最終回「青色の真実!因縁ごとこの城をぶち壊せ!」






空中に浮かぶ檻の中、青色の少女は目を覚ます。


海「————ぅ、く……?」


青色の少女、海花うなばな木雲こぐも

木雲が周囲を見回すとそこは石造りの装飾がされた壁。どうやら城の中の広大な空間……それも玉座だった。

玉座。そこに座り自分を見上げるその顔を見て……


海「あなたは…………誰?」

「わからない、わからないか。本当に全部封じたんだね、やれやれだ」

海「……顔は、知ってます。だからこそ……訊いてるんです。誰ですか、あなたは・・・・・・・・・

「ふん、顔は知ってると来たか。それは逆だろうに……まぁいい、教えてあげるよ木雲。直々にね。ま、長すぎるから呼び方だけ教えると……」


その顔。

木雲はよく知っているその顔をした少年は……頭から伸びた二つの触角のように跳ねた毛を揺らし、答えるのだった。


「……そうだね、ウサギ。うさぎ。それでいいよ」

海「……うさぎ……」


その名前を聞いた瞬間、木雲は何か妙な感覚に襲われる。

自分の内側で知らないものが暴れ出そうとするような感覚……だけど正体はわからない。

だからまず、木雲は今に至った経緯を思い出そうとした。


海(……確か、私は狐さんと一緒に野宿してたはず……)


それはすっかり日課となった日常の一つ。

狐の持つ様々な道具……狐曰く“おもちゃ”を忘れて何処かへ行ってしまったおもちゃ屋を探す旅。

これまでいくつもの村や町を巡り、情報を集めつつも頻繁に起きるいざこざを解決してきた二人。

……情報を集めると言っても、そのおもちゃ屋に関する情報はほぼ何も得られていないのだが。

狐も狐でどういう基準を持って移動をしているのかもわからないし、立ち寄った場所では必ず何かが起こったりと割と破茶滅茶な旅を続けてきた狐たち。

そんなこんなでいつのまにか辺境から都心、この世界で最も栄えていると言われる街へと近づいてきた所……だったのだが。

記憶はそこで途切れている。


海「……寝てる間に、誘拐したんですね」

う「ん。ああ、そうだよ」


続いて木雲は目を閉じて集中するような素振り……しかし眉をひそめる。


海「しかも、“みんな”の声が聴こえない……」

う「もちろん対策はしたさ。普通に攫おうとしたって気づかれる・・・・・のは知ってる、ならば外から遮断すればいい話だ。その檻にもこの技術を使っている。あらゆる通信手段を無効化する妨害魔法だ、結構苦労したんだよ?」

海「…………」

う「ん、もしやあの狐面が心配なの?大丈夫大丈夫攫った時には何もしてないから。……回収を確認後、遠距離から蜂の巣にする指令を出した。あいつが持っている道具は把握しているよ、その中に盾になるものは無い」

海「……!!」

う「今頃僕が所有するあらゆる武器が狐へ飛んでる頃だろう。だからもう心配する必要なんかないのさ。というか、そもそも心配するだけの物じゃないだろうに」

海「どういう、意味ですか。……あなたはどうして……狐さんと同じ顔をしているんですか」

う「それ訊く?なるほど、完全に忘れているようだ。物理的精神的逃避行は一度成功したって訳か。じゃあまず顔について答えようか」


薄く微笑みながらうさぎは頭上の檻へ声を飛ばす。

その様子は完全に今の状況を楽しんでいた。もっと言うならば……暇つぶしをしている時のような、そんな表情だ。


う「逆だよ、逆。僕じゃなくて、狐の方が僕と同じなんだ」

海「え……?」

う「そもそもの話をしようか。木雲、君は元々この城に居たんだよ」

海「はっ?」

う「居た、まぁ、居たでいいか。置いてあったと言い換えてもいい。……君は忘れてるみたいだからね、見せてあげよう」


その言葉の後に、玉座の真上へ巨大なスクリーンが降りてきた。

ちょうど檻の前。すぐさまそこに映像が浮かび上がる。


そこは、暗い部屋の中。

よくわからない器具が散らばるその中心に、それは居た。

首、腕、脚を鎖で繋がれてただ佇む、その人物は……青色の髪をしていた。


海「……」


自分。

木雲は一目見てそれは理解できた。だけど、何故?


『木雲。この絵を記録しろ。そして願え』

『————はい』


うさぎの声。そして、か細く微かに聞こえた自分の声。

映像ではわからないけど、自分は何かを見せられていた。そして、目を閉じると。

まもなく、自分の目の前へ妙な形の物体が出現して落下した。

それが誰かに回収されると映像は終了した。


う「はい、これ実物」


見下ろすとうさぎが映像の中で出現した何か・・をいつのまにか持っていた。

あれは一体何?その疑問に答えるようにうさぎはゆっくりそれを木雲へ向けて。

パァン、と乾いた音。


海「っ……!?」


一瞬何が起こったかわからなかった、が強い衝撃を受けた事は確かだった。

どこか……左肩に何かが当たった。どうなっているのか確認しようと目を向けて、まず入ってきたのは赤色だった。


海「っつ、く、ぅ…!」


その傷口を見て何となく理解した。

うさぎの持つ物体から何かが撃ち出されて、肩を貫いたと。


う「凄いだろう?全く見えなかったろう?この道具を僕は“銃”と呼んでいる。……ま、それよりも、だ。見ただろ、自分が何をしたのか」

海「……っぐ…」


その言葉で映像がもう一度頭の中で再生される。

映像の中の自分は、明らかに何かをして、あの銃を出現させていた。

そしてうさぎの声は言っていた……“願え”、と。

ざわつく。

この感覚を、木雲は知っていた。


海「……願え…願い………」


こつん、こつん、と胸の奥底で何かが訴える。

うさぎの声を聞けば聞くほどそれは強くなる。映像を思い返すほど別の何かが引っかかる気がする。

あの映像はおそらくうさぎの視点のもの。

しかし木雲は感じる。

自分の中に、逆の視点の……自分からの視点の記憶も、ある、ような。


う「まだ思い出せない?そう、なら、そうだね————これならどうだろうか」

う「ハロー、海花木雲もとい実験体03☆」


陽気なその声に……木雲の内側は激しく動揺した。

息が荒くなる。なってしまう。

それは撃ち抜かれた肩の痛みのせいではなく、何か、何かが暴れ出して、無意識に抑えようとして。


海「ぜろ、さん…じっけん」


解放されるのは一瞬だった。

ぶしゅっ。


海「あ…?ぁ、ああああああああアアア!!?!?」


血が噴き出る音と共に突如木雲の身体に無数の傷が出現する。

でも木雲の叫びはその痛みのせいではなかった。


う「おー、そうなるか。もう思い出したっぽいけど、それこそ君の力だよ、木雲」


叫ぶ木雲は無視しつつ、うさぎはゆったりとした調子で続けた。


う「想像実現。思ったもの、考えたものを自由にこっち側へ引っ張り出せる。とてもとても便利な力だ。創造神の如き力と言っていい。……それ・・はついつい過去の傷を実現した結果かな?いやー、そんなつもりはなかったんだが」

海「は、ぐ、ぅぅあ……っ…!!!わた、私、アア」

う「そんなにショックなものかね。とりあえず————」


うさぎが何かを言いかけた、その瞬間。

大きな音と共に玉座の間の扉が文字通り吹っ飛ばされた。


う「お?」

海「はっ、は、あ……?」


二人の視線がそこへ集中する。

そこにいたのは……蹴った脚を下ろし、歩き出したその……狐面は。


海「……きつね、さん…」

う「おっとっと?いや早いな、銃撃部隊はどしたのさ」

狐「あー?そんなの全部弾いた後に全部殴り飛ばしたさ。この刀がロマンに溢れてるのを知らないのか?剣ならともかく刀なら銃弾弾けなくてなーにが刀か」

海「きつねさん……ぶじ、ですか」

狐「まーた捕まってるのか木雲。無事ではないな。けどトリアージは黄色ってところか。僕は助けないから自分で頑張りな」

海「……きつねさん、その傷は…」

狐「ボロボロなせいで幻覚とか見えたりしてないか?そりゃ重症だから休む事をお勧めするよ。眠るには結構環境が悪いけど我慢しなさいな。時にはそういう事も必要だ」


そう言う狐だが、服は所々破れていてそこには切り傷も多数見えた。


う「銃撃部隊一瞬で全滅かー。じゃ、ここに来るまでに結構な数の門番立てといた筈なんだけど、そいつらは?」

狐「全員壁に植えてきた。名前は聞いてないから知らないけど」

う「なるほどなるほど。こんなに早いとはなぁ、んー、最悪の想定内だ。余裕が少なくなるのはいただけないなぁ」

狐「なるほど、つまりこちらとしては理想の展開って訳ね。じゃあ遠慮なくお前も殴る」


力強く床を踏み鳴らした……次の瞬間狐は青い軌跡を残してまっすぐ玉座へ突進する。

まさに一瞬。視認する間も無く刀、もとい鞘が叩き込まれる……はずだった。


が、その一瞬で狐は逆に壁に吹っ飛ばされていた。


海「……!?狐さんっ……」

う「想定内は想定内だよ。監視の目を飛ばして君たちの情報はよくよく知っている。今までの旅であった事を細かく説明だってできる。人形、君の速さも把握済みさ。なので僕は頑張って物理反射魔法を作り上げた」


壁が一部崩れて狐を瓦礫が下敷きにしていく。


う「時間があれば準備ができる。人形よ、君は徹底的に対策を練られた事はあるか?」

海「……人形?」

う「あ、まだそこまでは思い出してない?それともまだ整理がつかない?じゃあこの時間で語るとしよう」


うさぎは玉座に座ったまま話を続けた。

それは楽しそうに。


う「木雲……は自分で言った名前だが。実験体としての番号は03。……この世界にはこんな伝説がある。何万年かに一度、何らかの罪を犯し追放された神が人間として転生し、地上へ現れると。その実実態はただの突然変異種な訳だけどね」

う「文献を漁ればごく稀に出てくる例がある。生まれつき高位な魔法を扱える天才。周囲とは全く形式が異なる魔法を扱えた鬼才。才能なんて言葉で片付けられていたが、実際そいつらは突然変異種だった。そのメカニズムを説明してもいいけど今回は省略しよう。どうでもいいところだし」

う「重要なのはメカニズムを解明したその後だよ。仕組みがわかったなら早速実践さ。そんなわけで“作られた”のが実験体01。……でもねー、これが特に何も無い。失敗したかなぁ、と思ったがここで僕の思いつき。急遽実験体02も製作。01が雄で02が雌だ。となるとやることは一つさ」

海「…………」


木雲の中で嵐のように渦巻いた思考が少しずつ収まっていく。

同時に見えてくる。断片的に思い出された記憶が重なり、連なり、映像になっていく。

理解が、できていく。


う「01と02に子供を産ませた。そして出来たのが木雲って訳だ。……いやぁ、今でも思い出されるよ、あの時の衝撃と言ったら。産まれるやいなやその姿まで急速に成長、そして第一声が“海花木雲”だもの。成功を確信した。突然変異種を生み出せた事に感動すら覚えたさ。能力が発覚した時もお祭り騒ぎさまさかの想像実現だ。無から有を作り出す神の所業、まさに伝説の通り神の生まれ変わりだ。01と02は産んでからすぐ死んだが木雲と比べると価値が段違いってものだ必要経費だね」

う「で、せっかく作ったから色々有効に活用させてもらったよ。さっきみたいに武器を作ってもらったり資源を創造してもらったりね。だけどまー、それらを見てるとどうしても思っちゃうんだよねぇ。どうやってそんな事をしているのか……ってね」

海「……もう、いい…」

う「興味が引かれたら行動あるのみ。さっそく解剖の始まりだまずは体内に何か変化がないか見ないとね、その後も実験に実験を重ね」

海「…やめて」


木雲の身体に新たな傷が出現する。

それは完全に木雲の記憶の復活と同期していた。


う「あともう少し、あともう少しで解明が完了する所だったんだが……その直前、木雲は逃げ出した。その場から瞬間移動さ。いやー、あれには参ったよ。その後全力で探すも行方は不明、やっと見つけたら何やら厄介な情報が入ってくるし。木雲は記憶を失って新たな力を手にしているし、何やら妙な狐面が側にいるとかなんとか。だが、ここも予想は簡単だった。ヒントがあったからね」

う「脱走する前、木雲が最後に言っていたことがある。“おもちゃと友達が欲しい”なんて言い出したんだ。当時は何故いきなりそんな考えを持ったから不明だったけど、今ならわかる。自然・・から教えてもらったんだろう?外の世界を」

海「…………」

う「その自然の声の通りに君は抜け出した。辛い記憶は封じて自分を受け入れる辺境へと身を投じた。そんなところだろう」


木雲の記憶は、もはや何も封じられていなかった。

鮮明に思い出せる。この城の中で何をされたのか。自分の力。


う「お、その顔、ようやっと思い出せたらしいね。……ここまで話しといてなんだがぶっちゃけ教える意味はないんだが。あの人形に壊されたあれこれの修理が終わったら実験の続きだよ。中途半端に終わってずっともやもやしてるんだよ」

海「…………狐さん……」

う「ああ、そうだ木雲。答え合わせしてくれないか?あの人形の正体……あれは、」

狐「当人を差し置いて話を進めんじゃないよ」


その声と共に瓦礫が動き出す。

がらがらと音を立て、鬱陶しそうに瓦礫を退けて這い出す狐の姿がそこにあった。


海「!」

狐「おはよう木雲。さっきばんばん煩い人間どもに睡眠を阻害されたもんでね、仮眠を取ってた。悩みはすっきりしたか?」

海「……すっきり…で、いいんでしょうか…」

狐「すっきりでいいだろう。なにせ、少なくともこれからする事は明確なんだから」


頭から血を流しながら、狐はうさぎへまっすぐ鞘を向けた。


狐「黙ってやられる気か?もう木雲は無力じゃない。何も知らないわけじゃない。外の世界で見てきたはずだよ、それぞれの人間の生活ってやつを。“普通”を。無知は馬鹿で利用される、それは前の木雲だ。……今は、どう?」

海「……」

う「結構しぶといね。それもそうか。……で、勝算はあるの?」

狐「あるよ。いやまぁ、初見殺しには危うく殺されかけたが。まったく、酷い事をするもんだ。この刀を抜かざるを得ないか……と思ったが」


鞘を下ろす。

狐とうさぎの間には空間の歪みによる壁が形成されていた。


狐「それも届かなそうだね」

う「その通り、その刀の事も無論知っている。というわけで空間歪曲の魔法を作っておいた。いくら近づいても君が僕に到達することは無い」

狐「…………」


刀がどこかへ仕舞われる。


う「おや。どうするつもりだ?まさか勝算ってのは降参?」


そして。

うさぎの瞬きの一瞬。

狐は、その場で刃の無い刀を振るっていた。


う「…………は?」


うさぎの口から間抜けな声が漏れる。

なにせ……


う「は。え、なんだそれ。どういうことだ。納めてもないだろ?は?」


……斬れていた・・・・・

空間歪曲の魔法も。

物理反射の魔法も。

うさぎ自身も。


狐「……あのさー。いつも誰かが見てることぐらいわかってるんだよ、こっちは。気づいてないとでも思ったか?そもそも————僕の目的はお前だ。対策をしてない訳ないだろう」


刃の無い刀を血払いするように振るい、鞘に納める。


う「お前、どうやって、斬った?」

狐「どうやっても何も。これは元々そういう物・・・・・・・・・・なのさ。距離は関係無い。納めるのも必要無い。振るえば、斬りたいものが切れる」

う「なっ————」


狐面を外し、うちわのようにぱたぱたと振る。


狐「要するにお前は、僕の縛りプレイにまんまと騙されたわけだ。さっき言っただろう?“無知は馬鹿で利用される”」

う「おま、え……」

狐「……おや」


両断されたうさぎの姿が歪み、霧散して……玉座に座ったままのうさぎが現れる。


狐「お前を認識して斬ったと思ったが……なるほど、保険に幻覚系の魔法ってわけか。それじゃあ訊くけれど、あと保険はどのくらい残ってる?」

う「……っ…!」


怒りに顔を歪ませるうさぎ。すぐさま片手を向け、なにかを放出しかかる……所に、落下してくるものがあった。


う「!?」


金属音と共に空間の中心の床に衝突したそれは……鉄格子が両断された、檻。

そして、静かにしゃがんだ状態から立ち上がる青い影。

木雲は片手に狐の刀を持ち、まっすぐうさぎを見つめた。


海「…………」


青い瞳が、緑色へと変わる。


う「なんっ……その刀、いつのまに」

狐「あー、そうそう。木雲も狐面持ってただろう?あれ、通信機能の他に空間を繋げる機能もあるのさ」

う「……さっき刀を懐にしまった時か…!!」

海「ついでに言うならば……元々、全部知ってましたよ」


冷たく言い放つ。


海「事前に狐さんから教えてもらってました。旅の目的、私の正体、狐さんの正体……演技に気づかなかった所を見ると、やっぱりあなたは私を人として見てないんですね」

う「っ……当然だろ。人として扱うものか!んな事をしたら色々面倒なんだよ!余計な感情が付随するそれは研究には不必要だ好奇心を探究心を邪魔するなぁ!!」


放たれる電撃、火炎、氷塊。

それらを木雲と狐は鞘で易々と弾き飛ばす。


海「……でも、別にその心を否定はしません」


木雲が、ゆっくりと歩き出す。


海「好奇心。探究心。それ自体は間違ったものではないのだから」


放たれる魔法。

一つ一つをことごとく弾かれる。


海「だけど……あなたには、恨みがある。個人的な恨みが」

う「っ」


一瞬、うさぎの周囲に歪みが作られる。

空間歪曲か、物理反射か。どちらにせよ——


海「私はとても辛かった。だから」


刀に魔法が両断される。


海「……とりあえず、殴らせろ」

う「ひ—————」


うさぎの襟首を掴み、遥か上空へ投げ飛ばす。


海「晴天せいてん


呟きと共に殴り飛ばされたのは巨大な衝撃弾。

投げ飛ばされたうさぎに命中し、天井も突き抜けて城も突き抜けて空へ吹っ飛んでいく。

それを木雲は追いかける。床を蹴り、宙を蹴り、無様に吹っ飛ぶうさぎを追い越す。



……うさぎは激しく揺れる視界の中で、影の中で輝く緑の瞳を見た。

雲一つない空を背に、木雲は————うさぎを捉える。



海「…………あなたも、この城も……もう、要らない」


足を空へ向け、パァン!という破裂音と共に空を思いっきり蹴る。

加速。

パァン!!

まだ加速する。

パァン!!!

加速して、加速して、そして足をうさぎへ向け……叫ぶ!



海「らいッ……」



都市に住む人々は確かに見た。

遥か上空……一直線にうさぎへ突き刺さる青の軌跡を。



海「……てぇぇぇぇい!!!!!!!!」



その青の閃光は玉座の間の床を容易く貫く。

下の階の天井、床。

更に下の階の天井、床。

更に下層、更に下層、更に下層——ついには地面を超えて地下の階層。

それをも破壊し、全てを貫き、うさぎを地中へ叩き込んだ。


狐「……派手にやったね。生きてる?」

海「生きてますよ。手加減、しましたから」

狐「してるようには全く見えなかったけどねぇ。……何はともあれ、これでひと段落か」


埋まったうさぎを見つめる木雲の瞳が緑から青に戻る。

そして、隣に降り立った狐と共に自分が貫いた穴を見上げた。

本来ならば地下に届くはずもない陽の光が差し込み、二人を照らしていた。







海「……色々突っ込みたいのですが」

狐「なにさ。どれについて?狐面からビームが出ること?狐面がブーメランになること?意味があっても羽根で飛べること?それとも」

海「全部です全部!どれだけ隠してたんですかもう……それら使ってたらもうちょっとこの旅も楽だったんじゃないですか?」

狐「でも縛ったおかげで一番めんどくさそうな奴を封殺できたじゃないか。全てはこの為にってことさ」

海「それはそうですけど……はぁ、まだまだ隠してることがありそう……」


崩れる城からあれやこれやして脱出した二人。

意味のある場面では使えないと言っていた羽根でいきなり飛んだり瓦礫を狐面から出るビームで粉砕したりと今まで封じていた機能をふんだんに使って危なげなく脱出。

今は都市から離れてとりあえず二人で歩いているところだった。


狐「隠し事があるのがそんなに不満か?」

海「……そこまで、でもないですけど。だけど、もう隠さなくてもいいんじゃないですか?狐さんの持ってる“おもちゃ”は私が作ったもので、狐さんは……“友達”、なんですよね?」

狐「うさぎ、フルネームで言うとウーサー・ギュルムステイムが言った内容からするとそんな感じだね」

海「そんな名前だったんですかあの人。……って、え?違うんですか?」

狐「まぁね。結局あのアホ毛が知ってることはアホ毛が知ってることに過ぎないんだよ」

海「…………それって……」


立ち止まり、狐が狐面を外し木雲の方を向いた。


狐「推測自体はそこそこ間違ってなかった。確かに過去の天才とか鬼才とかは突然変異種だろう。その仕組みを解明し、人工的に突然変異を起こそうとした。そこまではいい。だけど、残念ながら実験は失敗してたのさ」

狐「失敗、つまり突然変異は起きなかった。生まれたのはただの人。01も02も、そして03も。多少他人と異なる能力はあるかもしれないがそれはあのアホ毛が望んだ突然変異種としてはごくごく小さなものだ」

海「え、じゃあ私はなんで——」

狐「単純。生まれこそそう言った経緯だが、木雲。お前さんはアホ毛がちょろっと言ってた神様だよ」

海「ああ、そっち」



海「はい?」

狐「リピート申請?じゃあもう一度。何万年かに一度生まれるという神の転生者。木雲はそれだよ」

海「は、え、は、はぁぁぁぁぁぁぁ!!?!??!?」

狐「ちょうどタイミングよくそこに転生しちゃったものだから、そりゃアホ毛も勘違いするよねぇ。ある意味転生ガチャ大凶ってところだ」


驚愕する木雲とは反対にいつも通りの飄々とした態度の狐。


海「え、な、でも私そんな記憶全然無いんですけど!」

狐「そりゃそうさ。神様生活に飽きて暇つぶしに記憶なくして転生するんだから」

海「そんな理由で!?」

狐「そんなものだよ。ああ、実際神様なんてそんなものさ。割と適当だしのほほんとしてる。人間は美化しすぎだよ全く」

海「え、え、じゃあ……狐さんって、何なんですか…」

狐「それ訊いちゃう?まぁいっか、答えよう。僕に名前は無い。木雲、お前さんにもね。けれど名前は無くとも“上”の方で僕はお前さんをこう呼んでいた」


狐「娘、ってね」


海「…………」


まさに、ぽかん。


海「え……あの、狐さんって……おとう、さん……?」

狐「そゆことだよ。転生前の話だけどね。地上に遊びに行ったって言うから様子見たら何やらガチャ大爆死してるんだ、流石に心配になるってものさ」

海「…………」

狐「ちなみに木雲って名前がぼくがつけた。それっぽいだろう?地上の文化を真似したんだ。それと自然の声を聞く能力だけど元々木雲は」

海「もういい、もういいです……大体の理由はもう何となくで想像つきますから……まさか親子二人旅だったなんて……」

狐「ははははは。ま、いいじゃないか。つまらなかったか?」

海「…………いいえ。それは絶対に無いです。狐さんが来てくれなかったら……ずっとあの村にいたか、あの人に捕まっていたか……」

海「だから、ありがとうございました」


頭を下げた木雲。

どんな顔をしているかと確認してみたところ、狐はいつのまにか再び狐面を装着していた。


狐「気にするな、ただのでしゃばりだよ」

海「む、何やら普通な反応ですね。狐さんにしては珍しい」

狐「珍しかったらだめとでも?」

海「照れてます?」

狐「この面からビームが出るの忘れたかい?」

海「それなら私も持ってますが」

狐「………………」

海「………………」



高速機動な二人によるビームの撃ち合いが始まった。





木雲がベッドで眠ったのを確認して、狐は部屋を出る。

ひとしきり遊んだ後、適当な宿を見つけてそこに泊まる事にしたのだった。


狐「……さて、と」


狐が思案するのは、これからどうするか。

と言っても別に重要な問題でもない。これからの木雲は自由なのだから。

これからの目的を探すこともまた目的の一つとなる。

だから……とりあえず、旅を続けるのが今のところの目的。


狐「そんなこんなで、とりあえずこれでこの話は終わりだ。そんな訳で」


狐は気ままに扉に手をかけ、開けた。












「あ、ぁえ、ひ————ごぶっ」



お腹の中がせり上がってきた。





扉が開く音がした。



狐「全く本編に関わりないおふざけ終わり。やぁやぁからたち実束みつか。派手に吐いてるね」



訳の分からない事を言って、狐面が空き教室の中に入ってきた。





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