言葉。

よくわからないけれど、そう、あー、



「ふ、くくっ、く」


そうだ、そう、おかしい・・・・

なんだかおかしい。おかしいんだ。

おかしくて、おかしい、おかし、くて、



「くはっははぁっ、あははははっひぃぃっひはひゃはははっ」



おかしい

おかしいから笑ってる、腹がよじれるってこんな感じ!


なんか面白い、なんか笑える!なんでだろなにが笑えるんだろ!

思いかえそうなにが原因?

私が原因だよ!だからなに!


「ふひゃひゃあっが、ぎひっははははっあっあっいーひひひひっ!!」


単純!単純だよ!

だって、だって!馬鹿らしい・・・・・んだもの!

自分がしてきた事が!

自分がしていた事が!

なんて、なんて馬鹿らしい!


なにしてんの私!!


笑いが止まらない止まらない死にそう!死のう!!

頭が吹っ飛ぶよ!







おはよう私!また朝だよ!またまた朝だ!


「あはははははははははははははははは」


痛いのも全部夢の中全部消えちゃった!

でもまだまだ笑いは止まらないや!


自分のしてきた事全てが馬鹿らしい!!


自分の選択も!意思も!

全部全部全部だ!!


ばかばかばーか!こんな事意味ない・・・・・・・・でしょーに!!


それを何回続けたのいつまで続けたのどんだけ続けてきたって言うの!?

もういいよね説明しなくていいよね笑わせて!

馬鹿らしさを堪能させてしわあせをください!

浸っていたいの楽しいの!今はこれが楽しくて楽しくて仕方ないんだ!

ねぇ!


ねぇ!!


だれに言ってるの、あは、あははははっ!!!










「———————はぁ」


いつまで笑ってたんだろ、何回死んだんだろ、何回目覚めたんだろ。



でもとりあえず収まった。


楽しかった。


一息。



「…………………………」




「……あー。…もう、いいや」




天井を見ながら呟いた。


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