第251話 サザンランド行き
「それで、お前たちに慰労して来て貰いたい」
俺は娘たち3人を呼んで、事情を説明した。
「お父さま、私たち3人でサザンランドに行ってきます」
「後見人にはアリストテレスさんと、エリスを付けよう。あと、ビビも連れて行っていいぞ」
「キャ、やった!」
「旦那さま、あの子たちで大丈夫でしょうか?」
ラピスはタケルを抱いて、心配そうだ。
「大丈夫さ。エリスはともかく、アリストテレスさんが居る」
「ちょっと、『エリスはともかく』ってどういう意味よ?」
「いや、他意はない。痛っ」
そこへこの人が駆け込んで来た。
「婿殿、聞いたぞ。サザンランドへ行くそうじゃな」
「ご隠居さま、どこからその話を…?」
「アヤカたちが来て、そう言っておった。当然、儂も行くからな」
「あ、いや、ご隠居さまは既に引退した身、サザンランドへは長旅になりますので、ご自愛した方が良いかと……」
「婿殿、人を老人扱いするでない。ラピスも何か言ってくれ」
「私も旦那さまに賛成です」
「なんと、お前も婿殿側に就くというのか。お前が小さい時に、寝小便したのを始末してやったのに、恩を仇で返すのか」
ラピスが、顔を真っ赤にして反論する。
「そんな小さい時の事を言わなくても、いいじゃないですか」
「良いな、儂も行くからの」
なんか、水戸黄門みたいになってきた。
これじゃ、助さん、格さんをつけなきゃなるまい。
「と、言う訳でな、ご隠居さまと一緒に行ってくれないか?」
「分かりました、お供致します」
俺が頼んだのはホーゲンとウォルフだ。
二人は学院を卒業し、今では軍隊に入っている。
軍隊の中でも親衛隊という領主直属の部隊だ。
今回、ポールは学院を卒業していないので、学業に専念することになる。
「ご領主さま、もう一人連れて行っても良いでしょうか?」
「ポールはだめだぞ。あいつはまだ学生だ」
「いえ、ポールではありません。学院からの同級生で、同じ親衛隊に配属されたゴウという者です。
彼は猿人で、身が軽く使えると思います」
それは風車の弥七じゃないか。
まさか、八兵衛もいるんじゃないだろうなと思っていたが、八兵衛たちがいた。
『たち』というからには複数な訳で、マシュード、ネルジット、アムル、シノン、ハイドラたちだ。
エルバンテ翁の世話役として、お共に加わる事になった。
1週間後、支援物質を満載したムサシは俺たちの娘たちとエリス、アリストテレスさんとご隠居一行を乗せて、サザンランドに向けて出港した。
「ブォー、ブオー」
角笛が2回鳴る。
タグボートに曳かれたムサシが、ゆっくりと桟橋を離れて行った。
ラピスとミュは、心配そうな顔をして見送っている。
「ミュママ、行ってきまーす」
アスカが甲板の上から、笑顔で手を振る。
「ラピスママ、行ってきまーす」
ホノカも同じように手を振る。
「病気に、気を付けるのよー」
「生水は、飲んだらだめよー」
どこの母親も子供を心配するのは一緒だ。
ご隠居たちも甲板に出て居るが、ラピスは子供の方が気になるみたいだ。
ムサシがサン・イルミド川の流れの中に出ると3本マストに帆が張られ、下流に向かって速度を上げて行く。
この後もアカギ、ミカサ、ナガトが支援物資を積み次第、順次サザンランドに向けて出港する予定だ。
ところで、アカギ、ミカサ、ナガトはアルフレッドが社長を務めるキバヤシ造船が手掛けた純国産の大型船だ。
ヤマトを参考にして建造したので、大きさなどはヤマトと同規模になっている。
そして現在建造を開始したのは、長さがヤマトより大きい船になる。
他にもアジェラとイルミティバの間に運河を造っている。
サン・イルミド川はアジェラとイルミティバ間は川が大きく蛇行している。
また、川幅も狭くなり、急流となるため、上流のイルミティバから来る事は出来るが、下流のアジェラからはイルミティバに行く事はできない。
急流が蛇行する「ローレライ」と名付けられたその箇所は、上流から来るにも難所であり、船乗りたちに恐れられている。
そこに真っ直ぐな運河を造る。
だが、高低差が50mほどもあるため、普通の運河では、それこそ、ウォタースライダーのようになってしまう。
そこで、パナマ運河のようにいくつかの閘門を設け、船を段階的に上げていく方法を取った。
一方、研究所では魔石の謎について、解明する研究を開始した。
魔石を動力に使えるのは、何故なのか。
魔石を動かしたり、停止したりできないか。
それを解明できれば、いろいろな物への応用ができるはずだ。
そんな時、ルルミから2番目の報告が届いた。
「使者が到着し、ご領主さまのご返事を伝えたようでございます。
早速、モン・ハン公は出発の指示を出しました。ご同行者には第一夫人のミッシェルさま、ご才女のエリザベートさま、それとローランドご夫妻も見えます」
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