遊ぶ




煙。直感的に実束はそう認識したが、実際には煙のような何か、だった。

前が見えない訳じゃない。何かのガスというわけでもない。

ただ、何かが、曖昧になっている、ような。そんな未知の感覚を実束みつかは感じていた。


実束「…………」


気がつけば、実束は鉄の鎧を消して、這いつくばりつつもそれ・・を眺めていた。

身体の端が解けて煙のようなものが漏れ出している、人らしきものを。

青い長髪に、ぼやけた何かを纏って身体がよく見えない、人らしきものを。

ゆっくりと開いたその瞳は、青色をしていた。

それ・・汐里しおりが倒れ伏していた場所に立っていた。

汐里の姿は消えていた。

そして、そして、それ・・は……汐里と同じ顔をしていた。


実束「…………」


言葉が出てこない。

理解が及ばないのだろう。今回の不明晰夢の、なにもかもに。


?「………ふ…」


それ・・が声を発する。

実束は、この汐里と同じ顔をしたものが、何を話すのかをただ待った。

それ以外にすべき事が頭に浮かばない。

……両手を広げ、高く高くゆったりと上げて。

右手首を左手で掴んだ。


?「ぁ、ああぁぁぁ〜…………っふぇ」


背伸びと欠伸をした。


実束「………………??」

?「んぁぁ、ひっさしぶりに動いたー……さて、さてと。今回は一体」


右を見る。左を見る。


?「……ん?」


後ろを見る。

真下を見る。

斜め77度の空を見る。

前を見ると見せかけて後ろを見る。

長座体前屈。


?「………おお?全くもって状況が掴めないね。なにがなにやらなんとやら」

実束「……しおり…?」


なんとかその名前を絞り出した。それ・・の発する声は汐里と同じものだったからだ。

言動も姿も似ても似つかないが。


?「む。そう言うあなたは…………ああ、はいはいはいはいわかった、今からわかるけどわかった。少し待っててね今同期するからステイステイだよ。……あ、次からそれ・・の・これ外していい?一々《》やるの面倒だからさ」

実束「どれのどれ……?」


一方的にそれは喋った後に腕を組んで、首がすぱんと両断された。


?「うぼぁー!?」

実束「えっ」

?「ってなんですかあなたは!今会話中でしょうにもー」


両断された頭をキャッチ、すぽんとはめたら元通り。


常「…え??」

?「あなたはアレだね、お約束御構い無しの現実的行動パターンな人だね!存在がスーパー非現実のくせして!私にこんな月並みのアクションさせないでくださいな。ちょっと待っててって、何もわからないと対応もできないでしょうに」


と早口でまくしたてるそれの首へ再び包丁を振るう……が、それは刀に止められた。


カ「じゃあ足止めしとけばいいの?」

?「そうそう。倒すとなんかまずい気がするし」

カ「あいよ。……あー、はい、初めまして。カナトです。ロボット…アンドロイド?まぁ、僕とかが誰なのかとか理解はしなくていいから」


と実束に言うと共に包丁ごと常を弾き飛ばす。

突然現れたカナトと名乗る少年は、白いぶかぶかの衣装に幾何学模様のマフラーを巻いて、宙に浮かんでいた。

実束は更に困惑を蓄積した。

吹っ飛ばされた常は着地するや否や一瞬でカナトに包丁を叩き込んだ。移動の過程をすっ飛ばしたかのように速い。


カ「うおっ……普通に速いなこいつ」

?「だいじょぶ?」

カ「防戦ならなんとかなるかなぁ。倒そうにも素じゃちょっと厳しいね」

?「なんと。じゃあ任せたよー」

カ「はいはーい」


?「さて。ではでは改めて……ちょっと情報量多いなぁ、一ヶ月近くぶりだからなぁ、辛かったろうなぁ……あっ辛いめっちゃ辛い、ひしひしとわかる。災難だったね私」実束「…………あの…」?「ごめんねー終わったら改めて会話するからねー」実束「あっはい…」


そう言われると実束は黙るしかなかった。

立ち上がれない、動けない。

ぶつぶつ呟きながら腕を組むそれと、その後ろの方でしきりに鳴り響く金属音をBGMに、ただただ待つしかなかった。



そのまま数分。



?「…………なるほど」

実束「えっと……」

?「お待たせしました、私は今あらゆる全てを理解しゃごほっどぶぇ」


吐血した。

実束は口をぽかんと開けて沈黙した。


?「がほっ、えほっ……ごめん、今のは驚かそうとしたわけじゃなくて……うん、ほんとごめん……余計なものまで受け取っちゃっただけだから……ごめんね……」

実束「……………」

?「うん、うん、気になってるよね実束。私が誰なのか。大丈夫だよ、大丈夫?大丈夫と言っていいのか……?……まぁともかく、私は汐里……でいいよ」

実束「しお…り??」

?「そう思うのも無理はない、そして厳密にめんどくさいこと言うと私を汐里と呼んで欲しくはないのです。それに記憶こそ今同期したけど、実束の知ってる汐里…ではないかもしれない」

実束「…???」

?「そう、そう、だから……ま、テンションが変な私と思ってくれればいいから。そしてお願いしましょう、この私・・・は……私の勝手な都合で、織潮おりじお つむぎと呼んでいただきたい!」

実束「織潮、紡」

?「そうそうそう、紡。じっくり理解してね。おうむ返しはいいことだよ。きっと。ほら、私何回か言ってたでしょ?現実と夢をちゃんと区別したい的なこと。ちょっと言い方違うっけ?ともかくそう、その関係でこっちもちゃんと区別したいのですよ」


それを聞いて、実束はようやく理解できそうな要素を見つけた。


実束「……あなたは…夢の、汐里?」

潮「あ、中々いい感じの表現。おおよそそう思っていただければ。……今思ったけどお話しする姿勢ではないねお互い。ほら立って立って」


と無傷の実束をひょいっと立たせる紡。

違和感に気づいた実束は自分の身体の状態を見たり触ったりで確認するが、やっぱり無傷だ。

そういえば、汐里はいつだったか言っていた。夢の中ならなんでもできる……と。

でも、それなら、今ここは汐里の夢の中?でもさっきまで……


潮「……と悩む必要は無いんだよ、実束。わからないことは考えないの。そんなのどうだっていいでしょう?わかったところで今は何も変わらないんだから」

実束「え、しお…紡、今私の心読んだの!?」

潮「読んだって程じゃないけど、なんていうか……見えるものは見えちゃうんだよ、うん、ごめん。勘弁してね。他人のならともかく自分のを書きつつ読み飛ばすとか無理だから」

実束「書く…?読む…?」

実束「……よく、わかんない」

潮「それでいいの。訳がわからなくたって、世界は元々訳がわからないものだよ。そのままの方がいい」


そう言いつつ紡は実束を撫でる。

撫でて、撫でて、するりと抱きしめた。


実束「ひゃ…?」

潮「さっきはありがとうね。あんなにぼろぼろになってまで私の所に来ようとしてくれたでしょ」

実束「それは…そりゃ、そうだよ……。でも、手が、届かなかった」

潮「そうだね、届かなかった。でも伸ばした伸ばさないじゃオリンポス山と私の胸くらい違うよ。さっき私は思考する余裕とかなかったけど、今改めて思う。すっっごく嬉しかった」

実束「…………」

潮「照れた?」

実束「照れた…」

潮「ならばこれは仕返しです。日常的にちょくちょく嬉しいこと言ってきやがってー!どう反応すればいいか困るんだぞー!」


ぶおんぶおんと実束を抱いたまま回転する紡。


実束「ゆ、夢の中の汐里って、こんなんなの?」

潮「夢の中の、というか。ふむ。外向きの顔が本心のままっていう人はピックアップ外星5以上に珍しいと思うけどね」

実束「……じゃあ、汐里ってほんとは……」

潮「それはどーでしょーかー」

実束「うぉうわっ」


ぶおんぶおんぶおんぶおん。


潮「ま、なんであれ実束は大好きだから。今までありがとうね。これからもありがとうを伝えましょう。ちゅーでもしようか?」

実束「ちゅ……って……キャラ変わりすぎじゃあ…」

潮「安心して、それはそこはかとなく冗談だから。そうだねー、久しぶりだからテンションがハイになってるのは否めないかも。……あ、ちゅーと言えば」


紡は実束を抱いたまま後ろを向く。


カ「やっとこっちに意識が向いたな!若干辛くなってきたんだけどー!」

潮「こっちはあらかた済んだよ、お疲れ様。これからも頑張ってね」

カ「ノータイムでつぎの仕事ですか!もう倒していいー?」

潮「んー……と、だめ。というか基本名無しザコ以外は殺し禁止だよ」

カ「だと思ったよ全くもう。……というかそろそろ離してあげたらー?」

潮「一理あり」


ひょい、と実束を解放する。


実束「ふぅ……」


一息ついて、改めて紡を眺める。

佇まい、雰囲気、表情の明るさ、姿……違うものは多いけれど。

それでも、言葉の奥底から、共通するものを実束は感じていた。


実束「……あなたは、汐里、なんだね」

潮「紡です」

実束「紡なんだね」

潮「その通り。……いっぱい心配したと思うけど、私は平気で大丈夫だよ。そして昨日は私あんまり働けなかったし、今日は実束が休んでて」

実束「私が?」

潮「うんうん。というか、足手まとい……じゃないね、えーとえーと……そう、巻き込まれちゃうかもしれないから」

実束「えっと、どういうこと?」

潮「説明するのが苦手なのでこちらを用意しました」


どこからか取り出したのは端々が妙に真っ赤な地図。

実束はここ一帯の地図だと認識した。しかし真っ赤な部分がよくわからない。


潮「その赤いの、全部化け物」

実束「え。…………えぇぇっ!?」


そう言われて改めて見てみると、よくよく見れば真っ赤な部分は赤い点が集合したものだとわかった。

いや、わかったけれども。一体これ、何匹……


潮「んー、大体何百か…で済むかなぁ。はいこれ最新版の地図」

実束「どんどん迫ってきてるようにしか見えないんだけど!」

潮「そりゃ私に向かって進んでるみたいだしね。思えば、ここに来てから違和感を探る暇もなく襲われたからなー……いやぁ、ほんとにびっくりした」

実束「いやそうじゃなくてー…」


迫る危険を理解してないかのような振る舞いに実束は更に焦る。

とにかく片っ端から対応しようと鉄を辺りに配置する……のを、紡が何かしらの方法で止めた。


潮「だから、実束。今日は休んでて」

実束「でも…」

潮「まぁまぁ見ていなって。……本音を言うと結構恥ずかしいけどー、まぁ実束ならいいかなーってねー、うん……」

実束「え…?」


二人に影が差す。

狼型の化け物が一番最初にたどり着いた。跳び上がり、空から二人へ襲いかかり横から蹴り飛ばされた。


実束「ひゃっ」


その蹴りの余波で空気が振動する。嘘みたいな現象に実束は思わず声を漏らす。

狼は蹴り飛ばされつつ空中で消滅し、蹴った張本人が目の前に降り立った。


海「……こんばんは、私は海花うなばな 木雲こぐもと言います」

実束「あ、はい、こんばんは…」


丁寧なお辞儀をされて思わずお辞儀をし返した。木雲と名乗った少女は背こそ常と同じくらいだが、コードのような物が繋がった耳当て、長い青色の髪、青色の瞳、波打つ模様が描かれた衣装をしていて、およそ実在の存在とは思えない姿だった。


実束「……また青色」

潮「趣味です。青、好きなので」

実束「そういえば……イヤホン青色だね。あ、筆箱も青い」

潮「よく見てるねー……まぁ、はい、そんな訳なのです」


若干恥ずかしそうに前髪を弄る。


海「じゃ、適当に蹴ってくるよ?」

潮「うん、それでよし。あんまり離れないようにねー」

海「わかった。……実束さん、今のところはあまり考えず流された方が、多分楽ですよ。流されれば、後はこちら側の者が勝手に動くので。例えるなら……RPGとかでよくいる、無言の主人公、みたいな感じにしていただければ。では」


その場で跳び上がった木雲は空中でパァン!と空気を蹴って空を跳んでいった。

当たり前のようになされた超常的な行動に一瞬呆気にとられる実束だが……木雲からの言葉をすぐに思い出した。

せっかくのアドバイスだし、今のところそれ以外に頼りになるものもない。

実束は、自分なりに実行してみることにした。


実束「……んと……木雲ちゃんは、どんな子なの?」

潮「ん?んー、木雲は……基本的に優しいし戦うのはあまり好まないけど殴る蹴るは結構好きで、なにかの目的の為ならなんでもやる自分を悪い子って思ってるけど実際のところ行動がひたすら優しい子で……あとめっさつよい」

実束「つよいんだ」

潮「うん、つよい。自然があるとこならとてもつよい。こう、パワーを貰えるの。自然を愛し自然に愛されたって感じの」

実束「ふむふむ」

潮「あとそこそこ常識人枠かな。たまに暴走こそするけど基本ストッパー役。大抵殴り飛ばして解決……あれ、あんまし常識人枠ではない……?ふと思い返したところ大体の問題を考える前にぶん殴って解決してるような……おお……?」


実束は、自分が何をすべきか少しだけ分かってきた。

木雲の言った流されるとは、つまりは受け入れて身を任せる、ということ。

要は。深いこと考えず疑問を持たず、乗っかるということ。


実束「うん、よくわかんない」

潮「だよね。……言い訳すると、基本放任主義だから把握してないというか、考えて書いてないというか……なんとなくで直感でって感じに」

実束「それはなんとなくわかるかも。感覚でやってる事を説明しろって言われてもうまく言えないよね」

潮「うんうん。それは違う!っていうのはわかるんだけどー…」

波「ででん」

実束「ででん?」


声がした方を見ると、そこにはまた新たな人物が現れていた。……木雲と似ている。木雲がそのまま高校生くらいにまで成長したような容姿。

えっへんポーズでドヤ顔しているけど。


実束「こんにちは」

波「はいこんにちは。不意打ちを仕掛けたのに先手を取られてしまったぜ、これはまずい」

波「だがそんな事を気にしないのが私です。というわけで枳実束さんとやら!私は仕切り直そう、今ここで!!」


ずびしと指差しをきめた後に塀をよじ登って裏側に落下した。

実束、ここは待機を選択。

少しの間を置いた後に再び塀をよじ登る人物が現れた。……木雲と似ている。木雲がそのまま高校生くらいにまで成長したような容姿。

えっへんポーズでドヤ顔しているけど。


波「私の名前を適当に聞くといい!私は波多波はたなみ 波季なみき!危険を操る“波”の一人!!ついに!ついに!ついに!!地上波で、私は!!拡・散する!!!いえーい見てるー私を知ってる約1名様ー反応よこー……さなくてもいいけどびっくりしたよもう」

白「地上波か?」

水「よくわからないけど、電波には乗ってるんじゃない?」

実束「うわっいつのまに」


名乗りをあげる波季を眺めていたら、実束の左右にいつのまにか一人ずつ青色の髪、青色の瞳の人物が同じように波季を眺めていた。

それぞれ波季と比べたら短めな髪。


白「ああ、驚かせるつもりは全くなかった。すまん。私は白波しらなみ 波止葉はとばだ」

水「水波みななみ 千波ちなみよ。あなたの事は知ってるから大丈夫」

実束「波季に、波止葉に、千波……波ばっかだしみんな青い」

水「私たちはそういうやつ・・・・・・なのよ。種族って思ってもいいわ」

白「だから決して手抜きではない。すぐにバリエーションが尽きそうなものだがな」

波「そこの二人!!!私の名乗りに対するリアクションが潰されたのだけどー!おこるぞー!あらゆる危険同時起動するぞー!!」

白「まあまあまあまあ。お前の対応は大抵の人間が困るだろうに。今はそんな時でもないのだろう?」

波「むー。たしかにさー、あっちこっちからさー、微妙な危険がぐいぐいと」

水「わかってるなら対処しなさいよ…」


波季の背後から熊が爪を振るった。

触れた瞬間、熊の動きが停止する。


波「ふふふふふーふ。私にそれを言いますか。危険を察知し、危険を操作し、危険を精神に飛ばすこの…私に!」

水「酷い説明口調」

波「え、説明したほうがいいんでしょ?こういう場だって台本には」


猪が飛び上がって波季に襲いかかる。

停止した熊が勢いよく空へ射出され、上手いこと出鼻を物理的にくじかれた猪は縦回転しつつ地面へ落下。その上に熊が落下してぐしゃっ、と潰れる。


水「でたらめ言うんじゃない本気にするでしょう!もう、今日はいつにも増して言動が荒波ね」

白「そう言うお前もなんとなくノリが良さそうだが?」

水「私はいつも通りよ。……にやにやして見つめても無駄だから。というか何よ。なんか言いなさいよ。ひたすら見つめて何がしたいの。せめて何か行動を起こしなさいって」

波「ちゅっちゅしますか?」

水「するか!」


千波が波季に向かって拳を突き出す…と、目には見えない何かが凄まじい衝撃波と共に放たれた……のを、波季は荒ぶる鷹のポーズで受け止めるか何かした。

見た目上何が起きているのかはわからないが、飛びかかる化け物が次々と弾け飛んでいるのを見たところ放たれた何かを掴んでぶん回すように操作しているらしい。


波「いい感じな武器的パワーをありがとう千波。後でちゅっちゅしてやろう」

水「あんたどこでも構わずそんな感じなのね……」

波「いやー、これくらいしかキャラを立たせる方法がなくってですね。ええと、外向きのキャラ?とか私無理!いつも通りにいつもの私で暴れるとします!」

水「あー、はいはい…わかった、じゃあもうあっち行ってなさい。誰も巻き込まないようなところで暴れてて」

波「地球から脱出してるね!」

水「行きなさい行きなさい」


しっしとされた波季は何かをぶんぶん回して化け物やら家やら地面やらを破壊しつつ遠くへ飛んでいった。

直線上に大惨事。


白「さて、枳実束とやら。感想はどうだ?」

実束「関わらない方がいい気がしました」

白「おめでとう、満点だ」

実束「わぁい」


実束の思考能力が著しく低下しているが些細な問題である。


白「そんな所で私たちも行くとするか。後がつっかえているだろうし」

水「そうね」

実束「あ、あのー……ひとつだけ、質問したいんだけど」

白「?」

水「なにかしら」

実束「波季ちゃんは、まぁあんな感じだったけど、二人はどんなことが?」

白「ん、気になるか?まぁあいつに比べれば大したことではないが」


波止葉がその場で足踏みをひとつ。

林檎が降ってきた。

波止葉が林檎を実束の頭に置くと林檎がすごい速度へ空に飛んでいった。

軌道を変えて落下すると遠くの方で文字通りの火柱が立ち上った。


白「……と言ったように、何事にも縛られない能力だ。今みたいなことができたりする」

実束「今までで一番何もかもわからない」

白「ははは。そういう力だから仕方ない。そちらも満点の回答だ」

実束「わぁい」

水「……あ、私?私は力を操る能力よ。波季みたいに察知はできないけど力の視覚化とか、吸収とか放射、増幅とか減少とか。波止葉よりはわかりやすいんじゃない?」


無造作に塀に手を当てると遥か彼方までが粉微塵。

想像はなんとなくできると思われるから描写は割愛する。


実束「すごい」

水「端的な感想ね。ま、そういうわけだから。疑問は解決した?」

実束「すっきりもやもやと」

水「よろしい。じゃ、巻き込まれないように気をつけなさいよー」


暴力的な力で綺麗になった道を歩いて去って行く千波。


白「では私も。縁があったらまた会おう。ちなみにこれは地面に立っていることに縛られない」


その場で地面に沈んでいく波止葉。


実束「…………沈むんだ…」

潮「沈むんだね……」

実束「え、紡も驚くのそこ?」

潮「ぶっちゃけあの人たちの行動私もよくわかんなくて……」

実束「そうなんだ…」

潮「ちなみに木雲は波季の子です……」

実束「そうなんだ…」


もはや驚かない。

遠くの方で怪物が打ち上げ花火になってたりしてても、もうそういうものだと実束は納得できるようになっていた。

なんか遠くの方で木雲と波季が空中で殴り合いしてても、もうそういうものだと……なんで?

紡のお腹から青い人が出てきても、もうそういうものだと……えっ?


波波「はろー」

実束「はろー…」

波波「こんなところからにゅっと上半身だけ失礼。はろはろー」

実束「はろろー…」


出てきた人物は言葉通り紡のお腹から上半身だけを生やしふわふわと手を振るう。

今まで見てきた波、とつく人の中では一番青い。なにせ服が真っ青。単色だ。


潮「あっ、波波。どうしたの」

波波「んーとね、ほら、波勢揃いじゃん?木雲含めて。なのに私呼ばれなかったからさ、一応にょろーんと」

潮「……いや、わかるでしょ?」

波波「いやでも!暴れなくてはいいけどせっかくだし喋るくらいはと…」

潮「それはわかるけど、どうしてそうフレイムなドラゴンみたいな出方を」

波波「個性を出したくて……あ、そうそう。そういえば言い忘れてた。自己紹介だけして帰るね」

実束「うん」

波波「私の名前は波波波波よつなみ 波波はなみ。波季と区別がつかないから特別な二文字文字構成です。……あなたも二文字だね?」

実束「にもじ?」

波波「ふむふむむふーむ。なるほど。実「」じゃ実房な姉と見分けがつかないと。枳「」でも同様に。でもどこかの、例えるなら身内だけでやるクロスオーバー時なんかは枳「」だったような?そんな感覚、そんな直感、そんなログが残っているような?ねぇねぇ、どうする?」

潮「どうするって……今更変えるのもなぁ……いや待って、もしかして二文字は自分だけでいい的な思考じゃないよね」

波波「ばれたかー」

潮「ばれますねー。仕方ない、ここからは枳「」でいこっか。実房さんの方がもし来ちゃったらその時はその時で!」

波波「わーい。それじゃ自己紹介+αも済んでしまったし、私はにゅるりと引っ込むとします。暴れたい気持ちを抑えつつ……暴走したい気持ちを抑えつつ……この私のキャラ完全に忘れてるから喋って思い出したい気持ちを抑えつつ……アッデュー!!!」


引っ込んだ。

実束はたまらずに紡に訊く。


枳「……えっと。紡、今のは?」

潮「波波波波 波波……波を四つ書いてよつなみ、波を二つ書いてはなみ。能力は……語らないでおきましょう。うちの子の中で最大の問題児です」

枳「波がいっぱい過ぎる……」

潮「明確な設定じゃないけど名前の波の数で一応強さを決めててさ。波止葉と千波が二つ、波季が三つ。この時点でぶっ飛んでるんだけど、まず読めない名前+物凄くやばい人を作りたくて……波六つの怪物が完成しちゃいました」

波波「怪物とはモンスターな!私だって一応乙‪‬くノ-」


頭から生えて来たのでそっと押し戻した。


潮「……ね?」

枳「うん、なんとなくわかったきがする。」

潮「棒読みだー精神が衰弱してるー……あ、そうそう。まだ山津波やまつなみ 緑波りょくはっていう人が」

枳「聞くだけにします。どんな人?」

潮「波季たちの姉…を自称する人。波季達が関わらなければ結構まともかも。消す能力を持ってます。物理的なものでも概念的なものでも好きなのを都合よく消去!」

枳「危険を操る、何事にも縛られない、力を操る、なんかすごい、消去……並べると、こう、ほんとに……すごい人たちだね」

潮「あははー。こういうの考えるのは楽しいんだけど、実際に動かす時チートが過ぎてぶっちゃけ扱いに困るの。そもそも戦うようなことはなかったけどさ」


という会話をしてる間にも実束へ後ろから忍び寄る影が一つ。

ゆらりゆらりと音もなく近寄り、実束の首へ顔を近づけて……舐めた!


リ「すごく鉄!!!!!」

枳「わぁ!?」


突然の鉄みに驚く金髪碧眼の少女リミリィ!そして突然の声に驚く実束!

実は実束は念のために全身に鉄コーティングをして防御態勢を取っていた。遠く離れた場所で暴れてはいるものの、さっきの様子を見てこっちに被害が来ないとも限らないので準備はしていたのだった。

想定とは違う方向に機能したが。


リ「どうして!どうして!ついに登場一発目のぺろぺろさえも失敗するなんて……最近失敗しすぎだと思う!どうしてくれる!」

枳「わかんないよ」

リ「そりゃそうだね。じゃあ私はどうしよう……」


枳「……紡紡、あの子は?」

潮「性格的にそのうち自分から名乗ると思う」

枳「おーけー」


リ「……むーぐー。やはりわからない。私は一体どうすれば?」

枳「えっ、と。とりあえず、何の用かな?」

リ「あ、うん、そうそう。私リミリィ。メリーさんの妖怪。あなたの護衛にきました」

枳「護衛……守ってくれるの?」

リ「うん。そう頼まれた気がするから。任せなさい」


と、どこからか取り出した巨大なハリセンを八相の構え。


リ「……こっちだっけ」


どこからか取り出した巨大なピコピコハンマーを八相の構え。


リ「……こっち?」


どこからか取り出したこんにゃく付き釣竿を八相の構え。


枳「私的には…ハリセンかな?」

リ「ん、そなの?じゃあそうします」


巨大なハリセンを八相の構え。

その表情はやる気に満ちて、今か今かと敵を待っている。

右を向いて左を向いて、回れ右して下を向く。


リ「……みつか!敵がこない!」

枳「波季ちゃんとかが暴れてるからかな」

リ「うわっなみきいるの?こわい……」


縮んだ。


枳「(他の人でもそんな感覚なんだねー…)でも、ありがとうね。私だけだと少し心配かもだし」

リ「ほんと?」

枳「うん。私なんか鉄が出せるくらいだし」

リ「えっなにそれ強そう」

枳「そうかな?リミリィちゃんはなにかできる?」

リ「見えてる誰かの背後に瞬間移動できます」

枳「奇襲専用だ」

リ「そうそう。背後に回ってぺろっとするの」

枳「……ぺろっと?」

リ「そう。すると相手は……驚く」

枳「驚く」

リ「私はお腹が膨らむ」

枳「なるほど。驚きがごはんと」

リ「そうそうそうそう。あなたは理解度がかなり高い人だね、ゆうしゅう」

枳「ありがとう?」

リ「どういたしまして。でもそっかぁ、波季とかいるなら暇になるなー。……あ」

枳「?」


声を上げたリミリィが一瞬で消えた。

どこに行ったのかと辺りを見回してみれば、また新しい人物の背中に乗っかるリミリィを確認。

そこが定位置と言わんばかりに居座っているし、乗っかられている人物もそこが定位置と言わんばかりに微動だにしない。

リミリィを背中に乗せたままその少女は駆け寄ってきた。髪飾り、帯にそれぞれついた鈴がりんりんと鳴る。


鈴「こんばんはー……リミちゃんが迷惑かけなかったでしょうか」

枳「いえいえ全く。えぇと、あなたは?」

鈴「早乙女さおとめ 鈴歌れいかです。亡霊やってます」


しゃりんと鈴を鳴らしつつお辞儀をする。

白装束のような服に桜色の肩にかかるくらいの髪、桃色の瞳。あとさっきから鳴っている髪飾りに付いた鈴、帯に付いた鈴。

見た目的に幽霊っぽい箇所は特に無い。


鈴「……呪いませんよ?」

枳「いやいやそんなことは思ってないので」

鈴「ですよね。……私も、一応あなたの護衛が目的なんですけどー……波季さんとかいるみたいですし、やる事はないですね」

枳「そうだねー」

リ「れいか、この人鉄製だよ。metallicだよ」

鈴「鉄……?」

枳「鉄を出せるの」

鈴「ああ、なるほど!それはなんだか便利そうですね」

枳「普段人前じゃ使えないけど。あなた達の世界ならともかく、私の生きる世界にそういう人はいないから」

鈴「……幽霊とかもいない?」

枳「いない…かはわかんないけど、少なくとも見えないよ」

鈴「そうなんですねー……」


と、ぐうたら会話している内に空から飛来する影が一つ。

実束達の前に怪物が落下してきたのだ。それもこれはサソリ型か。


リ「わっ!?……もしかして吹っ飛んできたの?」

枳「命からがら逃げてきたようにも見える……っと、そうじゃない」


身体から鉄を流し臨戦態勢をとる実束、しかしそれを前に出て鈴歌が制した。


枳「鈴歌ちゃん?」

鈴「ここは任せてください、実束さん」


袖の中からゆっくりと鈴を取り出す。黄・赤・青・緑と色が分かれた変わった鈴だった。

サソリが実束達の姿を確認し、素早い動きで突進してくる。

それを見ても鈴歌は冷静に、静かに鈴を真上に掲げ……振るった。


鈴「——青!」


…………澄んだ音が響く。実束は奇妙な感覚を覚えた。

音は響く。響くが、何か妙だ。耳ではなく、直接頭の中に響くような。

そして、妙に落ち着く。心が冷えて、動きが鈍くなる感覚。

それはサソリも同じことのようだった。突進する脚はすぐに動きを止め、その場に立ち尽くしてしまう。


鈴「駄目押しに……音切爪!!」


鈴を一回転させた後に振るい、音が鳴り響く……が、様子がおかしい。

音が見える、ような気がする。

円状に広がった音の波動が、歪み、変形し、爪となって……サソリを切り裂いた。

ように見えた気がした。

そのサソリは一瞬身じろぎした後、倒れ伏して動かなくなった。


リ「じゃあ後は私が」


サソリの背後に出現したリミリィ、ハリセンを持って何故かア゛ア゛ア゛〜〜〜〜ッと叫びながらバキッとサソリを叩く。ハリセンでそんな音は鳴らない筈だが。


枳「…………」

鈴「はい、後はリミちゃんが倒してくれるでしょう。……私、この鈴の音で感情を動かせるんですよ」

枳「今私がすっごく落ち着いてるのも…それが?」

鈴「そうですそうです。一度目の音で感情を凍えさせて動く気を無くさせました。次にちょっと音の伝え方を工夫して、心をぶった切ったんです。音切爪、と言います」

枳「へぇ……」


心を引き裂かれた者がどうなるかは、ひたすら無抵抗で叩かれてるサソリを見ればなんとなく想像がつく。

実束は思う。波の人たちはぶっ飛んでるけど、この子もこの子で中々とんでもないんじゃないかと。

リミリィは、まぁ、うん。バキッ。まだ叩いてる。


鈴「一度に複数来ても平気なので、どうか安心してください。お仕事はしっかりしますので!」

枳「鈴歌ちゃんの音に私が巻き込まれる可能性は?」

鈴「あっ」

枳「あっ?」

鈴「………………。お仕事はしっかりしますので!」


りんりんと鈴を鳴らしつつ鈴歌は言う。あ、これ自分を落ち着かせてるな。

その時だ。遥か彼方から飛来する人影が一つ。


?「せぇぇぇぇぇい!!!」


まっすぐ真下に叩かれているサソリに向かい、足を突き出し、それは————落下した!!


鈴「な、なに……!?」


何処からか舞い上がる煙。そもそも紡が現れてから視界こそ遮らないけど煙のようなものが辺りを包んでいるけど。

ともかく、その煙が晴れると……

人が倒れていた。

多分さっきキックしようとしてた人物だ。

鈴歌と同じような白装束、長い桜色の髪、標準的な成人ぐらいの背丈……そして赤いヘルメットを被っていた。


鈴「…………あ、あなたは……!」

枳「知っているの鈴歌ちゃん」

鈴「あの人は、時折現れては妙な行動をする————」?「その名も!!」


起き上がってポーズをとった。


マ「愛する我が子をそっと見守る赤の何か!サオトメマザー!!」

鈴「サオトメマザー…!」

枳「鈴歌ちゃんのおかさあ」マ「ストップ」


と、言った言葉通りに本当に実束の動きは止められた。


枳「……っ…?」

マ「ごめんなさいね、それはえぬじーって奴よ。ともかく助太刀に来たわ、早乙女鈴歌!あとリミちゃん!!」


枳「紡紡」

潮「早乙女さおとめ 鐘歌しょうか。まぁ、察する通り鈴歌のお母さん。同じく亡霊。鈴歌よりも人の感情を動かすことに長けていて、動かすというかもう操るかも。鈴歌の鈴は特別なもので道具の力を借りて感情を動かすんだけど、鐘歌はあらゆる音を使って感情を操れる。というか人を操ってるかも?」

枳「さっきは声で操られたんだ」

潮「そうそう。行動は危なく見えるけど危ないことはないから安心して」


鈴「助太刀……」

マ「そうよ、助太刀。二人ではまだ不安でしょう。私も護衛を手伝いましょう」

鈴「なんで私たちを助けるの…?あなたは一体……」

リ「…………みつか、演技じゃないから。しょうかがちょっと弄ってるせいで気づかないの」

枳「いつのまに後ろに。なるほど、色々事情があるんだね」

リ「れいかが亡霊になった事とかと色々と……」

枳「ああ……」

鈴「リミちゃん、なに話してるの?」

リ「ぺろぺろを直前で阻止されて尋問を受けてました」

鈴「あはは…そっか」

マ「ところで敵はどこ?私の手拍子が獲物を待ってるわ」

リ「なみきとかがいるんだって」

マ「あらそうなの。じゃあなんにもすることないわね」


警戒態勢解除。


枳「……あの人の扱いが大体わかった気がする……」


そんなこんなでする事もなくのほほんとしている亡霊二人、妖怪一人、人間一人。紡はカウントに含まない。

しばらくすると木雲が戻ってきた。


枳「あ、お帰りなさい」

海「はい、戻りました。……む」

鈴「木雲ちゃん!木雲ちゃんだ!こんにちは!」

海「……。お母さんと殴り合って満足したので帰ってきました。お母さんが居る中戦うのはちょっとリスクがありすぎるので……」

鈴「こんにちはー!さっそくだけどちょっと撫でていいかな」

海「無いとは思いますが、撃ち漏らし等がこっちに来たら私が対処しますね」

枳「うん、ありがとう……ところで、なんで波季ちゃんと殴り合ってたのかな」

海「流されましょう、実束さん」

枳「あっはい」

海「あと、あなたは対象外でしょうが、そこの亡霊は割と危ないので一応注意を」

枳「はい」

海「……だいぶここの空気に慣れましたね。流石です」


無視される鈴歌はいつも通りなんだなと実束は察した。

そしてがやがやとそれぞれが談笑を始める。たまに波止葉がいるように見えたのは多分気のせいだろう。多分。

かなり謎の空間に適応した実束。ゆらゆらと白い布を纏った首吊り死体が寄ってきても普通に対応ができた。


枳「こんにちは」

初「…………なんと…驚かない……」

枳「ごめんね」

初「気にすること、はない。意外ではあっ、たがそれ、はそれでやりやす、い」


途切れ途切れになる喋り方は、恐らく首に巻きついた縄のせいか。

というか、よく見たら、首吊り死体というよりこれは……


枳「……あ、照る照る坊主?」

初「その通り。…………私は照る照る坊主の付喪神、その名も初空ういぞら 日照ひでり。雨を退け陽を呼び込む日輪の使いにて木雲のともだブホッゴヘゥッ」


流暢に話し出したと思ったら咳き込んだ。


初「…………失敬。」

枳「あ、お気になさらず」

初「有難い。……木雲、呼ばれて来、たはいいけ、どこれは一体?」

海「んー……特にやる事はないかも。私が思うに、お母さんたちと出す順番逆だったんじゃ……」

初「見切り発、車。考えなしは、いつものこと。ぐだぐたの方、が、それら、しい」

海「確かにね。果たしてこれを見ている人は置いてけぼりに……むしろなってた方がいいのかも」

枳「本音を言うと突っ込みたいことが沢山ありすぎて…」

海「全てに疑問を持つと死にますよ」

枳「笑顔で言い切ったね」

初「私でさえ、よくわから、ないことがたくさ、んあったりするよ」

枳「そちら側の人でさえ……」

初「今も、うん。カナトはな、にをしているの、かなとか」

海「カナトお兄ちゃん?」

枳「カナト……あれ、なんか聞いたことが……」


ずっと鳴っていた金属音がBGMからSEへと認識が変化。


枳「あっ。そういえばずっとアレを抑え続けて…」


紡の後ろの方を覗いてみる。

まだやっていた。相変わらず常は音速と見間違うくらいの速度でカナトへ襲いかかり、カナトはそれらをひたすら防ぐ。それでいて他の誰かを襲いにいかないようにある程度の攻撃も欠かさない。

大変そうだなぁ、と実束は思った。


カ「いや大変そうだなぁじゃなくてね!実束はまぁそのままでいいけど誰か手伝ってくれないかなー!」

鈴「私は非戦闘員だし遠慮する…」

リ「背後に回った瞬間に背後に回られそう」

マ「私の音はこうかがばつぐん過ぎて殺っちゃうかも。鈴歌ちゃんも同様に」

白「私は見ての通り怪物の相手で忙しいから無理だな」

初「普通に怖い……」

海「流石にその速さに対応するのは厳しいかな…」

カ「全滅かこんちきしょー!」


「じゃあ僕がいこう」


そんな声が何処からか響く。カナトと同じ……に聞こえたが、どこか違う。

瞬きをした一瞬。カナトの隣に、赤色の少年が現れた。

顔も、髪も、カナトと同じ。違う点を言うとしたら、空高くどことなく兎の耳っぽく鋭いアホ毛が二本立っていることか。


カ「主人公じゃないか遅いなもう!」

「主人公と呼んでくれてありがとう、もはや主人公要素はほぼ無いけれどそれでもありがとう」


鈴「うさぎちゃんだ」

リ「うさきだ」

白「おお、やっと来たか」

初「久しぶりのうさ、ぎ」

海「キャラ覚えてるかな、大丈夫かな…」

枳「うさぎ……?」


うさぎと呼ばれた少年はまず縦に両断された。


枳「あ」


布と綿が辺りに散らばる……綿?

瞬きをした一瞬。またもや赤色の少年が現れた。


う「うっわ速いなこいつ」

カ「でしょ?なんとかなる?」

う「ぶっちゃけよくわか


両断。

出現。


う「らないけど、適当にやってみようか」

枳「……人形?」

潮「そうだよ、人形の身体。うさぎはね、アレでも一応主人公なの」

枳「主人公……」

潮「うん。…………まぁ。その。書き切ってないし、最初に考えたキャラだしある程度は許して欲しいんだけど……主人公感ほぼ無いけど……うん」

枳「……なんとなくわかった」

潮「すごいね」

枳「感覚で理解するってわかった」

潮「すごい正しい」

枳「それで……どんな事ができるの?」


カナトが変わらず常を抑え込みつつ、うさぎは後方からいつのまにか握っていた拳銃の形をしたもやもやから緑色の光弾を放つ。

命中はやはりというかしない。ばら撒いても無駄だ。

常は光弾など気にすることもなく変わらずカナトを斬り伏せにかかる。


カ「見えたー?」

う「7割くらい。後は想像でどうとでもしよう」

カ「せっかくだしエフェクトでもつけたら?」

う「別にいいでしょう。結構使うし…さっさとやってしまおう」


瞬き。

その一瞬で、常は動きを止めざるを得なくなった。

もう一人の常が、同じ速さで常を捕まえて押さえ込んだから。


カ「さっすがぁ」

う「ナイス想像通り」


潮「うさぎは、創造神…想像神かな。想像したものをそのまま表に出せるの。人形の身体もあの常ちゃんもうさぎが作ったものです」

枳「あの人たちを見た後だとなんか大人しく見えるけど十分とんでもないね…」


と言った矢先に建物を破壊しつつ迫ってくる危険物体が一人。

うさぎは危険を察知して逃げ出したがたとえ24時間早く逃げ出していたとしても遅い。


波「うぅぅぅぅぅぅぅさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぎぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!!!!」

う「ごふっほぁお」


うさぎは波季に捕まった。

すりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすり。


波「ひっさしっぶりー!ひっさしっぶりー!昨日会った気もするけどひっさしっぶりーっ!」

う「うん昨日会ったってかログインは途切れず続いてるからね、確かに久しぶりな感覚がするのは否めないけどとりあえず離そうか波季」

波「嫌です」

う「すごい知ってる」

波「だよねー!すぅぅぅりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすり」


枳「いつもあんな感じ?」

カ「まぁあんな感じだね」

海「むしろ控えめかも」

潮「あの二人見るのも久しぶりだなー……うーん、なんだか感慨深い」

枳「……」


これで、常は無力化され、怪物が殲滅されるのも時間の問題……いや、やろうと思えば一瞬で問題は解決していたんだろう。

今までを考えたら本当に夢みたいな話である。実際、この空間はまるで夢のようだ。


目は覚めているけれども、どことなく意識にはもやがかかっている。

なにもかもの認識がそれとなく曖昧で、だからこそ理解しなくてもあまり気にならない。


潮「そりゃ、そうしたいから私はここにいるんだから」

枳「……また読んだんだね」

潮「てへ。……うん、私は、ただただ夢を見ていたいんだ。何も考えなくていい…じゃない。難しいこと、めんどくさいこと、そういうのを考えなくても楽しい場所を。都合のいい場所を。不条理じゃない場所を。幸せな場所を。私はただ求めた」

枳「…………」

潮「……幸せではない、って言いたいんでしょ。その通り。だから、夢。だから、現実じゃない。現実で不幸な分、私は夢で幸せになる。……まぁ、そんなところです。この考えは間違ってるんだろうね。矛盾点はたくさん頭に浮かぶ。指摘されそうな点はたくさん頭に浮かぶ。ふわふわ曖昧にふんわりと抽象的にね。でも、止められる気はしない」


紡は曖昧に緩む空を、世界を眺める。


潮「そんな私が私は大嫌い。そんな私の夢が大好き。私は私を認めない。私は私の夢がかけがえのない物だと主張しよう。適当でいいこの場所にいつまでも留まっていたい。……とても悲しいことに、それも今は叶わないみたいだけど」


どういうことだろう、と思った矢先、凄まじい何かが起きた。

吹き飛んだ。消し飛んだ。化け物ごと、建物ごと、紡たちがいる周囲全てが。

同時に実束の意識が急激に薄れていく。

終わったんだ。そう思うのももうやっとだ。


潮「それじゃ、もうとは会わないだろうけど、またね実束。先に眠ってて。先に目覚めてて。後始末とかその他は私が…あー、私たちがやっておくから」

枳「まっ……」


霞む。霞む。霞む。

訳がわから ☆ ないまま、今日△が 終わ ☆


〜☆〜□〜☆〜△〜☆〜◯〜☆〜□〜☆〜△〜☆〜◯〜


って、いってしまう。

聞きたいことがあるのに。まだまだたくさんあるのに。

あなたの言葉の意味。あの子はなんなのか。たくさん出てきたあの不思議な人たちはなんなのか。今日の不明晰夢で何があったのか。

あなたは、なんなのか。

知っているんでしょう?知ってるんだよね。だから。


「まって…」


沈む。

手を伸ばしても、ぼやけた何かには届かない。


だけど、そのぼやけた何かは、笑っているように……見えたような、気がする。




………………………………。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る