第250話 使者
「エルバンテご領主さまには麗しく…」
「あの、そういうのはいいから、本題をお願いします」
通常、領主は使者と直接言葉は交わさないが、俺は謁見の間で、使者に話しかけたので、使者はびっくりしている。
「あ、あの、そ、それでは主『エル=モン・ハン』からの言葉をお伝えします。
モン・ハン領は、エルバンテ領と併合致したいとのことです。
それに伴い、主『エル=モン・ハン』は、エルバンテ領を訪問したいので、会談についてご配慮いただきたいとのお願いでございます」
なんと、モン・ハン領もエルバンテになると言うのか。
「話は承った。しばらく宿舎にて待機頂きたい。関係者と調整して回答する」
使者は一時、引き下がった。
アリストテレスさんに加え、ヤーブフォン宰相、各大臣、議長を領主邸に緊急招集し、モン・ハン領の申し入れを協議する。
「モン・ハン領主の良からぬ企て、という事はありませんか?」
大臣の誰かが言う。
「その可能性は低いだろう。向うからこちらに来ると言うのだ。当然、人質も持って来るだろう」
これも大臣の一人が言う。
「過去の付き合いから、モン・ハン領主は信頼できる人だ。そのような事はあるまい」
俺も悪意のある申し入れでないと考えている。
「モン・ハン領主に息子はいないと聞いています。ならば、娘を嫁に入れて関係を築くのが普通です。
併合となるとモン・ハン領を無くする事になるのではないですか?併合する理由が分かりません」
若い大臣だろうか。最もな意見だ。
こんな時、娘を嫁に入れて家と家の関係を強固なものにする。
併合となると、モン・ハン家そのものが無くなってしまう。
「俺もそう思う。そこには理由があるのかもしれない。それはモン・ハン公と会ってみないと分からない」
会議の結果は、「モン・ハン公」と会う事に決まった。
使者に領主邸に来るように伝令を出す。
伝令によると使者は従者に指示して、エルバンテやトウキョーの調査をしていた。
始めて見る列車や、キチンバス、ショッピングセンターは特に詳しく調査しているようだ。
この使者は宿でのんびり返事を待っていた訳でなく、自分で出来る調査を行っていたあたり、無能ではないようだ。
「それでは、モン・ハン公の申し入れについて、返事をしたい。
お会いする事としよう」
「はっ、それでは早速、主に伝えたいと思います」
使者は帰っていった。
「ルルミを呼べ」
ルルミが来た。
これまでの事をルルミに説明する。
「それで、モン・ハン領の事を調べて来るのが任務だ」
「はい、分かりました。一つ、お願いがあります。ミストラルをこの仕事に加えて頂きたいです」
「分かった、了承しよう」
ミストラルは殺人者の妻という事で肩身の狭い思いをしていた。
最初はエイさんの工場で働いていたが、腕にある羽根は仕事をするには不向きだ。
そういう事もあり、工場にも居場所がなかった。
なので、俺が侍女兼秘書として引き取っていたが、掃除をすると置物を羽根に当てて落すので、返って他の侍女の仕事が増える事になってしまう。
だが、情報収集役なら良いかもしれない。
ヴェルサルジュ領平定の時は、彼女の情報収集能力は非常に有益だった。
人には適材適所というのがある。
ミストラルは、ルルミのところに居る方が適任かもしれない。
俺の指示により、ルルミたちはモン・ハン領に向けて出発した。
ところで、ミストラルの子供のウェンディだが、今では学院に馴染んでいる。
世話好きのカリーと馬が合うようで、いつも二人一緒だということだ。
カリーは正義感が強い。殺人犯の娘としていじめられるウェンディを放っておけないというのもあるのかもしれない。
ルルミがモン・ハン領に出発して1週間後、早くも最初の伝令が帰ってきた。
「モン・ハン領に到着し、ざっと調べましたが、特におかしいという所は見られません。ただ、一つ、不思議なのは、誰も併合の事について語らない事です。
これだけの事ですから、領民の口に上っても良さそうなものですが、誰一人として話題にしていません」
「うむ、どうやらそこに何かありそうだな。ルルミには引き続き探るように伝えてくれ」
伝令は再びモン・ハン領へ出発していった。
伝令がキチンでモン・ハン領に出発するのと入れ替わりで入ってきたのが、ムサシ船長のハンドラルだ。
「会長、サザンランドのグンネル国ですが、史上最大と言われるタイフーンが来て、大変な事になっています。
もともと、イルヴァ川の中州だったので、領土が水没し、人々は小山や高い木の上に避難しています。
水は徐々に引いていますが、水が引いても土地はダメでしょう。
それにゴム工場も使えません。
我々も輸出品を荷揚げ出来ないので、取り敢えずベネルットに荷揚げしました」
被害はグンネル国だけでなく、周辺国にも及んでいるとの事だ。
ヤマト、ムサシ、シナノだけでなく、外洋航路に使用できる船を総動員して災害救助に出航させる。
ヤマト、ムサシ、シナノの建造後に更に3隻進水させており、船名はアカギ、ミカサ、ナガトと名付けた。
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