第252話 モン・ハン公
「エルバンテ公、この度はご会談の席を設けて頂き、ありがとうございます」
ルルミの伝令が戻って1か月後、モン・ハン公一行がエルバンテ公都に到着した。
「モン・ハン公、この度は遠路はるばる、まことにご苦労さまでした。まずはゆっくりとされるのが、良いでしょう」
謁見の間で応対する。
「ところで、ご隠居さまはどちらに?」
「まだまだ元気で、今は孫たちと一緒にサザンランドに行っております。
サザンランドで災害が発生したとかで、私の代理として支援物質の運搬と被災者の慰労も兼ねています」
「おおっ、なんと、そのような多忙の時にわさわざ、お相手頂き感謝いたします」
「それでは、これより歓迎の食事を用意してあります。その後、私室の方で詳しいお話をしましょう」
私室で話をする前にエリスに連絡を取り、アリストテレスさんを連れて来て貰った。
この部屋には、俺とアリストテレスさん、ヤーブフォン宰相が席に着いている。
その後ろには大臣や嫁たちが居る。
モン・ハン公側は領主であるモン・ハン公とローランド伯爵夫妻、それに第一夫人のミッシェルさんと娘のエリザベートさんが席についた。
会談はいきなり、核心から入った。
「エルバンテ公、我がモン・ハン領をエルバンテ領に併合して頂きたい。
それをお願いするために、今回はこちらに参りました」
「まずは理由をお聞かせ頂いても、よろしいでしょうか?」
「私たちには男子が居ません。そして、娘もこのエリザベートだけです。
そのためには、婿を入れなければなりませんが、実のところ、これと言った男子がなかなかおりません。
実は一人居たのですが、この前結婚したので、あきらめました」
「それはもしかして、ちょっと天然の男性でしょうか?」
それについては、ローランド伯爵が答えた。
「ちょっとアホな子供です」
やっぱり、エルハンドラ、お前親からもアホ呼ばわりされているよ。
「モン・ハン領は小さいとは言え、王国への南からの敵の侵入を防ぐ、大事な場所になります。
そんなところに得体の知れない婿を入れる訳にはいきません。
一番いいのは、エルバンテ公の第4夫人として頂く事ですが、それは奥方さまが了承しないでしょう」
「そうですわ」
「その通りです」
「ご主人さまに従います」
嫁たちが口を挟む。
「と、なると後は、併合して頂くしかないと考えました」
「ですが、それは貴族の方々が許しはしないでしょう」
「ですので、これを知っているのはここに居るメンバーだけです」
「エルハンドラとの結婚の手は、残されていませんか?」
「エルバンドラは、既にミドゥーシャを第一夫人として届け出ています。
今からエリザベートさまを届けても第二夫人になります。
それは貴族連中が、納得しません。
それならば、我が家の息子を婿にすべきと言って来るでしよう」
その件については、ローランド伯爵が答えた。
この世界、多夫多妻制が認められている代わりに離婚はない。第一夫人となると何があっても第一夫人の座が入れ替わる事がない。
「もう一つ、懸念があります。併合となると暴動とかクーデターとか起きませんか?」
「可能性はありますが、領民はこの前エルバンテ領で行われたお祭りを見に来ており、エルバンテと一緒になる事に抵抗はないでしょう。
それにエルバンテの技術力も知っています。
暴動が起きれば、王国からエルバンテに平定の命令が出るでしょう。
そうなると、貴族は武力ではどうしようもなくなります。
平定されれば、反逆を働いたものは死罪となり、生きてはいけませんから、併合されても今のまま領地が残るなら、併合を納得する貴族も多いと思います」
モン・ハン公が一気に話す。
「なるほど、一理あります」
「それに我が領地は小さい。当然貴族の領地も小さい。となれば、反逆しても勝つ見込みはありません」
「なるほど、ですが、その理由だけでは、併合の理由が弱いと思います」
「さすがに、エルバンテ公です。私は領主としてやっていく事に疲れました。
正直、我が領は小さいのに王国に近いので、何かあると王国から命令が出ます。
それに他領からもかなり無理難題を言われます。
娘とてそうです。『我が領の第二夫人として寄越せ』だとかはまだいい方です。
そのような領地の運営にほとほと嫌になったのです」
なるほど、精神的に無理と言う事か。
このまま続けていくと、うつ病になるかもしれない。
「それで、併合した後はどうしますか?」
「もし、よろしければ、エルバンテかトウキョーに邸宅を頂き、のんびり暮らしたいと思います」
「お気持ちは分かりますが、エルバンテでは働ける者は働かなければなりません。もし、エルバンテに来られるのなら、その覚悟でお願いします」
「それは理解しています。こちらに来た際は、娘も働く覚悟でいます」
「それで、これからどうしますか」
「これから、モン・ハン領に帰って、もし併合の話が漏れると、もう2度と出る事は出来ないでしょう。ですから、このまま、エルバンテ領に居させて下さい」
「そうなると、モン・ハン領はどうなりますか?」
「ああ」
モン・ハン公は顔を覆っていた。
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