第285話 ズエラ族

 陸亀ホエールは、砂漠へ来た。

 その砂漠も上から見ていると大分、変わってきている。

 道路がある。鉄道もある。至る所に資源採掘用のタワーや簡易事務所も建っている。

 その中を大きなトラックが走り回っている。

 俺は、陸亀ホエールをシードラが本部にしている事務所の近くに着陸させた。

「シードラ、久しぶりだ」

「会長、その陸亀ホエールはいいですが、輸送機はどうにかなりませんか。風圧で砂が舞ってどうしようもありません」

「俺もそう思うが、陸亀ホエールから降りる手段はこれしかなくて。どうしたら良いもんかと思っている」

「専用のラダーを作るしかありませんね」

 オアシスの池の中島にある、本部事務所に入ると涼しい。

「エアコンを付けたのか」

「ええ、この前、付けました。動力は魔石発電機を使っていますから、永久に使えますし、何といってもタダです。

 今では、建物全館が快適です」

「すごいな、前に汗をかいてやっていた事が嘘のようだ」

「ええ、すごく感謝しています」

 シードラから資源採掘の状況を聞くが、ガスと石油も見つかった事を聞いた。

 ガスについては、パイプラインを敷設してエルバンテ領内にもガスを供給する。

 石油も同じだ。こちらもパイプラインを敷設する。

 それ以外の硝石などは鉄道やトラック輸送になる。

「ワームや砂トカゲはどうしている」

「砂トカゲは砂漠での運搬に使っています。トラックでは砂漠の砂を走るのはほぼ不可能ですし、キャタピラ式だと、車体の費用が高いうえに燃費が悪く採算がとれません。

 やはり、どこでも動けるという点では、砂トカゲが一番です」

「ワームは?」

「資源の探査に使っています。砂の中の生き物を食べているようで、手間もかかりません。

 たまに、山羊や牛を与えてやると嬉しそうに食べています。

 ワームにとってはご馳走なんでしょうか。見ていてあまり気持ちのいいものではありませんが…。

 それで、『ズエラ族』の方へは明日出発ということでいいですか?」

「『ズエラ族』と言うのか?」

「ええ、本人たちはそう呼んでいます」


 翌日、俺たちはシードラと通訳のオンゴメッテイを連れて陸亀ホエールに乗った。

「快適ですね。時速何キロ出ているんですか?」

 俺はGPSを取り出し、画面を見せた。

「時速100キロですか。ゆったり飛んでいるようで実はなかなかスピードが出ているんですね」

「アスカ、もう少しスピードアップできるか?」

「できますよ。オアシスから離れてからスピードを上げます」

 オアシスから離れ、アスカが念じると、陸亀ホエールの速度が上がった。

 GPSで確認すると150キロだ。

 途中で1泊し、翌日ズエラ族の村に着いた。

 輸送機で、物資と輸送用のキチンと車を降ろす。

 キチンは大きいので、輸送機に乗せるとすごく窮屈そうだが、地面に降りれるのが嬉しいのか、大人しくしている。

 だが、地面に降りるともう駆け出したいみたいで、そわそわしているのが分かる。

「ホーゲン、ウォルフ、ポール、ゴウ、すまんが、キチンの相手をしてやってくれないか。岩狼とか出ると面倒なのでな」

 岩狼という言葉を聞いて、キチンが首を竦めている。

 こいつら、言葉が理解できるんじゃないか?

「分かりました。キチンたちを運動させてきます。陸亀ホエールの上だったので、身体も訛っているでしょうから」

 そう言うと、ホーゲンとキチンたちは早速駆けて行った。

 物資を車に積み込んだが、ホーゲンたちが帰ってこない。

「遅いな、あいつらどこまで行った?」

 携帯電話を取り出すが、圏外になっている。それもそのはず。こんなところまで、まだ中継局を設置していない。

 しばらくすると、ホーゲンたちが帰って来たが、彼らの手には岩狼が握られている。

 ポールだけは一人で2匹持っているが、その他は1匹で、全部で5匹いる。

「すいません、遅くなりました。岩狼の群れに襲われて対処していたら、遅くなりました」

 そこへ、ズエラ族の村人5人がやって来た。

「□◎&※*■〇▽※%$&◇◎●△□◎&※*■」

「それは、やっつけたのかと聞いています」

「ええ、襲われたので、反対にやっつけました」

 オンゴメッテイが通訳すると、ズエラ族が顔を突き合わせている。

「□◎&※*■」

「その岩狼を譲って貰えないかと言っています」

 俺は頷いた。

「では、どうぞ」

 オンゴメッテイが通訳すると、彼らは踊りだした。

 どうやら感謝を表す踊りらしい。

 貰った岩狼をキチン車に乗せて、村まで運んだ。

 村に入ると早速子供が寄ってくる。

 こういうところは、どこの子供も変わらない。

 そして、初めて見るキチンにびっくりしており、寄ってきた割に近づこうとはしない。

 キチン車から岩狼5匹を出して、前に並べる。

「□◎&※*$&◇◎■〇▽※%$&◇◎$&◇◎●△□◎&※*■?、*■〇▽※%$&◇◎●*」

「5匹ともくれるのかと言っています」

「もちろん、そのつもりだが」

「$&◇◎■〇◎」

 彼らはまた踊りを舞った。

 貰えるのは1匹だけだと思っていたようで、その後は更に感謝される事になる。

 そして、俺たちは水樽を出して、これもプレゼントした。

 ここでは水は貴重らしく、水が何よりの贈答品だと言う事だ。

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