第286話 忘れ物

 俺たちは招かれた家に入り、相手方と対面した。

 この村では一番立派な家ではあるが、正直きれいとは言えない。

 向かい合って、フードを取る。

 すると村人の視線が、ミュに注がれ、あちらこちらから「ミュ」と言う単語が聞こえてきた。

「$&◇▽&◇◎◇◎●□◎※■?」

「この人は『ミュさま』という神に似ている、と言っています」

「私の名は『ミュ』、その神と言われたミュの娘になります」

 オンゴメッティが通訳すると、その場に居たズエラ族が、顔を覆い、地面にひれ伏した。

 これは神に対する作法らしく、顔を覆うのは、直接見てはいけない事らしい。

「先代の神に変わり、ここに居てくれと言っています」

「私には既にご主人さまがおり、生涯この身を捧げるつもりです。ですから、ここに居る事はできません。それは母も認めてくれています」

 オンゴメッティが通訳すると、再び顔を覆い、今度は上を見上げた。

 これはどうも、失望の表現らしい。

 だが、このポーズが出るという事は、「しょうがない」という事らしく、ミュはこのままここに居なくても良さそうだ。

 次にズエラ族は俺に向かって何か言っている。

「お館さまの髪も黒いが、ミュさまと何か関係があるのかと聞いています」

「この方が私の仕えるご主人さまです」

 ミュが答えた。

 するとズエラ族が、また顔を覆って地面にひれ伏した。

 オンゴメッティが通訳する。

「神が仕える神なので、神の中の神である」と言っています。

 いや、俺は普通の人間だから、そんな事されると恐縮してしまう。

 俺たちは、ミュの母が居た場所に案内された。

 そこは既に祭壇になっており、今はもう魔力のない魔石が祭られている。

 ズエラ族は今でも大事に、ミュの母を扱ってくれているようだ。

 その事について、ミュがお礼を言うと、神よりの礼があり、種族として永年に渡って、誇りとするような言葉が返ってきた。

 ズエラ族とは今後とも交流を行う事を約束し、ズエラ族の村を後にするが、村人がこぞって見送りにきた。

 村長らしき人が、前に出て赤い卵を差し出した。

「◇▽&◇$●◇&◇▽&◇◎●◇◇◎●◇▽&◇□◎※■」

「これは珍しい鳥の卵だ。岩狼に対す対価として差し上げると、言っています」

「有難く頂戴しよう」

 俺は受け取った卵をホノカに手渡した。

 俺たちは輸送機で空に上がったが、それを見たズエラ族は神が空に戻られると騒ぎ出した。

 その後、陸亀ホエールに移ったが、その時は村人全員が地面に平伏している。


「あっ、忘れた」

「シンヤさま、何を忘れたの?」

「お父さま、どうしたんですか?」

 もう直ぐ、シードラたちの本部があるオアシスに到着しようとする時に思い出した。

「いや、あのズエラ族より先に何があるか、聞いて来なかった」

「「「あっ」」」

 全員が同意する。アリストテレスさんも同じようだ。

「お館さま、申し訳ありません。私も失念していました」

「しょうがない。エリス、頼む」

「まったく、こんな時だけ。今夜はお仕置きをお願いね」

 エリスが魔法陣を広げた。

 その魔法陣に乗ったのは、俺とエリス、ミュに通訳のオンゴメッティとアリストテレスさんだ。

「エリス母さまはお父さまを送っておきながら、今夜お仕置きして貰うなんて変なの」

 ホノカが疑問を言うが、それを聞いたラピスは顔を真っ赤にした。


 俺たちは、ズエラ族の村の真ん中に転移してきた。

 ちょうど村人が居たため、俺たちを見てびっくりしている。

「◎&*$&◇■〇※%$◇◎◇△◎&※*■*■〇▽※$&◇◎●*」

「再び神が降臨されたと、言っています」

 オンゴメッティが通訳する。

「聞きたい事がある。この村より先の世界はどうなっているか知りたい?」

 村長が慌てて住居から出てきて、平伏した。

「&◇◎■〇▽※$&$&◇△□◎&※*■〇%$&◇◎●*」

「どこまでも同じ風景があり、同じ世界だそうです。ズエラ族と関係がある族がいくつかあるようですが、全てを知っている訳ではなさそうです」

「そうか、わざわざ来たが収穫はないか。仕方ない、偵察衛星で見てみるか。

 村長わざわざ、有難う。それではこれで本当に失礼する」

 エリスが再び魔法陣を広げると、俺たちはシードラのキュンプ地に転移する。

「シードラ、迷惑をかけたな。それじゃ、また来るから、その時はよろしく頼む」

「会長、今度は何で来るんですか?ミズホでも飛ばして来ますか?もう何で来ても驚きませんよ」

「いや、さすがにミズホは飛ばんだろう。俺だって出来る事に限界があるからな」

「はい、はい、あんまり、私の命を縮める事はしないで下さいよ」

 俺たちはシードラに見送られて、陸亀ホエールの背に乗った。


「ホノカ、貰った卵は何か分かったか?」

「エリス母さまに調べて貰ったら、火の鳥の卵らしいけど、どうやったら孵化するのか分からないって」

 ホノカはズエラ族から貰った卵をエリスに鑑定して貰い、どうやらフェニックスの卵らしいと言うところは分かった。

 だが、その卵の孵化の方法が分からないらしい。

「鳥の卵は、親鳥が暖めて孵すからな。いっそ、キチンに暖めて貰ったらどうだ」

 俺の話を聞いたホノカは、キチンの所に卵を持って行って暖めて貰っていたが、それでも孵化する様子はなかった。

 さすがに、それにはホノカも落胆した。

 アヤカやアスカも宥めているが、ホノカの落ち込み様はかなりのものだった。

「旦那さま、ホノカの卵のことなんですけど、さすがに見ているのも可哀想で…、どうにかなりませんか?」

「うーん、そんな事言われてもなあ、いっそ、『火の鳥』の卵なんだからファイヤーボールでも打ち込んでみてはどうだ」

「もう、いい加減な事を言わないで下さい。ホノカの身にもなって下さい」

「ああ、すまん、だが、他にやり様もないし、火の鳥の卵なんだから、火ぐらいじゃ大丈夫かなと思って…、それに、火の中から生まれると言うし…」

 ミュとエリスを見るが、二人とも「それしかない」と言うような顔をしている。

 夜、エリスの転移魔法で俺たち家族は砂漠に転移した。

 ここは、俺とミュが初めて出会った場所だが、その時にあった硝石は既に資源として回収されているので、今では何もないただの砂地になっている。

 上を見ると、星がきれいに瞬いていて、ミュと出会った時を思い出す。

「ホノカ、卵を置いてきてくれ」

 ホノカが卵を離れた所に置いた。

「では、ミュ、やってくれ」

「ファイヤーボール!」

 ミュが叫ぶと直径3mの火の塊が現れた。ミュはそれを卵に向かって投げる。

 卵に当たると、ファイヤーボールが卵を包んだ。

 しばらく卵は燃えていたが、そのうち、火が沈下してきたので、卵に近づいてみる。

 卵を見つめていると、殻にひびが入ってきて、その大きな所から嘴が見えて来た。

「生まれた!」

 ホノカが叫ぶ。

「ピィピィ」

 ホノカが抱き上げようとするが、エリスがそれを止めた。

「待って、雛の体温が1000℃を越えているわ」

「「「「えっ?」」」」

 ホノカが雛を見て、雛もホノカを見ている。

「雛の体温が下がって来た。ホノカの事を味方だと認識したみたい。まだ、50℃くらいはあるけど、もう触っても大丈夫」

 それを聞いた、ホノカが雛を抱き上げた。

 雛もホノカを見ている。どうやら、これは雛鳥の取る「擦りこみ」ってやつじゃないか?

 雛鳥はホノカを親と認識したんじゃないだろうか。

 ホノカは火の鳥を「フェニ」と名付けた。

 ちなみに陸亀ホエールは「ホエちゃん」という名らしい。

 生まれたばかりの雛を連れて、俺たちはエリスの広げた魔法陣に乗った。

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