第246話 ビビ
1年間ほどエルバンテとトウキョー、それにキバヤシ領を行き来して会長それに領主としての仕事をこなしていった。
その間に変わったことがいくつかある。
一つはペガサスに名前がついた事だ。
ラピスが「名付けは父親の仕事です」とか言って、俺にペガサスの名付けを押し付けてきたのだ。
「別にペガサスでいいじゃないか」
と言ったところ、嫁たちだけでなく、娘たちからも非難を浴びてしまい、結局名前をつける事になった。
そう言えば、キチンにだって、名前がついている。
それも、元は俺がホーゲンに命じたものだったので、俺の逃げ道はなくなった。
例え、子供でなくても名前を付けるのは悩むものだ。
こうなれば、現代にあった車の名前でもいいか。
いろいろな車の名前が頭に浮かぶ。外車もありだな。うーん、「ベンベ」とかダメか、なら縮めて「ビビ」だな。
「えっと、ペガサスの名前だが、『ビビ』でどうだ?」
「『ビビ』ですか?ええ、いいと思います」
ラピスは賛成のようだ。
「あら、いいじゃない、『ビビ』ね」
エリスも反対ではないようだ。
ミュは何も言わないという事は反対ではないという事だ。
「ビビ、いい」
「うん、いい」
「パパ、いい」
娘たちにも好評だ。
ペガサスの名前は「ビビ」に決まった。
早速、娘たちが馬屋に居るペガサスに名前が決まった事を報告しに行く。
「あなたの名前が決まったの。名前は『ビビ』よ」
ペガサスは脚を踏み鳴らした。名前は気に入ったみたいだ。
ペガサスの馬具は最初は馬の馬具を改良したものをメルゲ爺さんが作ってくれたが、今では専用の馬具になっている。
色もペガサスに合わせた白色になっており、遠くから見ると白馬一体のように見える。
そのペガサスに乗るラピスの乗馬服も白がメインなので、ペガサスに乗っている姿は白一色だ。
ラピスは1日1回は、ペガサスでトウキョーやエルバンテの空を駆けている。
最初の頃は驚く人々も多かったが、今では住民も慣れて来ており、ラピスがビビで空を駆けていても、公女さまが今日も飛んでいるとしか思わない。
最初の頃こそ、「公女さまがペガサスで飛んでいる姿を見れば寿命が10年延びる」と言っていた住民も、今ではそんな事を言う人はいない。
娘たちはラピスが交代でビビに乗せている。
娘たちはビビに乗ると、「キャッ、キャッ」と喜んでいるので、高所恐怖症ではないようだ。
そんな時、一つの喜びがあった。ラピスが懐妊したのだ。
これに一番喜んだのはエルバンテ公だ。
早速、蒸気機関車でエルバンテからトウキョーにやって来た。
最も、開通当初から孫の顔を見る目的で、しょっちゅう来ており、今では領主さま列車とまで言われているぐらい乗っている。
「婿殿、婿殿、ラピスの事は本当かの?」
「はい、どうやらそのようです。エリスの鑑定でも懐妊との事です」
「そ、それで、男かの、女かの?」
「いや、まだ細胞分裂が始まったばかりなので、そこまでは分かりませんが…」
「細胞分裂?なんじゃそれは」
「えっと、何でもないです」
この時代、生命の不思議については、そこまで解明されていない。
と、なると問題はビビの事だ。
朝と夕方、ビビはラピスが散歩を兼ねて連れ出していた。
今では、公女さまがペガサスに乗って空を駆けるのを見ると、寿命が10年延びると言われて、王国中から観光客が来る。
それが見れなくなると、観光資源の一つが無くなってしまう。
ところが、意外なところから手が挙がった。
「パパ、心配する事ないわ。私たちがラピスママの代わりにビビの散歩をするから」
娘たちが言って来た。
俺がビビに乗ろうとしてもビビは乗せてくれないが、娘たちはラピスと一緒に乗っている。
「お前たち、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
そう言うと、馬屋からビビを連れて来た。さすがに馬具は取り付けられないので、厩仕が取り付けを行う。
まだ一人では乗れないので、これも厩仕に手伝って貰う。
馬具は一人用だが、子供なので3人が乗れた。
一番前はアヤカで、それに捕まっている2番目がアスカだ。そして、アスカに捕まっているのが、ホノカだ。
アヤカが手綱を振るとビビが翼を出し、大空に駆けあがって行った。
父親としては、落ちないかと思い、ヒヤヒヤしているが、本人たちは楽しんでいるようだ。
トウキョーの街の上まで行き、しばらくすると戻ってきた。
「どうだった?」
「「「楽しかった」」」
「今度はアスカが操る番だよ」
「順番だよ」
娘たちの中で、ルールが決まったらしい。
だが、俺は未だに一人では馬にも乗れない。
完全に娘たちに先を越されてしまった。
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