第275話 食堂コンサート

 海の下の方から水柱が上がる。

「ドーン、ドーン」

 フジの魚雷が命中しているのが分かる。

 タコは水の底から浮上してきた。

 今度は艦載機が上空から、右の角を目掛けてミサイルを発射する。

「ヒュー、ドン」

「ヒューン、ドーン」

「ヒュー、ドン」

 艦載機が次から次へと右の角目掛けてミサイルを当てていく。

 すると、角に亀裂が入った。40本全部が命中したが、角は折れない。

「くそっ、あと少しなのに。こうなれば、艦首と艦尾のミサイルもくれてやる」

 スパロー大将が叫ぶ。

「艦首および艦尾ミサイル、発射用意」

「発射用意、出来ました」

「撃て」

「ヒューン、ドーン」

「ヒュー、ダーン」

「ヒュー、ダン」

 艦首と艦尾の発射管から、ミサイル40本がタコを目掛けて飛んでいく。

 だが、それでも角は折れない。

「まだ、だめなのか」

 今度は、第一砲塔のところから、火の矢が飛んでいく。

 ホーゲンとウォルフの魔法を纏った火矢だ。

 火矢は角の亀裂の所に当たるが、やはり角は折れない。

「だめか」

 タコが角に雷を出した。その雷が徐々に大きくなっていく。

「緊急離脱、緊急離脱、艦載機はできるだけ遠くに離脱せよ」

 緊迫したアリストテレスさんの声が、イヤーマフに響く。

 こんな、慌てふためいたアリストテレスさんの声を聞いたのは初めてだ。

 と、その時だ。雷に耐えられなかったのか、右の角がポキッと折れた。

 折れると同時に雷が止まった。

「ミュさま、今です」

 マリンが抱きついたミュはオリハルコンの剣で、頭部の真ん中から真下に突っ込み、そのまま海の中へ消えた。

 脳天を抜かれたタコはゆっくりと海の上に倒れる。

 倒れたタコはそのままプカプカ浮いている。どうやら倒せたようだ。

 しばらくすると、ミズホのフジの格納庫からマリンとミュが顔を出す。

 ミュとマリンは兵士に助けられ、居住区に上がってきた。

 ポールは救護班と一緒に来たエリスに、治療魔法で治して貰っていた。

「みんな、お疲れさまだった。どうにか倒したかな」

「ご主人さま、少々お待ちください」

 ミュがどこかへ出て行く。

 しばらくするとミュは、大きな魔石を抱えて帰ってきた。

「ミュ、その魔石は?」

「はい、あのタコの魔石です」

 竜の魔石がスイカぐらいの大きさだったが、タコの魔石はバランスボールぐらいの大きさがある。

 当然、その重さも重いが、握力600kgのミュなら持てるだろう。

 俺たちは第一艦橋に戻って、艦載機の着艦する様子を見ている。

 そして、艦に響く「ドン」という音。こっちはフジが格納されたらしい。

 第一艦橋から海に浮かんだ鬼の頭を持ったタコを見ているが、その周りには鮫らしき物が集ってきている。

 どんなに強い生き物も、死んだら他の生き物のエサだ。

 自然の中の生き死にが、目の前にある。

 操舵に必要な人数を残し、作戦室にやって来た。

 既にパイロットやフジのサブマリーナたちが居て、お互いの健闘を称えあっている。

 そこに俺たちやスパロー大将などの幹部が現れたので、嫌が上にも興奮状態となる。

「みんな、良くやった。あのままだと、いくらミズホでも海中に引き摺り込まれる可能性があった。それがみんなの力で助かった。礼を言う」

 スパロー大将が指示台に立って言う。

 次に俺が立った。

「負傷した者も居たが、それも回復している。みんな無事だったのが一番だ。さあ、我々の家へ帰ろう」

 全員がしんみりとして聞いている。

 俺の話が終わった後にスパロー大将が、もう一度言う。

「ああ、そうだ、一つ言い忘れた事があった。

 第一砲塔から最初に大砲をぶっ放したのは、ご領主さまだ。

 あれがあったおかげで、あのタコが離れた。もし、離れなければ攻撃の手段がなかったから、タコの近くまで行って大砲をぶっ放した、ご領主さま、ホーゲン、ウォルフ、ポールには感謝しようではないか」

「「「おおっー」」」

 あっ、いや、それ程の事はやってないから。弾を込めたのはポールだし、発射ボタンを押したのはホーゲンとウォルフだし、俺はアリストテレスさんの指示を中継しただけなんだけど。

「私たちは今回、何も出番がなかったニャン」

「ほんと、ただ見てただけだワン」

 そう言って来たのは、ミスティとミントだ。

「なんだ、出番が欲しいのか?それなら案があるぞ。ちょっとマリンも来てくれ」

「なんでしょうか。シンヤ兄さま、うん、うん、ええ、はい、分かりました。あっ、アヤカちゃんたちも来て」

「何?マリンお姉ちゃん」

 マリンはアヤカたちに何をさせるつもりだろう?

 作戦室から食堂に祝賀の場所を移して、パーティになった。

 そのパーティ会場に、扉を開けて入って来たのはマリンたちだ。

 どこにあったのか、ミニスカートのステージ衣装を着ている。

「はい、では、サクラシスターズによるミズホステージをやっちゃいます。

 今回は全メンバーがいないので、フォローとして、キバヤシ3姉妹が入ります」

 アヤカたちがバックダンサーとして、後ろで踊る事になった。

「まあっ、アヤカたちったら」

 ラピスが止めようとするが、そのラピスを俺が止めた。

「いいじゃないか。俺もアヤカたちの踊りを見たい」

 ミズホの食堂でのコンサートはエルバンテ海軍の伝説となった。

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