十一話 キャラは壊れてないよ
〜☆〜□〜☆〜△〜☆〜◯〜☆〜□〜☆〜△〜☆〜◯〜
〜 ☆ △□— — ————-ー………………………………
「………………………」
ゆっくりと目を開く。
視線は裏側から表に。認識は未だおぼろげで。
……おぼろげ。
「………………………」
目の前には
しっかりと私は実束を抱きしめていたがそれはどうでもいいので拘束を解いてむくりと起き上がる。
「………………………………」
目を閉じる。
閉じて、思考して、ふわふわな風景を思い返して、開けた。心臓の高鳴り。
それはどんどん強くなっていく早くなっていく、息がどんどん荒く
「みつかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
我慢できない弾けた!!!!
「どわぁおっ!?」
「みつかみつかみつかー!!!!!!!」
飛び起きた実束の肩を掴んでぶんぶんぶんぶんがたがたがたがたベッドがぎしぎしうるさいそれどころじゃない!!
「なになにどぅおうしぃっしおぅり」
「ゆめ!!!」
「ゆめ!!?!?」
「ゆめだよみつか夢だよ実束いっつどりーむ!」
「えっとつまり!?」
「ゆめ!!!!みれた!!!!!!」
「そうなの!!?!?」
「そうなんです!!ゆめ、ゆめがね!!久しぶりに久しぶりにわたしの夢が!!!」
「うん、
真顔で言われて流石に少しだけ濁流のごとく激しく流れる感情が少しだけ収まる。
「深呼吸。いい?深呼吸。吸ってー、吐いてー。言いたい事を頭の中でまとめながら、吸ってー、吐いてー」
言う通りにする。しかしまとめると言ってもこう変わらず頭はぼんやりしてるし、そもそも夢はまとめてしまったら、そう、そう、わたあめを想像してほしい。せっかくのふわふわを凝縮してしまったらとてもちっちゃなつまらないものになっちゃう。つまり台無し。砂糖になるの?試した事ない。試そうと思わない。
「おっけー?おっけーね。じゃあ汐里、なにがあったかゆっくり話してみようか」
「実束、わたあめを固めた事ある?」
「だめだこりゃー」
会話に失敗したみたいだけど、そんなことは私にとってそんなに影響はなくて、でもあれ?実束に伝えてどうするの私。それに何の意味があるの?
「えーと、汐里?はいといいえだけで答えてね。夢見れたって言ってたけど、夢を見たんだね?」
「うん」
「とても久しぶりに」
「うん」
「うん、わかった。……たしかに私も何かの夢見てた……気がする。5日ぶりだなぁ」
どんどん私の中の熱がちっちゃくなっていく。視線だけじゃなくて認識も外側に向いてきたのかな。
そうだ、うん。実束に言ったってしょうがない。見た夢は自分の中にとどめておくべきだ。
今回見た夢……青い……あれ。
待った待った…思い出せないぞ?なんで。刀、は、覚えてる。変なギミックの刀。これは創作のネタになる。後で隙を見てメモしとかないと。でもその他の事が思い出せない。青いって事だけはなんとなく頭に浮かぶ。でもそれ以外が。
もしかして、取り逃がした?久しぶりだったから勘を忘れた?見た夢は忘れない私が。この私が。どの私だ。でもこの私が。
それは…………それは……
「……………ぅぅ」
………………凄まじく悲しい。私の…私の夢が……
泣いてしまいそうだ。泣かないけど。泣くものか。夢で泣くのは内容に関する時だけだ。
「汐里?」
「なでて……」
「……承知」
「承知ってなんですか…」
「なんとなく?」
「そういう人だったね……」
何をしたかはわざわざ描写しなくていいでしょう。そこはあまり重要なことじゃない。
これから話すべきなのは、私が夢を見たってこと。
私も実束も夢を見たってことだ。
「……そういう訳でして。また実験には失敗したんですが」
「不思議なことに不明晰夢を見なかった、と。朝だからかしら?」
「単純に考えるとそうなります」
私と実束は落ち着いた後一階に降りて、再び
「片方だけ見るとかだったらまだ個人差の可能性もありましたが……いえ、材料が足りないですね。まだ偶然かもしれない」
「ふむふむ」
できれば個人差であって欲しくはないけれども。
私一人じゃあどうしたって化物を殲滅とか無理だ。死ぬしかない。
「材料が足らないなら集めるべき……とは思いますが、リスクが高すぎます。私は良いんですけど、実束も実房さんも連続では眠れないでしょう。もし私一人になったら、確実にアウトです」
「じゃ、やる事は今までと変わらない…でいいのね?」
「それが一番無難で安全…だと良いんですけど」
でも、今のところそれでなんとかなっている。
ある程度安全性が確保できていないと行動を起こすべきではない。
命がかかってるんです命が。死んだら夢見れるかもわからないし死ぬべきではない。
「…………ねぇねぇ汐里ちゃん」
実房さんが新たな疑問を見つけた、みたいな顔をして手を挙げる。
「はい」
「汐里ちゃん、昨日は何時に寝た?私は8時くらいだけど…」
「……何時だっけ?」
「9時すぎだよ」
確か実房さんが二階に上がってから、お風呂入って部屋行って……一時間も経ってたのか。
それはともかく、実房さんが言いたい事も察した。
「じゃ、一時間のラグがあるんだね……でも私の声が聞こえたのは目覚めてすぐだったと」
「そうなのよ。変よね」
「異なる時刻で眠りについても、向こうでは関係ない……そうなると場所も怪しいかも…」
「……やっぱり駄目かな?」
「一回は試してみるけど、あまり期待はできないと思う」
「そっかー…」
そうしょんぼりしないで実束。
結果的に、実束の思いつきで色々な発見があったんだから。
「……ところで。私、まだ泊まっていられますか?」
「大丈夫よ。親たちは月曜に帰ってくるって言ってたし」
「そうですか…」
「汐里ちゃんの親は
そうしょんぼりしないで実束。
結果的に、実束の思いつきで色々な発見があったんだから。
「……ところで。私、まだ泊まっていられますか?」
「大丈夫よ。親たちは月曜に帰ってくるって言ってたし」
「そうですか…」
「汐里ちゃんは大丈夫なの?」
「私は平気です。もう少しお邪魔します」
……もう少しお邪魔します、とな。
他人様の家に泊まるってかなり異常なことのはずなのに、なんだかもう慣れてしまっている自分がいる事に内心とても驚いている。
住めば都とはこの事か。これも実束のお陰なのかな。
「ええ、ごゆっくり。……それで、今夜また実験するのよね?」
「そうなります」
「それまでに何か予定はある?」
「今のところありませんけど」
「なるほど、なるほど……」
ゆらりと立ち上がる実房さん。なんだなんだ。
「……ならば、汐里ちゃん」
「はい?」
「実束」
「んー?」
実房さんは両手を広げ……あっなんかのスイッチ入ってるねこれ。
右手を天へ。左手を地へ。
そして……
「………………」
右手を頭上に移動…左手は反対に足元……
それぞれを胸元まで持ってきて、合わせて……どうする?迷ってる、迷ってるよ。
片膝を上げた。両手を握って腕をぴったり合わせてガードするようなポーズ…それっぽいけどなんか見たことあるポーズだね。ウルトラな人で。
ポーズ被りに気づいたのか、拳は合わせたままゆっくり腕を開いて……うーん、コサックダンスのなりそこないみたいになってる。第一そこからどうするの?
と、様子が変わる。何か思いついたか。
上げた膝を足を開きつつ降ろして、両手を頭上に上げて…開いた!
その瞬間、閃光が私たちを襲っいやまぶしいのですが!!!
眩い視界の中実房さんはそのまま両手を広げ……後光を放ちながら、こう言い張った。
「……スマ◯ラ…しましょう?」
「光で誤魔化しましたね」
「光で誤魔化してたね」
「えー」
テレビの前で私と実束と実房さんが並んで座っている。手にはゲームの箱のコントローラー。
しかしまさかDXとは。久々だけど動かせるだろうか。
「CPU入れる?」
「入れときましょっか」
「レベル9でいいですか」
「やっておしまい!」
「まさかの熟女枠ですか」
「その発言は色んなファンを敵に回すと思う。そして何を勘違いしているの汐里ちゃん。……ロリ枠よ」
「夜ノ方でしたか…」
「二人がなんの話をしているのかさっぱりだよ」
今の会話でわかったけど、実房さんは結構こっち側のようだ。まぁイデ知ってるくらいだし……実束もその影響をちょっと受けているんだろうね。ムラサメなんたらって言ってたし。
「そういえばお姉ちゃん、勉強とかしなくて大丈夫?」
「なんの話かしら実束ちゃんよ」
「いやだって、三年……」
「今重要なのは乱闘をすることよ実束。それが未来に繋がるの。汐里ちゃん、乱闘と勉強どちらが大切?」
「乱闘かと」
「この通りよ」
「私と同級生になっても知らないよー…」
「それは無いから大丈夫、ええ大丈夫。私とてそこまでではないもの。……多分。多分ね」
「…………」
まぁ、やるときはやるんだろうけれど。そんな気がする。……もしや結構ポンコツ方向のキャラなんだろうか、実房さん。
決めるのは早計ではある……が、次々と属性が付与されていくのはあまり良い気はしない。今のところ疑惑があるの並べてみますか。
厨二オタクゲーマーポンコツ超能力持ちシスコン姉。
おおう私の精神この先大丈夫かな?こんな人ほんとに居るんだね。生きるの大変じゃないかな。
それは私が言えたことではない。
私の方も並べてみようか?しないけど。そういう事は考えないに限る。
なので意識は画面の方に。
実束の実力はどんなものなのか。もし実房さんに付き合ってやっているとしたら上達しててもおかしくはない、おそらく覚えるのが早いタイプの人だし。
「あっ」
と声を上げたのは実房さん。
画面ではいつのまにか実房さんがぶっ飛んでいた。加害者は実束。ほぼノーダメージ。
この流れ……ポンコツの気配!
「やるわね実束、いつの間にそこまで腕を上げたの?」
「ついさっき」
「ならば私はそれを越えていく!」
よくもまぁやりながらすらすらと台詞が出てくるなぁ。
ちなみに私はCPUを相手に遊んでいた。なんかあの二人はそのままにしておいた方が良さそうだったので。
さて実束と実房さん。実房さんの方が掴まれて、投げから確定で入る、反撃読まれてどかんどかん。
いやタコ殴りだな実房さん。
私の時と同じパターンだ。力むと駄目な人だこの人。
「……ん」
……いや。もしや、全力で遊ぼうとしてる?
うまく表現できないけど……つまり、そう、思いっきり遊んでいるって表現にしかならないけど。
ストレス発散?悩みの解消?コントローラーを握る姿勢から、表情から、何か焦燥感みたいなものを感じる気がする。
必死…みたいな。何かに……
その姿を眺めていて、頭をよぎる記憶があった。
昨日の不明晰夢。
実房さんの怯えた表情。声。
ああ、そうだ、あんなに震えてたじゃないか。怯えてたじゃないか。
それで初めて能力を使って、怪物達を倒して。
平常通りみたいな態度だったけど、実房さんだって色々抑え込んでた筈だ。
不明晰夢の話も本当に飲み込めているとも限らない。いや、自分で名付けることで飲み込もうとしたのかも。
昨日の今日で全部を受け入れるとか普通無理だ。でも、私たちに合わせてくれたのかもしれない。
「……」
……ここまで考えたけど、所詮は想像に過ぎない。現実は違うのが普通。
でも、実房さんだし。
そういう、二次元みたいな展開があってもあんまりおかしくない…なんて失礼すぎるけど、ああ、今更か。
「実束」
「ん」
とにかく、全力で遊ぼうとしているのは多分確か。
「私も実房さん殴る」
「ん!」
なら私も遊ぶとする。
「ちょっと汐里ちゃーん?加勢に入る方が違うんじゃなーい?」
「乱闘ですから。偶然全ての攻撃が実房さんに向かっていると考えてください」
「先輩である私が教えてあげる。————それは偶然とは言わない!!!」
と言いつつ実房さんは星になった。
「あああああ…………私も星になるしかない…」
「ならないでください眩しいです」
物理的に輝こうとしたので制止する。
「えー。もっと有効に使ってこうよこういう能力はー。ほら、自爆ごっこできるわよ自爆ごっこ。自爆するしかねぇ」
「は?……じゃなくて眩しいのでやめてください」
「汐里さ、なんで喋りながらそんな気持ち悪い動きできるの?」
「気持ち悪いてあなた」
「ほらお姉ちゃん。今の緊急回避どう思う?」
「正直言うとキモいやつね」
「…………」
割とショックである。言わんとすることはわかるけど、やっぱりこう。
ならば。
「……待った。じゃあその動きに割と対応してきてる実束はどうなるの」
「え。えー……あ、私はほら、強敵に追いつく主人公ポジションだし」「はい」
僅かな隙を見つけてスマッシュ。実束は画面外にすっ飛んだ。
「あー!?喋らせたね汐里!」
「操作に集中しなかった実束が悪い」
「むー……じゃあもう喋らない」
そう言って実束は口を閉ざした。正しい。
「…………暇だから光っていい?」
「やめてください」
実房さんは口を閉ざさなかった。
「そんな……光るだけが私の取り柄なのに…」
「確かにそうっぽい……ですけど、そうじゃなくてですね。いや、そうだ。私たちが眠ってる間、何か能力でわかったことありましたか?」
「あ、そうそう。忘れてた」
忘れてたのですか。
「色々試したけど、やっぱり曲げたりとかはできなかった。心で撃つとはいかなかったわ」
「そこそこわかりにくいネタ使うんですね」
「えー、でも超能力者ならサイコな何かって思っていいんじゃない?」
……まぁ、実房さんの出す光は本当に光なのかもわからない。そもそも、光にだって色々種類がある…はず。よくわからないけど。
少なくとも、本物の光なら昨日レーザー撃ってた時、物理法則的におかしい部分が絶対にある。熱とか。実房さんの手とかが無事な理由がそういう能力だから、以外に考えられない。
「話を戻しましょうか」
「あ、はい。……と言っても、私の能力について分かったのはそれくらい。後は…多分、汐里ちゃんが居ない時の出力限界」
「……多分?」
「後で話すわ。で、一人での限界だけど、大体市販の懐中電灯くらいの光……それよりも弱いかな?それが限界だった。
「実房さん一人では戦力にならない、と」
「そうなるかな。……あっちでは早く合流しなくちゃね」
能力を考えた場合の自衛力は皆無、と。
合流するまでは私と同じただの人、という訳だ。……いい合流の仕方見つかればいいんだけど……
まぁ、それは後だ。
「それで、後で話す部分ってなんです?」
「それが……汐里ちゃんが二階に行っても、出力は変わらなかった。多分、それくらいなら汐里ちゃんの力の効果範囲内なんだと思う。でもね、少ししたら急にさっき言った出力までしか出なくなっちゃったのよ」
「む……」
私が二階に行って少ししたら……か。
それはもしかして、私が眠ったから?
「気になって見に行ったら汐里ちゃんは眠ってるし。幸せそうだったしそっとしておいたけど……これ、どういうことかな」
「……わかりません。そもそも私、自分の力について何にも知りませんし……眠ったら能力の効果が切れる…?」
……でも、不明晰夢内では私の力は機能してる…実束や実房さんもそれは同じ。
精神だけが不明晰夢に飛んでいる、って仮定の上で考えると……能力は、肉体的ではなく精神的な何かに付随しているもの?
「あっ」
とか考えてたら私の操作キャラが星になった。
「いよし」
「…………」
……完全に油断していた。というか意識が逸れていた。
文句は言えない、苦情は言えない、集中していない方が悪い。これは完全に私の不注意である。
なので……仕返しはプレイでするしかない。
「実房さん」
「はい」
「これ以上わかったことはありますか」
「無いです」
「では集中します。輝かないでくださいね」
「ガ」「ガイアは死にました囁きません」
させるか。
「くっ……よくぞ私の台詞を見抜いたわね!正直ネタがわかる人周りにいなかったからすごく嬉しい!ありがとう!」
無言で返した。
でも、楽しいならよかった。
助けてもらった恩返しだ。軽いものではあるけど。
多少は付き合ってあげよう。
……さーーーーーて。
妙に動きがよくなってきた実束の相手をしなければ。
………………………………。
その後、真新しい事は無かった。
そう、ずっとゲームしてました。ひたすら。くたびれるまで。
その後はご飯を食べて、お風呂は実束と実房さんに先を譲って、一人風呂で不明晰夢その他について考えたけど何も思いつかず。
気まずいので添い寝を申し出た実房さんは断って……実束が気まずい訳ではないけどさ、流石に3回目となると慣れも来る。
それで実束が眠ったのを確認して私も眠り、不明晰夢へ。
まぁ、案の定、私は一人で立っていた。やはりというかなんというか、添い寝しただけじゃ目覚める場所は変わらない。完全ランダムって思った方がいいだろう。
ちゃんと実束を感じる。微かではあるけど、実房さんもいるのがわかる。
だから今度は安心した。安心して、歩き出した。
もう結果は分かっているでしょう?
蠍の化け物、いつも通り真っ黒の化け物。今回の敵はそれらだったけど……
貫かれる。
潰される。
両断される。
……塵も焼き尽くされる。
実束だけで無双気味だった戦いは、実房さんが加わった事で更に勢いが増していた。
敵の数も増えていたけれどそんなものじゃ足りない。
殲滅される化け物達を眺めながら、私は漫画やらアニメやらでよくある主人公がチートなやつを思い浮かべた。
上手いこと書かないと単調でつまらないと言われる系統のジャンル……私もあんまり好きじゃなかったけど、ちょっと印象が変わった。
毎度毎度苦戦して命の危険に晒されない方が良いに決まってる、って。
つまらなくていいじゃん。私たちは演者でもないんだから。
……まぁ、つまりは、そんな事を思ってなにか言い訳したくなるような……そんな無敵ぶりだった。なにかズルでもしているような気分になるような。
そんなわけで不明晰夢は終わる。
それからはとんとんと話が進む。起きて着替えて朝食を頂いて、もうすぐ親が帰ってくるからそろそろと。
なので、私は荷物を持って枳家の前に立っている。
挨拶も済ませた。だから後は帰るだけ……なのだけど。
「……結局、実験は失敗だったね」
「……まぁ」
実束が一緒に出てきたので、まだ動くわけにはいかなかった。
実束は扉の前から動かないから、見送りだろう。
「でも、得たものはたくさんあった。実房さんも巻き込んじゃったけど…」
「仲間が増えた、だよ。汐里に対する警戒も解けたみたいでよかったよかった」
「それは、まぁ、ね」
昨日のゲーム漬けで少しは気持ちの整理もついてくれてたらいいけど……ま、あの戦いっぷりからしてとりあえずは大丈夫なのかな。
そんなことを考えていたところ、何やら実束が気まずそうな表情をしていた。珍しい。
「その……汐里」
「ん」
「この三日間、さ。無理やり連れ込んだりして…ごめんなさい。大変だったよね」
「……。でも、実験のためでしょ?さっきも言った通り、得たものはたくさんあったし…」
「違う、違うの。……そうじゃなくて……」
一呼吸置く。
絞り出すように、それでもはっきりと。そんな印象を受けた。
「……実験のため、っていうのは、言い訳で、建前で、口実で。ほんとは…私が、汐里と…もっと話したかっただけなんだよ」
「…ん」
「もっと汐里のこと知りたかったし、たくさん汐里と遊びたかったし……その為に、私…」
…………別れ際に、この人は。
ああもう。
顔が熱い。
「……だから、ごめんなさい」
「実束」
一歩踏み込む。
「はたっ。……?」
実束の脳天に右手をぽすんと落として、左右に頭に沿って滑らす。
いわゆるなでなでというやつである。実束の方がちょっと身長が高いから微妙に辛い。
「……えと…」
「…結果的に、だよ。結果的に、実束のお陰で私は色んなものを貰ったの。不明晰夢の事だけじゃない。それ以上に……色んなものを貰った」
なんとなくで始めたなでなでだけど、ちょっとよろしくない。やめどきがわからない。
「だから、無理やりにでも連れてきてくれてありがとう。悪いと思ってることがあるなら、全部許すよ。それでもおつりがくるくらい」
どことなく癖になる感覚。感触じゃなくて感覚。
実束が私を撫でたがるのもわかるかもしれない。
「私は、こう……基本、動きたがらないからさ。無理やり引っ張るくらいがちょうどいいんだよ。…自分で言うものじゃないか…ともかく。私は感謝しかしてないからさ、気にしないで」
「……いいの?」
「いいんです」
手を離す。
気まずそうな顔はとっくのとうに消えていた。
代わりに、なんだかそわそわした顔。わなわなと言った方が適切か。
日頃…って言ってもまだ数日の付き合いではあるけど。でも、何がしたいかはすぐに察せた。
「…………じゃあ……いい?」
「そっちは…うん、今日は特別に許します」
「やった」
準備はできて……ないけど、突然やられるよりかはマシです。
実束は私に抱きついてきた。
顎を私の肩に乗せて、身体を……ぐおう。割と全力でやってない?ちょっと苦しい。でも我慢できないものでもない。
……さっきを思い返すと、普段の私らしくない事しか言ってないな。
どんな顔して言ってたんだろう。
正気ではなかったのだけ確かだ。
「……ふー」
「ん」
実束は息をつき、私から離れた。発散し終えたみたいだ。
そして、一度深呼吸をしたら、もういつもの実束だ。
うん。
結局、いつも通りがいいよね。
「じゃあ、汐里。また明日ね」
「……うん、また明日」
でも、まぁ。少しぐらいいつも通りを変えても、いいとも思った。
なので、手を振って……素直に笑いかけてみた。
あ、面食らった顔してる。
満足。
それを確認して、私は実束に背を向けて歩き出した。
イヤホンをつける。
世界を少しだけ認識しなくなる。
自分の世界に没頭して、歩く。
……休日は終わり。
明日からまた学校だ。
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