第294話 弱肉強食

 ミュが陸亀ホエールの上に到着すると、「グローバルエクトプラズム」で鳥人の生を吸い取るが、相手は空中に居るので、さほどの効果はない。

 ホノカはフェニを使って、鳥人たちの翼を焼いて戦闘不能にしている。

 アヤカはビビに乗って、鳥人と対峙している。

 親の目から見ても、二人もなかなかやる。

 するとまた、形勢が逆転した。今度はこちらが押し始めた。

「いいぞ、もう少しだ」

 モニターを見ていたCICのクルーからも、応援の声が上がる。

 そのモニターの中に一人、老人がいる。

「あれは、ご隠居さまじゃないか?」

「まあ、お父さま」

「あっ、お爺さま」

 さっきから静かだから、てっきりトイレにでも行っているかと思ったが、ホーゲンたちと陸亀ホエールに乗り移っていたのか。

 ご隠居さまは杖でなく、剣を握っているが、結構な強さを見せている。

 よく見ると、その後ろには八兵衛ことマシュードたちもいる。

 こちらもそれなりにやっている。それなりというのは五分五分ということだ。

「アヤカ、ビビで鳥人たちを蹴散らしてくれないか。くれぐれも、ご隠居さまに怪我がないようにな」

「はい、お父さま」

 無線でアヤカに指示を出す。

 CICのモニターにはビビが、ご隠居様の上空で鳥人を蹴散らす姿が映った。

 その横ではフェニが、正に火の鳥となって鳥人に襲い掛かっている。

「しかし、相手も諦めないな」

「父上、旗艦のマストを折ってみましょう」

「なるほど、スパロー提督、旗艦のマストを折ろう」

「はっ、今から敵旗艦と思われる船のマストを折る。ブフコフ大将、指揮は任せる」

「砲撃主。艦首第一砲塔とコンピューターを連動、オートで敵旗艦マストを狙え」

 砲撃手から反復される。

「艦首第一砲塔、コンピューターと連動、いつでも狙えます」

「よし、撃て」

「ドーン」

 CICに軽い発射音が響き、モニターには第一砲塔から発射された弾が飛んでいくのが見えた。

 その弾は狙い違わず、旗艦のマストに命中するとマストが折れていく。

 ドローン「クノイチ」は弾が当たる前にマストを離れ、艦橋の屋根に着地している。

 クノイチが集音マイクで集めた声がスピーカーから流れ、それをウーリカが通訳する。

「お頭、マストが折れました」

「何でマストが折れたんだ」

「分かりません。凄い音がして折れました」

「くそっ、他の船に移るぞ。おい、他の船に合図を出せ」

「合図を出してますが、何も反応しません」

「なんだとー」

 その瞬間、周りの船から旗艦目掛けて火矢が飛んできた。

「くそっ、あいつら裏切ったな。こっちからも火矢を撃て」

 旗艦からも火矢を撃つが、動けない船と動ける船とでは比べものにならない。

 動けない船はただの置物だ。最初は2,3隻だった周辺を囲む船も今では6隻に増え、同じように火矢を撃ってくる。

 旗艦の方は消火もやっているが、それでも追いつかない。

 そのうち、1本の矢が頭と思われる人物に刺さった。

「頭、大丈夫ですか?」

 子分の一人が心配して近づく。が、その子分は短刀を出して、頭の脇腹を抉った。

「ギャー、ブルータス、お前もか」

 あの子分、「ブルータス」って言うのか。だったら、あの親分は「シーザー」かな?

 だが、親分は最後の力でその切りかかった子分を切り伏せるが、親分にも何人もの人間が切りかかり、親分が甲板上に倒れた。

 これで終わったかと思ったが、違った。

 今度は子分同士が親分の後を奪い合って戦闘になっている。

 力ある者が全員を従える。ここにはそれを実行しているやつらが居る。

 船の上で戦闘が開始されると、鳥人たちにも動きがあった。

 鳥人たちがその船に降り、戦闘に加わり始めた。ホーゲンたちを相手にするより、船のやつらを相手にする方がやり易い。

 だが、その後方の空に黒い淀みが見えた。

「おい、あれは何だ」

「至急、『ニンジャ』を発進させて確認するんだ」

 スパロー提督が指示を出す。

 直ぐに、ミズホから「ニンジャ」が発進する。

 モニターに「ニンジャ」からの映像が映し出されるが、それは鳥に乗った獣人だった。

 鳥も黒ければ、獣人も黒い。

 しかし、その姿を見た俺とエリスは腹を抱えて笑ってしまう。

「「わっははは、ははは」」

「なんだ。あの獣人は、わっははは」

「待って、冗談はやめて、ははは」

「旦那さま、エリスさま、どうしたのですか?」

 ラピスが不思議な顔をして聞いてきた。

 ラピスだけでない、ここに居る全員が不思議な顔をしている。

「いや、すまない。俺の居た世界ではあの耳は遊園地のキャラクターがしている耳なんだ。それに対し、あの狂暴な顔、思わず笑ってしまったんだ」

 そう、あの獣人の耳は千葉にあるアミュズメント・パークのねずみのキャラクターの耳をしている。

 しかし、その顔はシリアスかつ狂暴で、そのアンマッチがとても可笑しい。

 最も、それを知っているのは俺とエリスだけなので、二人して笑ってしまった。

「あの獣人は鼠人です。狂暴で人の地から追いやられたと思っていたのですが、北の国に居たんですね」

 陸亀ホエールから戻ってきたばかりのミュが、説明してくれる。

「話し合いでどうにかなる相手なのか?」

「無理だわ。500年前にも勇者を裏切って、殺そうとした獣人よ」

 エリスの記憶にも、埋め込まれた程の悪人という事か。

 ここは徹底的にやるしかない。こちらに被害を出さないためにも。

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