第292話 大人の教育

 ジャイアントギドラが自らに取り付いたミュとエリスに向かってファイヤーボールを放つが、ミュとエリスの二重結界は簡単に破れない。

 しかし、それでも時間が長引くと不利だ。

 その時、ジャイアントギドラがミュとエリスに放ったファイヤーボールの先に火の鳥のフェニが入り、ファイヤーボールを止めた。

 モニタで見ると、フェニはミュとエリスに放たれるファイヤーボールをいくつか止めている。

「フェニ、頑張れ」

 ホノカが応援する。

 ミュとエリスが突き刺したジャイアントギドラの魔石は、その間にもヒビがどんどん大きくなっていく。

「ピキーン」

 そんな音がCIC内にも響いた気がする。だが、CICは完全防音だ。本当は外の音が響くことはない。

 だが、それは魔石が砕けた事を意味している。

 魔石がガラス玉が砕けるように破壊された。

 ミュとエリスは反対側に突き抜けている。

「やった、やったぞ」

「「「おおっー」」」

 ヤマトだけでない、ミズホの様子もスピーカーを伝わって歓喜の声が聞こえた。

 モニタのジャイアントギドラがまるでスローモーションを見るようにサン・イルミド川に倒れていく。

「ドーン」

 倒れた瞬間に波が立ち、その波がヤマトを揺らす事で、ジャイアントギドラを倒した事を実感した。

 ジャイアントギドラはサン・イルミド海峡に横たわったまま浮いている。

 エリスとミュが帰って来たが、ミュは魔力を使い果たし、立っていられない状態だ。

 フェニはホノカが出迎えた。ホノカはフェニに頬擦りしている。

 俺とエリスは、指令長官室に入り、ミュの回復に努める。

 もちろん回復方法はミュに精を与えてやる事だ。そして、エリスの回復魔法との相乗効果を試みる。

 ジャイアントギドラは倒したが、心配もある。フジの様子が分からない。

 そこへ、マリンが帰って来たとの連絡が、フジの格納庫より聞こえてきた。

「フジは、ジャイアントギドラの攻撃により、ジェネレータが故障。航行できない状態です」

「乗組員の様子はどうだ?」

「軽傷が3名居る他、負傷者はいません。空気も半日くらいは大丈夫だそうですが、ジェネレータがやられているため、空気の製造ができないそうです」

 昔は空気の製造が出来なかったが、技術革新により、水を電気分解することによって、空気の製造が出来るようになった。

「ここのサン・イルミド川の水深は?」

「約50mです」

「浮上はできないのか?」

「ジェネレータがやられているので、浮上もできません」

 ヤマトのCICとミズホ第一艦橋をテレビ会議で繋いで、フジ救出作戦を検討する。

「フジの格納庫にあるクレーンで吊り上げるというのは?」

「あのクレーンはせいぜい30mまでだ。50mまでは届かん」

「うーん」

 議論は行き詰った。

 1時間ほどして、ミュとエリスを連れた俺がCICに顔を出しても議論は終結していない。

 結果を聞いた俺が案を出す。

「エリスがフジに転移して、乗組員を救護し、その後で潜水艦救護艇で吊り上げればいいんじゃないか?」

 その場に居た全員が「あっ」という顔をした。

「と、いう事で、エリス頼めるか」

「仕方ないわね、シンヤさま、今夜はお仕置きをお願いね。行ってくるわね」

 エリスが魔法陣を広げると、フジに転移して行った。

「また、エリス母さまは変な事を…。人を助けておいてお仕置きされたいって変態みたいじゃない」

 ホノカの言葉にその場に居た全員が顔を赤らめた。

 どうやら、ホノカには「大人の教育」が必要みたいだ。

 3回目の転移でウォリア大将が転移してきて、全員が揃った。

「ウォリア大将、ご苦労だった」

 スパロー提督が慰労する。

「本当にご苦労じゃった。儂からも礼を言う」

 ご隠居さま、こんな時だけ出てくるな。

「さて、帰るか」

 みんなが気が和んだ時だ。

「正体不明の艦隊がこちらに来ます。その数、約50隻」

 スパロー提督が、レーダー員に向かって言う。

「正体不明じゃ分からん。出来るだけ詳しく報告せよ」

「はい、船はサン・イルミド海峡の北側から現れました。恐らく北の国の船かと思われます」

「なんじゃと」

 だからご隠居さま、大人しくしてくれ。

「ニンジャを発進させろ。詳細を確認するんだ。レーダー班、敵との遭遇時間を算出」

「ミズホからニンジャ発進します」

 ミズホから発進した無人偵察機「ニンジャ」がモニターに映ったが、あっという間に空の彼方に消えていく。

「索敵結果出ました。こちらが動かないという条件で、遭遇は3時間後になります」

「取り敢えず敵か味方か分からん。ブフコフ大将、第二級戦闘体制で待機」

 スパロー提督が指示する。

 無人偵察機「ニンジャ」からの映像がモニターに映し出される。

 向かって来るのは帆船だ。一番大きな船でさえ、昔のヤマトの1/3ぐらいしかない。

 しかも1本マストだ。もう、帆船はエルバンテ領内では既に過去の船になっている。

「えらく旧型の船じゃな」

 ご隠居さまの目にも旧型に写るみたいだ。

 一番大きな1本マストの立派な船が旗艦だろう。

「あの船が旗艦のようです」

 アリストテレスさんも俺と同じ意見のようだ。

「ブフコフ大将、『クノイチ』に集音マイクを付けて、あのマストに着陸させることができますか?

 相手の目的が知りたい」

「出来ます。『クノイチ』が着陸用と監視用の2機必要ですが、それ程難しい事ではありません」

「では、その準備をお願いします。準備出来次第、発進させて下さい」

 しばらくしたら、「クノイチ」2機が発進して行った。替わりに「ニンジャ」は帰還させることにした。

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