第291話 加速器重粒子砲

 陽が沈み夜になった。それと同時に作戦を決行する。

「作戦開始」

 スパロー提督の命令が発せられる。

 俺たちの20km先には、ジャイアントギドラが居て、こっちに向かって、ファイヤーボールを放っている。

 しかし、ファイヤーボールは俺たちの5kmくらい手前で、川の中に落ちる。

 射程10kmという計算値はあながち、間違いではないようだ。

「陽電子スキャン、準備出来ました」

「X線スキャン、準備できました」

「3Dスキャン開始」

 ジョニー大将が指示する。

 その瞬間、艦内の灯りが一瞬暗くなるが、支障が出るほどではない。

「3Dスキャンの結果が出ました。右胸の心臓の位置に大きな魔石を確認。魔石が他の魔物と逆の位置にあります」

「フジ、聞いたか。データを送る。後は頼むぞ」

「フジ了解。データ受信確認しました。艦内モニタに出します」

「データは照準装置をリンクさせます」

 フジの様子がスピーカを通して聞こえる。

「フジ、発艦する。後は任せろ」

 セグメルト・ウォリア大将が通信用スピーカに向かって、言って来たのが聞こえる。

「爆撃機『ヤモメ』発進」

 ミズホの様子が同じく、スピーカから聞こえる。

 爆撃機4機が、ミズホから発艦して行った。

 その直ぐ後には、第二陣の爆撃隊が準備している。

 準備が整った第二陣の爆撃機が発艦していく。

 望遠モニタとドローンからの映像で、爆撃機が爆弾を雨のように落とすが、その爆弾は一発として、ジャイアントギドラに届かない。

 全てがジャイアントギドラのファイヤーボールで、届く前に落とされている。

 10本の首から絶え間なくファイヤーボールが放たれるため、普通なら近づく事さえ出来ない。

 しかし、それはチャンスだ。10本の首が全て上空に向いている。今なら懐がガラ空きの状態だ。

 潜望鏡を出したフジがゆっくりと近づいて行くのが赤外線モニタに映る。

 フジも用心しているのか、潜望鏡も先端の部分しか出ておらず、ジャイアントギドラの起こす波に隠れて潜望鏡の発見も容易ではない。

 ウォリア艦長はなかなか用心深い性格のようだ。

 その時だ。フジからミサイルが発射された。

 水の中から発射されたミサイルは川面に出ると真っ直ぐ、ジャイアントギドラの方に飛んでいき、右胸に当たった。

 マーカーの先端がジャイアントギドラの皮膚に刺さるが、ジャイアントギドラは痛いとも思ってもいないだろう。

「マーカー確認しました。ほぼ魔石の中央付近に着弾しました」

 首の1本がフジの潜望鏡に気が付いた。

 その首からファイヤーボールがフジ目掛けて放たれる。

 急速潜航に入ったフジのところにファイヤーボールが着弾する。間一髪だ。

「フジ、応答願います。フジ、応答願います。フジ、応答ありません」

 フジがフロートアンテナを出してこないので、通信ができない。

「マリン、頼む。これを持って行ってくれ」

「これは、何ですか?」

「フジの船体に取り付ける事によって中と会話できるものだ。病院で使う聴診器の潜水艦版だと思えばいい」

「分かりました。艦橋の近くに取り付けた方がいいですね。では行ってきます」

 マリンが川に飛び込んだ。

「加速器重粒子砲、準備はまだか?」

「あと5分、いえ3分ください」

「爆撃機第二陣爆撃に入りました。爆撃機、あと3分、注意を引いてくれ」

 オペレーターの祈るような声がCICに響いた。

「3分だな、それ以上は知らんぞ」

 爆撃機からの応答があった。

 だが、まだ問題がある。

 ジャイアントギドラの身体が完全に水面から出ている状態ではない。このままだと、加速器重粒子砲の威力が半減する可能性がある。

「ホノカ、フェニを頼む」

「分かりました、お父さま」

 ホノカがフェニを連れて、CICを出て行き、しばらくするとフェニが赤い閃光となって、ジャイアントギドラの方に向かっていくのが、CICのモニタに映った。

「爆撃機、後はフェニに任せて帰艦せよ」

「了解」

 モニタには引き上げてくる爆撃機の姿を捉えた。

 反対に、ジャイアントギドラの周辺を飛び回る火の鳥の姿がある。

 ジャイアントギドラは、火の鳥に向けてファイヤボールを放つが、火の耐性がある火の鳥はそれをもろともしない。

 ジャイアントギドラはだんだんイライラしてきたのか、10本の首が断続的にファイヤーボールを放ち、身体全体が水から出て来た。

「艦長~。魔石リアクターとジェネレーターはいつでもいいですわー」

 ここぞというタイミングで、シャルローゼ機関長の声がスピーカーから流れる。

「加速器重粒子砲、準備完了」

「機関長、ジェネレータ最大出力で、加速器重粒子砲に電力を送れ」

「みなさーん、聞いた通りよ。最大出力よー、がんばってー」

「加速器重粒子砲、電力来ます。1000MW。最大です」

「加速開始」

「加速器、重粒子注入します。カーボンフォーティーン注入」

「カーボンフォーティーン注入開始」

「カーボンフォーティーン加速します」

「砲撃主、マーカー確認後、直ちに撃て」

「マーカー確認、目標ロックオン、カーボンフォーティーン発射」

 モニタの画面が一瞬、白くなったが、その白い闇が晴れると、ジャイアントギドラの右胸のところに魔石が見えた。

 身体は吹き飛ばす事はできたが、魔石を破壊するまでには至っていない。

「くそ、だめか」

 CICの中が絶望感に覆われた。

 だが、モニターの白い闇の中に1本の光輝く、矢が見える。

 その矢はカーボンフォーティーン粒子の後を追うように一直線にジャイアントギドラの魔石に向かっている。

 矢が魔石に突き刺さったが、魔石は壊れない。

「モニター拡大しろ」

 モニターにはミュとエリスが映った。

「ミュさまとエリスさまです」

 ミュはオリハルコンを魔石に突き立てており、そこのところから魔石にヒビが入っている。

「が、がんばれ…」

「「頑張れ」」

「もう少しだ」

 CICの中が一つになる。

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